連載リーダーの視点 その病気の治療法とは

支援ロボット「ダビンチ」と「ANSUR:アンサー」の特徴と、それを活かした手術とは

公開日

2026年04月02日

更新日

2026年04月02日

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2026年04月02日

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松波総合病院 外科部長兼消化器外科部長 木村真樹先生(松波総合病院ご提供)

この30年で、消化器がんをはじめとする外科手術の風景は大きく変わった。かつて主流だった開腹手術から、傷が小さく体への負担が少ない腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)へと進化し、さらに現在ではロボット支援手術が急速に普及している。

岐阜県内で地域医療を担う松波総合病院も、早くからこの分野に注力しており、現在、世界的に広く使われているロボット「ダビンチ」に加え、国産の「ANSUR」という新しいコンセプトのロボット手術支援システムを導入している。

同院の外科部長兼消化器外科部長である木村 真樹(きむら まさき)先生に、このANSURの特徴やメリット、すでにダビンチがありながらANSURを導入した理由などを伺った。

進化を続ける消化器外科治療。開腹手術から腹腔鏡、そしてロボットへ

消化器外科手術の世界は、この30年ほどで劇的に変わってきました。
以前は開腹手術が主流でしたが、日本では1990年代に腹腔鏡下手術が広がり、体への負担が少なくなりました。そしてその後、ロボット支援手術が登場しました。
そのロボット支援手術も、年々進化を続けている状況です。

特に日本は、今行われているロボット支援手術の方法をよりよいものにすることに長けているように感じます。胃や大腸、膵臓(すいぞう)や肝臓の手術など、各分野に新たな細かい工夫をされる先生方がいらっしゃって、肝臓の手術で生まれた工夫が他の臓器の手術に応用できるといったように、どんどん技術が変わっていくのです。
大きな病院やがんセンターといった施設で生まれた技術や考え方を、私たちも学会などで勉強し、自分のロボット支援手術に取り入れます。すると、半年で手術方法の何かが変わっている。その進化のスピードには、本当に目覚ましいものがあります。

ダビンチの強みは「精密な動きと再建」

まず、私たちも早くから導入しているダビンチについてお話しします。ダビンチの特徴は、通常の腹腔鏡の手術と比較して人間の手より遥かに動きの自由度が高いことです。手振れもなく安定した術野を維持して、精密な動きができることもあり、細かな再建(失われた臓器や組織を新たに作ること)や縫い合わせる作業が得意なロボットだといえるでしょう。
たとえば私たちは、消化器外科手術の中でも難易度が高く、複雑な手術として知られている膵頭十二指腸切除に2024年からダビンチを使用し始めたのですが、非常に安定して縫合ができています。

また、ダビンチを含むロボット手術で驚くのは、術後の患者さんの回復の早さです。
ロボットが精度の高い安定した操作を可能にするため、開腹手術のみならず従来の腹腔鏡下手術と比較しても患者さんの体にかかる負担を抑えられることが多いのです。その結果、術後の回復が従来の腹腔鏡下手術よりも早くなると考えています。
実際、手術をすると炎症反応の指標である白血球やCRPといった血液検査の値が上がるのですが、大腸の手術でダビンチを使うと、白血球は正常のまま退院まで経過することも珍しくありません。CRPも非常に低い値で推移するケースが増えています。これは、胃でも同様の実感があります。

このような体への負担の少なさは、術後の合併症のリスク軽減にもつながるため、がんの集学的治療において非常に大きな意味を持ちます。
たとえば進行したがんでは、手術だけでなく、手術前後に抗がん薬治療を組み合わせます。その際、抗がん薬で体力が少し落ちた状態でもロボット手術で合併症なく速やかに退院できれば、その後の再発を抑えるための抗がん薬治療も早く導入が可能です。このようなアプローチは、今のがん治療のトレンドの中で重要な役割を果たしていると感じています。

ANSURで得られる「術野の安定」

当院ではダビンチのほかに、ANSURという手術支援ロボットを導入しています。当院を見学に訪れる医師の方からは、「ダビンチは素晴らしいロボットなのに、なぜANSURも導入したのか」との質問をいただくことがあります。
その理由は、ANSURがダビンチとはまったく異なる概念のロボットだからです。

ダビンチは術者がコンソール(操縦席)に座り、ロボットのアームを操作して切除・縫合まで行うのに対し、ANSURは術者が直接、患者さんの術野(手術する医師が直接目視できたり触ったりできる範囲)に入って、自分の両手で手術を行います。
ANSURの役割は手術を直接行うことではなく、術野の安定化と内視鏡カメラ操作の自動化です。具体的には、前述のダビンチと同様にロボットのアームが組織をしっかり保持して術野を広げます。そしてもう1つのアームが内視鏡カメラをちょうどよい位置で固定し、執刀医が今まさに操作している手元や、見たい患部に向けて、術者の意図どおりに動いてくれるのです。

ANSURによる手術風景(松波総合病院ご提供)
ANSURによる手術風景(松波総合病院ご提供)


これの何がよいかというと、従来の腹腔鏡下手術だと、助手がカメラや道具を動かすときに、どうしても手ブレなどが起きて手術の視野(術野)が崩れてしまうことがよくありました。また、見たいところを見せてくれなかったり、思いどおりに動いてくれなかったりというストレスも生じます。これらは人間が行うことですが、どうにもならないことでした。

しかしANSURでは、ロボットが一度術野を確立すると動くことがありません。私たちは「大きな術野」と「小さな術野」という言い方をするのですが、ロボットの腕で大きな術野を作り、その中で自分の両手で仕事をして、また次へ進むという流れが、非常に効率的に進められます。人が行う場合のような術野の崩れによるやり直しが非常に少ないため、とても有用なロボットだと考えております。

ちなみに、ダビンチは術野を作るのに腕が1本しか使えませんが、ANSURは2本使えるという利点もあります。手術の内容に応じて、カメラだけの役割として使ったり、腕を1本使ったり、2本使ったりという自由度があるのもANSURのメリットといえるでしょう。

また、ANSURで大腸がん手術を行った場合でも、当院では先ほど述べたダビンチ手術と同様に、術後の血液検査の結果が従来の腹腔鏡下手術よりもよいケースが多くなっています。
ANSURはロボットではなく医師が執刀しますが、ANSURが作った安定した術野で手術を行うことは患者さんの体への負担を減らすことにつながっていると実感しています。

ANSURが変える「現場」と「働き方」

ANSURの導入は、私たちの病院の働き方改革にも直結しました。

導入当時、私たち消化器外科医は6人体制だったのですが、午前中に外来の業務が集中するため、人手がいる手術を全て午前中に完了させることができず、どうしても午後や夕方、時間外にずれ込むことがありました。

ANSURの操作は技術的には執刀医が1人でできるため、手術室さえ空いていれば、胆嚢摘出や鼠径ヘルニアといった手術を1人で完結しやすくなりました。
これにより、これまでは医師や看護師、コメディカルスタッフの人数が揃いやすい午後や夕方に行わざるを得なかった手術が、午前中の隙間時間に完了させられるようになり、少人数の外科チームにとって非常に大きなメリットになったのです。

「1人で手術をするのは怖くないか」というご質問もあるでしょう。
もちろん手術は安全が第一ですから、誰でもよいわけではありません。ANSURでの1人での手術は、日本内視鏡外科学会の技術認定や、ダビンチのプロクター資格といった、技術的な裏付けのある外科医が担うべきだと考えています。私たちも1人での手術は安全性をしっかり担保して行っています。

2つのロボットを使いこなす理由 「患者さんのため」の選択肢

ANSURを導入したことで当院に起きたもう1つの変化が、手術の内容によるANSURとダビンチの使い分けです。

細かい再建が必要な膵頭十二指腸切除や胃切除には、精密な動きが得意なダビンチを。術野の安定化と現場の効率化が大きなメリットとなる胆嚢摘出術やヘルニア手術にはANSURを。このように、患者さん一人ひとりの病状や手術の特性に合わせたロボット支援手術の選択肢を持つことができるのです。

手術支援ロボットの種類はこれからも増えていくはずですし、AIの搭載も進められており、技術の進化は止まらないでしょう。私たち外科医はそうした新しい技術や考え方を常に学び、患者さんにとってよりよい手術を提供するために積極的に取り入れていく姿勢が大切だと考えています。
 

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