連載クリニックの現場から

保存療法と手術の間にある選択肢――膝の再生医療「PRP療法」とは

公開日

2026年06月08日

更新日

2026年06月08日

更新履歴
閉じる

2026年06月08日

掲載しました。
A707fa209d

じんないクリニック 院長/水野 裕太 先生

膝の痛みに対する治療は、運動療法や薬物療法などの保存療法から開始し、症状の進行に応じて手術が検討されるのが一般的だ。しかし、保存療法だけでは十分な改善が得られず、かといって手術を検討する段階とも言い切れないといった、判断が難しいケースも少なくない。

近年、このような段階にある患者さんの治療選択肢の1つとして、PRP療法(多血小板血漿療法)と呼ばれる再生医療が検討されるようになってきた。

このPRP療法とはどのような治療法で、どのような患者さんが検討対象となるのか。大阪府茨木市のじんないクリニック院長・水野 裕太(みずの ゆうた)先生にお話を伺った。

中高年に多い変形性膝関節症とは

膝の痛みは、半月板損傷や靱帯損傷(じんたいそんしょう)、免疫の異常によって生じる関節リウマチなど、さまざまな要因で起こりますが、中高年の方に多くみられるのは変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)です。

変形性膝関節症は、膝関節の軟骨がすり減ることで痛みや動かしにくさが生じる病気です。加齢に加え、体重の増加や膝に負担がかかる動作の積み重ねなどが関与すると考えられています。

なお、画像上の変形の程度と痛みの強さは必ずしも一致するわけではありません。生活への影響度や活動レベルによって治療の考え方は変わるため、患者さん一人ひとりの状態を踏まえた評価が重要になります。

治療はまず保存療法から検討される

変形性膝関節症の治療は、通常、保存療法から開始します。保存療法とは、手術を行わずに症状の軽減を目指す治療の総称です。筋力を維持・強化するための運動療法や、鎮痛薬や湿布・関節内ヒアルロン酸注射などの薬物療法、生活動作の見直しなどが含まれます。軽度から中等度の症状では、こうした治療によって痛みが軽減し、日常生活を維持できる場合もあります。

一方で、保存療法だけでは十分な改善が得られないケースもあります。その場合には、関節鏡手術や骨切り術、人工膝関節置換術といった外科的治療が検討されます。

ただ、実際の診療では、手術に踏み切ることに迷いを抱く患者さんは少なくありません。手術や麻酔への不安を抱えている方もいれば、入院や術後のリハビリテーションによって生活に影響が出ることを懸念する方もいます。また、医師の立場からしても人工関節の耐用年数などを踏まえ、比較的若い方では手術の時期を慎重に検討することがあります。

このように、保存療法のみでは十分な改善が得られず、かといって手術にはためらいがある患者さんは少なくないのです。

新しい治療法――PRP療法について

こうした、手術を受けるべきか決めかねている患者さんの治療選択肢の1つとして検討されるのが、再生医療の1つであるPRP療法です。

PRP療法では、患者さん自身の血液を採取し、遠心分離によって血小板を多く含む血漿成分(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)を抽出し、それを膝関節内に注射します。血小板には、体内で組織修復に関与するとされる成長因子が含まれており、PRP療法はこうした血液成分を利用して炎症反応や痛みの軽減を目指す治療です。変形が進んだ症例ではPRP療法による改善率がやや低下する傾向があるものの、重度の症例においても約半数の患者さんで改善が認められたという報告もあります。

ただし、PRP療法は変形した骨や関節構造そのものを元に戻す治療ではなく、あくまで痛みの軽減や関節機能の改善を目的とした治療として位置づけられています。また、公的医療保険が適用されない治療法(自由診療)であり、有効性や安全性についてはエビデンスを蓄積している段階です(2026年6月時点)。治療効果や持続期間には個人差もあり、全ての患者さんが同様の結果を得られるわけではありません。関節の変形が高度で、骨同士が接触しているような状態では、十分な効果が得られない場合もあります。

さらに、自由診療として提供されるために、費用や治療回数は医療機関によって異なります。こうした点についても、事前に十分理解したうえで検討することが重要です。

気になったら、まずはかかりつけの整形外科に相談を

再生医療は、単に「手術を避けたい」という理由だけで選ぶものではありません。医師が年齢や日々の活動レベル、生活スタイル、画像所見、痛みの程度などを総合的に評価し、その患者さんにとって適切な治療方針の1つとして検討していくことが大切です。

長引く膝の痛みに悩んでいるなら、まずは整形外科を受診し、現在の膝の状態を評価してもらうことが重要です。そのうえで、保存療法を継続するのか、手術を検討するのか、あるいは再生医療という選択肢があるのかを整理していくとよいでしょう。

地域の身近なクリニックであっても、大学病院に所属するなど専門性の高い医師が診療に関わっており、治療方針について相談できる場合もあります。大きな病院でなければ専門的な相談が難しいとは限りません。まずは通いやすい整形外科で相談し、必要に応じて今後の選択肢を整理していくことも1つの方法です。

それぞれの治療で目指すことや、治療ごとの限界は異なります。そうした点を医師と確認しながら、自分に合った方法を検討していくことが重要です。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

クリニックの現場からの連載一覧