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連載慢性期医療の今、未来

膨らみ続ける財政赤字―社会保障制度の財政不均衡で想定されるシナリオ

公開日

2021年02月15日

更新日

2021年02月15日

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2021年02月15日

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現在、日本の財政赤字は膨らみ続けており、2020年の新型コロナウイルス感染拡大はその状況をさらに加速させました。日本の社会保障制度の特徴や、財政不均衡が続くことで想定されるシナリオとはどのようなものか――。松山幸弘先生(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、豪州マッコーリー大学オーストラリア医療イノベーション研究所名誉教授)にお話を伺います。

財源を赤字国債に依存し大盤振る舞いを続ける日本

諸外国と比して日本の社会保障制度の最大の特徴は、財源を赤字国債に依存しながら大盤振る舞いを続けていることです。

社会保障制度の根幹である「給付と負担のバランス」は国民の選択であり、これがベストという理論上の最適解は存在しません。しかしながら、社会保障制度の優劣を判断する基準となる「レジリエンス(苦境からの回復力)」で見ると、日本の医療制度は赤字国債に依存しているわけですから、レジリエンスは0点という評価になってしまいます。

財政不均衡が続くことで想定されるシナリオ

新型コロナウイルス感染症の影響により、日本の財政赤字はさらに膨らみました。

“現代貨幣理論(Modern Money Theory:略称MMT)”では財政破綻の兆候が見えたときに税率を引き上げればよいということになっているため、MMTを信望して「中央銀行は政府の一部だから日本銀行が買う国債は政府の借金ではない、国債はいくらでも発行できる」と主張する人々がいます。しかし、財政破綻を食い止めるためには消費税率を30〜40%引き上げる必要があるでしょう。現在の政治家にそんな決断をできるとは思えません。

仮にMMTが正しいとすると、日本政府は日銀に国債を買わせた資金で米国債を無制限に買い、財政破綻した際の対策財源を米国に肩代わりさせることが可能ということになります。しかしそんなことをすれば、すぐに日本は国際金融市場から排除されるでしょう。

財政不均衡が続くことで想定されるシナリオ

写真:PIXTA

戦後に実施された預金封鎖を振り返れば分かるように、財政破綻が起これば1900兆円に積み上がった家計金融資産(現金、預金、保険、年金、株式など)を政府が召し上げます。今、日本の超富裕層はこのリスクを現実のものと捉え、家族全員で相続税がない国に移住し始めています。このような流れのなか、政府は2017年の相続税改正において、日本の相続税が免除される条件となる海外移住の期間をそれまでの「5年」から「10年」に延長しました。しかし、それでも超富裕層の海外移住は止まらないと思われます。

いずれにせよ現時点でもっとも可能性の高いシナリオは、国の予算が組めない危機に陥り、現在の社会保障制度が白紙になるということです。

「社会保障制度」はなぜ必要か

人は誰もが、人生の中で病気、障害、失業、生活苦などにより社会的弱者になるリスクを抱えています。社会保障制度の目的は、このような人々を救済すること、別の言い方をすれば「格差是正」です。格差を是正する方法、その柱となるのが、税制と社会保障制度を通じた所得再分配です。

日本における所得再分配は適切に行われているのでしょうか。政府が発表する最新のデータ(2017年)を見ていきましょう。所得格差の程度を示す際、“ジニ係数”という指標を使います。ジニ係数は0から1の間の値で示され、0であれば全国民の所得が均等、1であれば1人が全所得を独り占めしている社会を意味します。日本では、所得再分配前の国民全体のジニ係数が1981年の0.3491から2017年の0.5594に上昇しました。その理由として2つのことが考えられます。第1に、非正規雇用の割合の上昇などにより、勤労者世代の中の所得格差が拡大していること。第2に、所得格差が大きい高齢の方の割合が上昇を続けていることです。このようななかで、税制と社会保障制度による所得再配分により所得再配分後のジニ係数が0.3721に抑えられているのは、評価に値します。

所得再分配の恩恵をもっとも受けているのは誰?

2017年における高齢者世帯の所得再分配前のジニ係数は0.7828と高いです。これは、リタイアした高齢の方の多くが年金収入に依存している一方で、自営業者や農業者、医療機関のオーナーなど、年金以外の収入を維持する人々の存在を反映しています。そして、ジニ係数が0.7828から所得再分配後に0.3688と大きく改善していることから、所得再分配の恩恵をもっとも受けているのは高齢の方であると分かります。

ジニ係数の弱点は、フロー所得しか考慮しておらずストック面での格差を反映していない点です。貯蓄から負債を差し引いた純貯蓄で見た場合、リッチなのは高齢の方です。一方、コロナ禍で混乱が続く経済の中でもっとも困窮するのは勤労世代です。したがって、財源を高齢の方から勤労世代にシフトさせる政策が求められており、75歳以上の高齢者医療費の患者負担割合を1割から2割に引き上げるのは当然といえます。さらに言えば、本来は年齢に関係なく原則3割負担にすべきでしょう。それにより、「本当に困っている人を助けるシステム」を構築・実行していかなくてはいけません。

所得再分配の恩恵をもっとも受けているのは誰?

写真:PIXTA

「持続可能な社会保障制度」への改革案

現行の社会保障制度は、高度経済成長期における楽観的な将来の見通しを前提に設計されたリッチな給付水準です。それを放置し続けた結果、財政の不均衡が生じているのです。さらに2020年からのコロナ禍によって財政危機のレベルが上がりました。そのようななか、公的医療保険の枠組みの中で追加財源を確保する知恵が求められています。

100年後に日本の人口が半減したとしても国民生活を守ることが可能な社会保障制度とはどのようなものでしょうか。私は1998年に経済誌に論文を発表し、その具体案を3つ提示しました。1つ目は社会保障制度全体の財源を年金から医療介護にシフトさせる、2つ目は消費税率を段階的に15%に引き上げ、その際に生じる景気へのマイナスを年金積立金の現役勤労者への返還で相殺する、3つ目は公的医療保険を基礎給付保険と高度医療保険の2階建てにし、高度医療保険の内容については国民に選択権を与える、というものです。

日本は高度経済成長期における成功体験があまりにも大きく、社会保障制度に関して海外などから学ぼうとしていないように見えます。もはやその成功は「過去のもの」と認識し、国民のセーフティーネットとなる制度を抜本的に考え直すべきではないでしょうか。

*松山幸弘先生による「コロナ禍と医療イノベーションの国際比較」についてはこちらをご覧ください。