いわくらクリニック 院長/岩倉 亮 先生
「久しぶりに体を動かしたら、腰や膝を痛めてしまった」——そんな経験はないだろうか。体が負荷に慣れていない状態で急に大きな動きを行うと、ケガにつながることがある。
兵庫・丹波篠山市のいわくらクリニックの院長で、日本整形外科学会の整形外科専門医・認定スポーツ医、日本スポーツ協会のスポーツドクターなど複数の資格を持つ岩倉 亮(いわくら りょう)先生は、「ケガの予防に重要なのは、“普段から体を動かす習慣”を身につけること」だと話す。
一般生活者のみならず、アスリートの診療にも携わった経験のある同氏に、ケガを防ぐための体づくりについて伺った。
私が診療している兵庫県丹波篠山市は農業が盛んな地域で、田植えや稲刈り、特産品である黒豆の収穫時期になると、腰や膝の痛みを訴える方が増える傾向があります。こうした方々の多くは、繁忙期以外には日常的に体を動かす機会が少ないようです。急に作業量が増えることで体への負担が大きくなり、痛みにつながっているのだと考えられます。
このようなことはスポーツの場面でも見られます。運動習慣がない状態で急に激しい運動を行うと、筋肉や関節などの組織が負荷に対応しきれず、ケガにつながることがあります。
こう考えると「ケガを防ぐには運動などせず、おとなしくしているのが一番」と思われるかもしれませんが、実は逆です。
私はこのことを、よく「車のメンテナンス」に例えて説明します。車は定期的に動かし、適切に整備しなければ性能が低下していきます。人間もまた意識的に体を動かさなければ、筋力や柔軟性、バランス能力などの身体機能が落ちていきます。加齢に伴い、筋力の低下に加えて腱や靱帯の弾力性が失われ、関節の可動域も狭くなります。
一方、日常的に体を動かし続けていれば、筋肉や関節は徐々に負荷に適応していきます。この「適応」こそがケガの予防につながります。また、継続的に体を動かすことは、骨粗鬆症の予防や認知機能の維持に寄与することも報告されています。習慣的な運動は生活の質(QOL)の維持や、健康寿命を延ばすことにもつながるのです。
とはいえ、忙しい毎日のなか、久しぶりに運動する場面は誰にでもあるでしょう。そのようなとき意識してほしいのが、次の3点です。
1つ目は、「数日前から軽いウォーキングやストレッチで体を慣らしておく」ことです。いきなり本格的に運動するのではなく、数日前から少しずつ体を動かすことで、筋肉や関節が負荷を受け入れる準備が整います。
2つ目は、「当日は15分程度のウォーミングアップを行う」こと。体が温まっていない状態での急な動きは、筋肉や腱への負担が大きくなります。軽いジョギングやストレッチで体温を上げてから始めましょう。
3つ目は、「“昔の自分”を基準にしない」ことです。「学生時代は走れたから」という感覚が、現在の体力とのギャップを生み、ケガにつながることがあります。まずは今の自分の体力に合った運動から始めることが大切です。
また、運動後に2〜3日経っても痛みが引かない場合や、腫れ・熱感を伴う場合は、筋肉痛ではなく腱や靱帯、骨に問題が起きている可能性があります。「歳のせい」と我慢せず、早めに整形外科への受診を検討してください。
継続的に運動することが大切だと分かっていても、「運動は大変そう」と感じる方もいるでしょう。しかし、必ずしも負荷の高いトレーニングだけが必要なわけではありません。
散歩でも体操でもダンスでも、自分が楽しいと感じられるものが長く続きます。私自身もスポーツが好きで日課として体を動かしていますが、「楽しいからこそ続けられる」と実感しています。種目や負荷の大きさにこだわる必要はまったくありません。楽しみながら体を動かすことが、結果として体の機能低下の予防につながると思います。
また、エレベーターではなく階段を使う、バス停1つ分を歩いてみる、テレビを見ながら足踏みをするなど、日常の中の小さな工夫でもかまいません。
こうした積み重ねが、5年後、10年後の体を変えていきます。ケガのない健康的な生活は一朝一夕には手に入りません。まずは「今日、10分だけ運動してみよう」——その一歩から、ケガ予防への取り組みは始まります。
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