ALOHA外科クリニック院長 新谷 隆 先生
「手術が必要」と医師から告げられた瞬間、多くの人は入院をイメージして「何日くらい仕事を休まなければいけないだろうか」といった心配が頭をよぎるのではないだろうか。
ところが今、外科手術の一部は“日帰り”で完結する時代が到来しつつある。「脱腸」として知られる鼠径(そけい)ヘルニアは、入院せずに外来での腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)が可能な病気の1つだ。
東京都品川区にあるALOHA外科クリニック 院長の新谷 隆(にいや たかし)先生は、消化器・一般外科の経験を生かし、腹腔鏡を用いた日帰りの鼠径ヘルニア手術を積極的に行っている。こうした「入院しない外科手術」は、日常生活のペースを崩さずに治療を終えたい人にとって新しい選択肢となるはずだ。
鼠径ヘルニアは、足のつけ根にある鼠径部の筋肉が弱くなり、そこから腸の一部が押し出されることで膨らみや違和感が生じる病気です。自然に治ることはないので、根治のためには手術が必要となります。ただし、必ずしも入院が必要な手術ではありません。
鼠径ヘルニアの手術には、大きく分けて2つの方法があります。1つは足のつけ根を直接切開する方法。もう1つは、私たちALOHA外科クリニックも行っている腹腔鏡下手術です。
腹腔鏡下手術は視野が広く、両側にヘルニアがある場合も一度の手術で対応できます。低侵襲(ていしんしゅう)かつ日帰りで行うことができ、最近では実施できるクリニックも増えてきました。
午前中に手術を行えば、その日の午後には帰宅できるでしょう。一般的にクリニックは小規模な医療機関とみなされがちですが、鼠径ヘルニアの日帰り手術に対応する施設の中には、安全性に配慮した全身麻酔の管理体制を整えているところも少なくありません。
日帰り手術には大きく3つのメリットがあります。まず1つ目は、手術当日に帰宅できること。手術時間は1時間程度で、術後の経過観察を経て、その日のうちにご自宅に戻って休んでいただけます。
2つ目は、5~12mmほどの小さな穴を3か所開けるだけなので傷が非常に小さく、術後の痛みが軽減されること。メスを大きく入れるわけではないので、切開法に比べて傷あともほとんど気にならないという特長があります。
そして3つ目が、社会復帰までのスピードが早いことです。実際のところ、翌々日には職場復帰できる方が多いと思います。
さらに、入院を伴わないため院内感染のリスクを抑えられるほか、入院にかかる費用が不要な点も日帰り手術の利点といえます。なお、体調や手術内容によっては、入院での経過観察が必要となる場合もあります。
鼠径ヘルニアは、時間とともに膨らみが大きくなる傾向がある病気です。初期の段階では「何か出っ張っているけど、痛くないし自然に治るかも」と放置してしまいがちですが、悪化すると腸が戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」という状態になることもあります。この場合は腸管切除の手術が必要になり、場合によっては入院期間が長くなってしまうこともあります。だからこそ、症状が軽い早期のうちに治療を行うことが大切です。
日頃の忙しさから治療を後回しにしてしまいがちな病気ですが、早めに治療を行うほうが体への負担や金銭的な負担が少なくなります。こうしたことを多くの方に知っていただき、早期治療を行う方が増えるとよいと思います。小さな違和感でも、まずは一度専門医にご相談ください。検査してみて手術が不要と判断されれば、それはそれで安心につながるでしょう。
私が鼠径ヘルニアの日帰り手術に強い思いを持つようになったのは、母校である昭和大学(現・昭和医科大学)の消化器・一般外科で、腹腔鏡下手術を一から学んだ経験が土台となっています。患者さんの体への負担を最小限にし、よりよい治療を提供するという外科医の信念を学びました。
また、鼠径ヘルニアの患者さんを診るなかで、「仕事を休めない」「家族の世話がある」といった理由から受診や手術をためらう方が多いことを実感しました。そうした方々が無理なく治療を受けられるようにしたい――その思いが、日帰り手術への取り組みにつながっています。
私が目指すのは、その人の日常生活をできるだけ保てるような医療です。これからの社会ではそういった医療がもっと必要になると思い、クリニックの診療体制と安全基準を整えてきました。今後も、患者さん一人ひとりの生活に寄り添いながら、日帰り手術という選択肢を丁寧に届けていきたいと思います。
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