連載リーダーの視点 その病気の治療法とは

長引く咳や息切れを放置していませんか。呼吸器専門医が伝えたい、検査と診断の大切さ

公開日

2026年08月03日

更新日

2026年08月03日

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2026年08月03日

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姫路医療センター 呼吸器内科医長 水守 康之先生

長引く咳や息切れを、「年齢のせい」「風邪が長引いているだけ」と考えて様子を見る人は少なくないだろう。
しかし、その背後には肺がんや間質性肺炎といった重大な呼吸器疾患が隠れている可能性がある。

呼吸器疾患は、同じような症状でも原因が多岐にわたり、正確な診断には画像検査や専門的な検査を組み合わせた総合的な判断が欠かせない。インターネットやAIで情報を得られる時代だからこそ、適切なタイミングで医療機関を受診することが重要だ。

姫路医療センターの呼吸器内科医長、水守 康之(みずもり やすゆき)先生に、呼吸器の病気の診断の難しさとその先にある治療につながる検査・診療のあり方について、自らの経験を交えながら解説していただいた。 

自己判断に潜むリスク

呼吸器の病気の症状は、「たばこを吸っているから息切れして当然」、「歳だから咳が出るのは仕方がない」と、見過ごされてしまうケースが少なくありません。しかし、同じような症状の裏側に、がんのような病気が隠れていることがあります。 
ここで理解していただきたいのは、呼吸器の病気の場合、さまざまな検査や患者さんの生活環境を把握して、初めて診断や治療につながるものも多いということです。

呼吸器の病気の診断のプロセスを説明していきましょう。
近年はインターネットやAIを使ってご自身の症状を調べる方もおり、ご自身の体に関心を持つという意味では素晴らしいことだと思っています。AIに相談すると医師でも盲点になるような鑑別疾患を挙げてくることがあり、私自身も参考になる部分が確かにあります。
ですが、AIがどれほど進化しても、さまざまな検査が行われていない状態では正しい判断を下すことはできません。場合によっては複数の画像検査や血液検査などを経て、初めて正しい診断への道筋が見えてきます。

X線検査の重要性と、精密検査としてのCT検査

多くの方は、咳が続く場合にまず近くのクリニック(診療所)へ行かれると思います。クリニックで行われるX線検査(レントゲン検査)は、肺の異常を指摘するための非常に重要なツールであり、実際に多くの呼吸器疾患はこの最初のX線検査を契機に発見されます。症状としては「咳」であっても、その原因となる病気はただの風邪、ほかの感染症、腫瘍(しゅよう)や喘息、間質性肺炎など、実にさまざまであり、初期診療でのX線検査が果たす役割は極めて大きいです。
しかし一方で、病気によってはX線の写真だけでははっきりと分からないこともあります。これが呼吸器の病気の診断の難しいところで、X線検査で少しでも異常が疑われる場合には、ぜひCT検査など、より精密な検査ができる医療機関を受診していただきたいのです。

X線検査だけでは確定診断が難しいケースは、呼吸器の医師なら誰でも経験があるのではないかと思います。私にも忘れられない出来事があります。
私が当院とは別の診療所に勤務していた頃のことです。そこでは画像検査はX線検査しかできず、X線の写真から、たばこを原因とした肺気腫と判断したことがありました。その患者さんには禁煙を強くすすめたものの、それ以上の検査や治療は不要としていました。
その3か月後に私は当院に異動し、その方が偶然受診されました。そこで改めてCT検査を行ったところ、なんと縦隔(胸の真ん中の部分)という、X線の写真ではほかの臓器と重なって死角になりやすい場所に隠れた肺がんが見つかったのです。
診療所に勤務していた際、その環境において全力を尽くして診断したつもりでしたが、X線検査だけでは見えない場所に病気が潜んでいる怖さを思い知らされ、大きなショックを受けました。この経験から、クリニックでのX線検査を入り口として大切にしながらも、異常があれば確実にCTなどの精密検査につなげることの重要性を改めて痛感したのです。

10年来、喘息として治療を受けていた患者さんのこともよく覚えています。その方は喘息の治療薬を吸入すると一時的に症状が治まるため、長年同じ治療を続けていました。地元のクリニックから紹介された地域の中核病院でCT検査を行ったところ、気管支の中に大きな良性腫瘍が見つかり、当院へ紹介されました。その腫瘍が空気の通り道を塞ぎ、喘息のような症状を起こしていたのです。当院で気管支鏡を用いて腫瘍を取り除くと、長年続いていた症状はすっきりと治まりました。このように、X線の検査だけで診断するのではなく、一歩踏み込んだ検査によって正しい答えにたどり着くことが、患者さんのその後の人生を大きく変えることもあるのです。 

一歩踏み込んだ検査とは?

一歩踏み込んだ検査としてCT検査のことを述べましたが、他にも検査はあります。その代表的なものを説明しましょう。 

肺がんなどの疑いがある場合に行う気管支鏡検査(経気管支肺生検)は、口から細いカメラを入れて鉗子で肺の組織をつまんでくるものです。これによってがんの有無が確定するだけでなく、採取した細胞から遺伝子の変異などを調べ、どのような薬が合うかというがんの性質まで見極められるようになりました。
さらにPET-CT検査(放射性薬剤によって体内のがん細胞を可視化して撮影する検査)を組み合わせることで、病変が全身へどのように広がっているかを把握し、病気のステージを決定することができます。 

また、肺の組織が硬くなって呼吸がしづらくなる、呼吸器の代表的な病気である間質性肺炎は、近年、クライオ生検という検査が診断に威力を発揮するようになっています。これは器具の先端をマイナス45度まで冷やし、組織を凍らせてくっつけて採取する検査です。
間質性肺炎では肺の組織をきれいな形で採取することが、病気の診断や治療において大きな鍵となります。しかし、従来の器具ではゴマ粒ほどの大きさしか取れず、肺の全体像を把握するのが困難でした。クライオ生検は小豆ほどの大きさで、しかも潰れていないきれいな状態で組織を持ち帰ることが可能です。これによって肺の組織の構造をより詳しく調べることができるため、診断の精度が高まりました。 

一歩踏み込んだ検査としてはほかにも、高分解能CTによるより詳細な画像検査や、間質性肺炎の背景にある膠原病(こうげんびょう)などを見極めたり、過敏性肺炎の診断の手がかりとするための抗体を調べたりする特殊な血液検査などがあります。X線検査のみでは診断がつきにくい場合、あるいは診断後も改善しない場合は、これらの検査を行い、そのデータを多角的に組み合わせて何が原因かを探っていきます。

気管支鏡検査で使うカメラ
気管支鏡検査で使うカメラ

検査結果をどう読み解くか

検査後に重要なのが、どう検査結果を読み解くかです。この作業をより正確に行うためには、関連する医師たちの連携がポイントになります。

その連携のあり方として、当院のやり方を紹介しましょう。当院では特に間質性肺炎においては、クライオ生検で採取した組織や高分解能CTをもとに、呼吸器内科だけでなく、放射線科、病理診断といった異なる専門性を持つ医師たちが集まり、カンファレンス(専門家が集まって情報共有をし、診断や治療方針を検討する会議)を行っています。
また、呼吸器内科と呼吸器外科、そしてリウマチ科(膠原病内科)の医師は同じ部屋で机を並べており、ほぼ毎日相談を行っています。日頃から顔を合わせて気軽に意見を交わせる風通しのよさがあるので、1つの視点にとらわれることなく多角的な意見を出し合いながら診断を突き詰めることができていると考えています。

また、検査機器に習熟することも必要です。当院では3Dデータを活用して気管支の中を立体的に確認するバーチャル気管支鏡を、国内でもいち早く取り入れています。この技術によるナビゲーションと、肺の隅々までアプローチできる極細径の気管支鏡を組み合わせることで、早期の小さな肺がんでも高い診断率を実現しています。他にもさまざまな新しい機器を導入しており、さらに国内有数の豊富な症例数があるからこそ、医師は高い技術を維持できています。精度の高い正確な診断を行うことが、患者さんをより早く、適切な治療へ導くための大切な鍵となります。

 

生活環境がもたらす影響

実は、呼吸器の病気の診断では、検査と並んで重要なことがあります。冒頭でも述べたように、患者さんの生活環境を把握することです。
生活環境把握のために、私たちは患者さんのご自宅を訪問する環境調査を行うこともあります。土や水回り、エアコンのカビ、あるいは鳥の羽毛やフンといった日常生活の要素が、病気を引き起こしたり悪化させたりする原因になり得るからです。 

ある70代の女性は、定年後に古民家へ移り住んだことをきっかけに激しい咳が出始め、間質性肺炎を発症されていました。
ご自宅に伺うと、家の中にはカビが発生していました。カビが原因で肺に炎症を起こしている状態だと考えられたため、思い切って引っ越しをご提案したところ、簡単な決断ではありませんでしたが応じてくださり、新しい住まいへ移られました。すると咳は消え、通常であれば進行しやすいとされる病気であるにもかかわらず、診断後10年以上が経過した今でも間質性肺炎はほとんど悪化せずにお元気で過ごされています。
生活環境に潜む原因を取り除くことは、時に薬を飲むこと以上に効果的な治療となり得るのです。

正確な診断が、患者さんの未来につながる

以前、私が勤めていた病院の上司から教わり、今でも大切にしている言葉があります。

「病気がなくても人は病院に来る。しかし病院に来るには理由がある。その理由を治すのも私たちの仕事だ。」

この言葉を胸に、私たちは日々診療にあたっています。

ですから、もし咳や息切れが続いている場合は、ぜひ一度、かかりつけの内科の先生でレントゲン検査を受けてください。そして、検診や診療所(クリニック)で異常を指摘された際には、「大したことはないだろう」と決して放置せず、詳しい検査ができる病院を受診していただきたいと思います。詳しく検査をして何も大きな病気が見つからなければ、少なくとも「重大な病気ではない」ということが確認でき、それが病院に来た理由に対する1つの答えになります。もし病気が見つかったとしても、早い段階で診断につながれば、その後の治療の選択肢を広げられる可能性があります。検査は「病気を見つけるため」だけでなく、ご自身にとって最適な治療方針を立てるためにも大切なものです。どうか遠慮せず、お近くの医療機関のドアを叩いてください。
 

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