連載慢性期医療の今、未来

超高齢社会の医療制度改革でスウェーデンに学ぶ―異なる社会を“鏡”に自国を見直す重要性

公開日

2023年04月05日

更新日

2023年04月05日

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2023年04月05日

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スウェーデンの社会制度から日本を見直す【後編】

福祉国家・スウェーデン社会の各制度や仕組みの根底にある「スウェーデン・モデル」は、医療・福祉分野でも礎となっており、その思想は日本とは大きく異なります。6年間にわたり外交官としてスウェーデンに在勤された、元駐スウェーデン日本国特命全権大使/日本赤十字社常任理事の渡邉芳樹先生は、高齢化が進む日本の福祉改革ではスウェーデン社会を“鏡”とし、そこに映る日本の姿から自国の在り方を見つめなおす重要性を指摘します。鏡たるスウェーデンの医療・福祉政策とは――。

※この記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム」によるものです。

医師と患者の平等性が重要視されるスウェーデンの医療

基本的な仕組み

英国コモンウェルス・ファンド2014によれば、スウェーデン医療は公平性や効率性に優れている一方、アクセス効果、連携、患者中心度では他国に劣っていると評価されています。スウェーデン医療は医療従事者と患者さんが対等な立場であることを基本とし、労働条件は医師もほかの職業と同じものが定められていて、原則週40時間労働、時間外労働は賃金ではなく休暇として給付されます。そのため医師の休暇は非常に長いことが特徴です。正直なところ、スウェーデンの医療は「患者さんに優しい医療」とは言えませんが、患者さんも医師を個人として尊重し、納得したうえで医療サービスを受けています。医師たちが疲弊せず万全な状態の中ででき得る最高の医療を提供する、医学的に難易度の高いケースに意欲的に取り組むというのが、スウェーデンにおける医療の考え方なのです。

一方、日本の医療現場の多くは「医療従事者が患者さんに奉仕する」といった考え方が根強く、多くの医師はどれほど疲弊しても患者さんを診ますし、患者さんは高頻度に通院します。これは、スウェーデンの医療とは対照的といえるでしょう。

2019年にOECDが発表したデータによると、日本は年間1人当たりの外来受診回数が12.6回とOECD加盟国の中で第2位でした。対するスウェーデンは、1年に2.8回の受診と主要国の中では最少です。

医療への“待機期間解消”の課題とケア保証制度

スウェーデンの医療では、かつては医師に会うのは首相に会うのより難しいともいわれていました。大病院中心主義で身近な医療サービスは地区保健師のみに委ねられていました。大病院の医師が自宅でこっそり自由診療することもみられました。今では地域にプライマリーケアセンターが整備されてきましたが、実際に診察や治療を受けるまでに患者さんが長い時間待たされる「待機期間」は驚くほど長く、その解消がいつも大きな課題です。この対策として患者さんに一定期間内の診察や治療を保証するケア保証制度を設けており、2019年の改善を経て▽受診を希望するとまず地区診療所に即日電話などでコンタクト、その後3日以内に医師などによる診察▽専門医の診察や治療が必要と判断された場合は、地区診療所による紹介状の交付から90日以内▽治療内容の決定から実施まで90日以内――などと定めています。これでも日本の常識では考えられないでしょう。専門医が診察後も5週間の長い夏休みをまたいで治療を始めるのは普通のことです。

全体としてケア保証の達成度合いは改善傾向ですが、県(ランスティング:Landsting)による格差が生じていたり、個別では長期間にわたって待機しなければならない事案が発生していたりと、予算制約とあいまって課題は残されています。

福祉分野にも根付く自律(立)の精神

スウェーデンでは、原則として医療は介護や福祉に介入しません。介護の場面においても、自律(立)の考え方が根底にあります。スウェーデンでは、体が不自由な人向けの食器や器具が発達していて、最期まで自力で食事を取ろうとする意識が強くみられます。逆に介護者による積極的食事介助や栄養点滴、胃瘻(いろう)は一般にみられません。「最期まで自律して生きる力を保つ」、“自分で食べられなくなったら穏やかに最期を迎える”といった感覚が根付いているようです。

1990年代に高齢者医療介護の制度改革として有名な“エーデル改革”がありました。医療と介護の一体的連携が必要な認知症グループホームなどの施設が廃止され、特別高齢者住宅に切り替わりました。往診・在宅医療や入院という外部医療は最小限、特別高齢者住宅も供給不足、介護職員も不足で、介護は自宅でホームヘルパーと家族で行う方向に変容しています。

これは特別養護老人ホームや老健施設や介護医療院という施設介護に加えてグループホームや訪問看護ステーション、特に看護小規模多機能型居宅介護などの整備が進み医療と福祉の連携を強めている日本とは大きく異なる体制です。コロナ禍においても、「国は自律(立)した個人のためにある」という国家個人主義の考え方は貫かれました。抑止よりも緩和を意識した戦略が取られた結果、スウェーデンでは医療崩壊が起こりませんでした。ただし、介護と医療が横割りでの運営になっていること、平時から行われている年齢と基礎疾患によるICU入室トリアージによって多くの高齢者が高度医療より緩和ケアに委ねられたことなどから高齢者が十分な医療を受けられず、介護施設で移民の方を中心に多数の死者が出たのも事実です。

スウェーデン福祉の在り方からみえる日本の課題

医療と介護の連携が進んでいる日本にも、スウェーデンとは異なる課題があります。医療と介護の折り重なった部分でサービスを作ってきた日本でも往々にして高齢者に対する救急移送の対応が行われますが、そもそも環境の変化は大きなストレス源です。高齢者の場合、ICUに入ったり緊急処置を受けたりといった、医療を受けるための環境変化自体が持病を悪化させ、時には命に関わるほどの大きな負担になってしまい逆に死亡が増えることもあります。実は救急処置より緩和ケアが求められるケースが多くあります。とはいえ、スウェーデンの介護施設における死者の多さの内実をみると、超高齢社会である日本が批判できるようなものではないのです。なお、今年3月12日のスウェーデン国営テレビのニュースではすでにコロナ禍を卒業しているスウェーデンの超過死亡率(2020~2022年)は欧州諸国でもっとも少ないことが報道されています。

スウェーデン社会を知り、日本の医療の見つめ直しを

PIXTA

(当社購入素材)

他国について学ぶことは、自国の姿を鏡に映すことだと私は考えています。ここまで述べてきたとおり、スウェーデンは自律(立)の考え方が根底にあり、患者と医師を平等な「個人」として捉えながら医療を提供したり、受けたりしています。対して日本では、救える命は救うとして医師が自身の体力の限界まで患者さんに“奉仕”する、またそうでなければ家族や世間が許さないといった状態があるといえる医療制度や医師の働き方も両国では大きく異なりますが、日本は今後、医師の働き方改革やかかりつけ医機能強化のための制度改革が間近に迫り医療提供の現場が大きな変革を求められています。国を越えて外の社会を見つめ、自国の在り方を見つめ直すことは、これからの日本をよりよくするためにも重要なことだと私は考えます。

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