高田馬場駅前メディカルクリニック 院長/廣澤 知一郎 先生
健康診断の便潜血検査で「陽性(要精密検査)」と判定されても、精密検査を受けないままでいる人は一定数存在する。厚生労働省の「地域保健・健康増進事業報告」(2023年度)によると、要精密検査と判定された人のうち、実際に精密検査を受けた割合は約70%とされている。裏を返せば、約3人に1人が受診に至っていない状況だ。
この現状について、高田馬場駅前メディカルクリニック院長の廣澤 知一郎(ひろさわ ともいちろう)先生は、便潜血陽性という結果を軽視せず、原因を確認することが重要だと指摘する。
消化器外科医として20年以上診療に携わってきた同氏に、便潜血陽性を放置することのリスクについてお話を伺った。
便潜血陽性をきっかけに受診される方の中には、痔が関係しているケースが少なくありません。痔には主に3種類あります。排便時にいぼが外に出る症状(脱出)を伴う痔核(じかく)(いぼ痔)、排便時の強い痛みが特徴の裂肛(切れ痔)、肛門(こうもん)の周囲にトンネル状の通り道ができる痔ろう――これらはいずれも出血をきたし得る病気です。
痔の多くは日常生活の改善などで症状が落ち着くこともあり、「大したことはない」「そのうち治るだろう」と考えて受診を先送りにする方も多くいらっしゃいます。しかし、肛門からの出血は痔以外の病気でもみられることがあります。大腸ポリープや大腸がん、潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)などもその一例です。そのため、痔と同じような症状でも、他の病気が潜んでいないかを確認することが重要だと考えています。
実際、「痔だと思う」と受診された方に内視鏡検査を行った結果、大腸ポリープや大腸がんが見つかるケースもあります。
出血を伴う病気はいくつかありますが、その中でも特に注意が必要なのが大腸がんです。大腸がんは早期の段階では自覚症状が乏しいことが多く、症状がはっきりしないまま進行する場合もあります。それだけに、見逃されやすい病気の1つです。実際、日本では大腸がんは死亡数・罹患数共に多いがんの1つで、2024年の推計では女性で死亡原因の第1位、男性で第2位とされています。罹患率は年齢とともに増加し、特に50歳以降で大きく増加する傾向があります。
「症状がないから様子を見たい」と感じるのは自然なことです。しかし、便潜血検査で「陽性」と判定された場合は、手遅れにならないためにも、その原因を確認するための精密検査をぜひ受けていただきたいです。
便潜血検査で「陽性」となった場合に重要なのは、「どこから、なぜ出血しているのか」をきちんと確かめることです。そのために広く行われている精密検査が、大腸内視鏡検査です。肛門から内視鏡を挿入し、大腸全体を直接観察することで、がんやポリープなどの病変の有無を確認し、必要に応じて組織を採取して詳しく調べます。
また、検査でポリープが見つかった場合には、その種類や大きさなどによっては切除することも可能です。このことは、将来の大腸がんの発症リスクを回避することにつながります。
便潜血検査で陽性と判定されたとき「どうせ痔だろう」「症状がないから大丈夫」と考えたくなる気持ちはよく分かります。しかし、「陽性」という結果は、大腸のどこかで出血を含む異常が起きている可能性を示しています。日々、消化器の病気と向き合ってきた私としては、このことを決して軽視してほしくないのです。
精密検査の結果、病気でなければ安心につながりますし、もし異常が見つかった場合でも、早い段階で対応できる可能性があります。
便潜血陽性という結果が出たときこそ、ご自身の体の状態を正しく知る絶好の機会と捉えてはいかがでしょうか。
なお、便潜血検査が「陰性」であっても、大腸がんやポリープが見つかることがあります。「陰性だったから大丈夫」と考えず、年齢や家族歴なども踏まえながら、大腸内視鏡検査を積極的に検討することも大切です。内視鏡検査に不安がある場合は、検査の流れや前処置などについて近くの医療機関に相談してみてください。
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