連載リーダーの視点 その病気の治療法とは

バセドウ病治療の「やめどき」に新指標。再発リスクを抑えるための、薬の“極めて細やかな”減らし方とは

公開日

2026年04月03日

更新日

2026年04月03日

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2026年04月03日

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甲状腺機能亢進症の代表格であるバセドウ病。動悸や手の震え、急激な体重減少といった症状に悩まされるこの病気の治療は、薬物療法によるコントロールが一般的だ。

薬物療法において、これまでは休薬後の再発が課題とされてきた。そうしたなか、薬をやめる直前にごく少量まで丁寧に減量することが、再発リスクの低下につながる可能性を示した日本発の研究が注目を集めている。

その研究を行った隈病院の宮村 慧太朗(みやむら けいたろう)先生に、詳しくお話を伺った。

隈病院 宮村慧太朗先生
隈病院 宮村慧太朗先生(隈病院ご提供)

バセドウ病は「自分を攻撃してしまう」ことから始まる

バセドウ病という名前は耳にされたことがある方もいるかと思いますが、その正体が自己免疫疾患の1つであることはあまり知られていません。本来は外敵から体を守るはずの免疫が、どういうわけか自分の甲状腺を刺激する「抗体」を作ってしまい、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまうのです。

原因は完全には解明されていませんが、遺伝的な素因に加えて、ストレスやウイルス感染、あるいは出産といった大きな変化がきっかけになると考えられています。特に女性に多く、男性に比べると約5倍の頻度で発症します。動悸や手の震え、汗をかきやすい、食べているのに体重が減るといった症状が典型で、これらを放置して悪化すると甲状腺クリーゼという多臓器不全を招き命に関わることもある、決して軽視できない病気なのです。

治療はまずお薬から。その先の選択肢

バセドウ病と診断された場合、基本的には全ての患者さんがまず薬物療法の適応になります。お薬でホルモンの合成を抑え、数年かけてじっくりと症状が落ち着いた状態である寛解を目指すのが一般的な流れです。

ただ、お薬には副作用が出る可能性もありますし、今回の研究のテーマでもある再発が多いという課題もあります。そのため、薬物療法でなかなか改善が見込めない場合や、副作用で継続が難しい場合には、放射線で甲状腺細胞を壊すアイソトープ治療や、甲状腺そのものを摘出する手術を検討することになります。これらは根治性が高い一方で、治療後は基本的に一生涯、甲状腺ホルモンを補うお薬を飲み続ける必要があるという側面も持っています。

論文が示した、休薬前の最小維持量の重み

薬物療法を続けていくなかで、ホルモンの値が安定してくると、いよいよお薬をやめる休薬を検討します。しかし、これまでの日本のガイドラインでは、5mgという用量のお薬を1日おきに飲むところまで減らして、半年ほど安定していれば休薬を検討するというのが標準的な基準でした。

そういった状況のなか、2021年に日本で2.5mgというさらに小さな用量のお薬が登場しました。これにより、今までよりもずっと細かくお薬の量を調整できるようになったのです。今回私は、お薬をやめる直前の最後のひと絞りをどこまで少なく丁寧に行うかで、その後の再発率がどう変わるかを、当院の過去の患者さんの投薬データをもとに調べました。

解析の結果、お薬をやめる直前の量を2.5mg1日おきと、従来よりさらに少ない量まで段階的に減らしていたグループは、従来の基準(5mgを1日おき)でやめていたグループに比べて、1年後の再発リスクが驚くほど低くなっていました。リスクの度合いで言えば、従来の45%程度と半分以下にまで抑えられていたのです。

今日からでも臨床に変化を起こせるインパクト

このアプローチでは、特別な新薬や高価な機械を必要としません。すでに日本で広く使われているお薬の減らし方を少し変えるだけで、目の前の患者さんの再発への不安を減らせる可能性があるのです。

実は世界に目を向けても、アメリカやヨーロッパのガイドラインには、この最小維持量についての具体的な記載はまだありません。日本発、そして隈病院のような甲状腺の病気の治療を専門とする病院での膨大な治療データがあったからこそ、このさじ加減の重要性を世界に発信することができたのだと感じています。
この研究は今後のバセドウ病臨床に影響を与える可能性があると海外の甲状腺専門家からも高く評価され、大きな反響をいただくことができました。

決して自分の判断で薬を減らさないで

皆さんに一番強くお伝えしたいのは、再発率が下がるというデータが出たからといっても、自己判断でお薬を減らすことは絶対に避けてほしいということです。バセドウ病の治療は、お薬の量と体の反応のバランスが非常に繊細で、医師の判断が重要になります。

今回の研究で示した少量を長く続けるというアプローチも、あくまで主治医が検査結果を見ながら、慎重に判断して初めて成り立つものです。もしこの記事を読んで興味を持たれたら、まずは信頼できる主治医の先生に記事を見せて相談してみてください。

数十年先の安心を確かめる段階へ

今回の研究では、お薬をやめてから1年間の経過を評価しました。これは国際的な寛解の定義に沿ったものですが、実際にはバセドウ病との付き合いはもっと長くなるものです。私は今後5年、10年という長いスパンで見たときにも、この丁寧な減量が有効であり続けるのかを確かめていきたいと考えています。

バセドウ病の治療は、単に数値を正常にするだけではなく、患者さんが将来にわたって不安なく日常を過ごせるようにすることこそが本当のゴールです。そのためにも、私たちはさらに妥当性の高いデータを積み上げ、よりよい治療の形を追求し続けます。

専門家を頼り、対話を大切にして

最後になりますが、もし動悸や疲れやすさなど、甲状腺の病気を疑うようなサインを感じたら、1人で悩まずにぜひ専門の医療機関を訪ねてください。甲状腺の病気は、適切な治療を受ければ元どおりの生活を送ることができるものがほとんどです。

私たち医師も、患者さんの不安に寄り添い、納得して治療を続けていただけるよう全力を尽くします。今回のような新しい知見が議論され、広まっていくことで、バセドウ病と共に歩む皆さんの未来が、より明るいものになることを願っています。
 

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