近年、増加傾向にある救急搬送件数。その内訳を見てみると、高齢者の救急搬送が増加しており、子どもや成人の救急搬送は微減しているのです。現在、救急医療の状況はどのように変化し、また新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)はどのような影響をもたらしたのでしょうか。一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアム(災害時福祉・医療機能存続事業連合体)理事長の有賀徹先生にお話を伺いました。
※本記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム」によるものです。
「救急医療」というと、交通事故などで大きなけがをした方が病院へ運び込まれてICU(集中治療室)で治療に専念する――そんな場面を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし近年その様相が変化してきています。高齢化の進行に伴い救急搬送者の主体は高齢者となり、交通事故やけがよりも「急病」で搬送されるケースが増えているのです。
その変化は、以下のグラフ(図1、図2)に示されています。図1は救急搬送を年代別にしたもので、高齢者の割合は1999年に36.9%でしたが、2019年には60%にまで増加しました。搬送人員の数は増えている一方で、成人の割合は20ポイント近く減っているのです。
さらに高齢者の内訳を見てみると、2014年から2019年にかけて増えているのは75歳以上だということが分かります。
図1
また救急出動件数と事故種別の構成比(図2)としては、1999年から2019年にかけて「急病」の割合が増加しており、一方で「交通事故」が減少しています。急病と分類されている方の中には高齢者が一定数いるでしょうし、そのうちの一部は複数回にわたり救急車を利用することもあるのです。
図2
先のとおり2019年まで救急搬送人員は増加を続けていましたが、COVID-19の影響により2020年にはその数が減少しました(図3)。この背景にはさまざまな要因があると考えられますが、その1つに「医療介入が必要な状況にもかかわらず病院を受診しなかった」あるいは「救急車を呼ぶのをためらった」ケースの増加があるといわれています。
図3
治療が必要なのに病院を受診せず、救急車を呼ばなければ、病状の悪化やその結果として死亡に至るケースが増加します。現に東京都のデータでは、心疾患が原因の病院前心停止(救急車が病院に到着する前に心臓が停止してしまう例)が2020年に増加したことが示されています。心疾患に限らず、あらゆる病気は早めの診断と治療がとても重要です。医療機関の受診を過度に控えることのないようお願いします。
♯7119(救急安心センター事業)をご存知でしょうか。ご自身やご家族が急なけがや病気に見舞われた場合「救急車を呼ぶべきか」「すぐに病院に行くべきか」などの判断に迷うことがあると思います。♯7119は、そのようなときに電話をかけて専門家(医師、看護師など)に相談しアドバイスを受けられるサービスです。
♯7119ではトレーニングを受けた専門家が対応し、電話口で相談者から症状などをヒアリングしたうえで緊急性などを判断します。緊急性が高いと判断された場合はそのまま救急出動が要請され、一方、緊急性が高くないと判断された場合は受診可能な医療機関や受診のタイミングのアドバイスを受けることが可能です。
♯7119は、全国18の地域で実施されています(2021年10月1日時点)。都道府県全域で行われているのが▽宮城県▽茨城県▽埼玉県▽東京都▽新潟県▽京都府▽大阪府▽奈良県▽鳥取県▽山口県▽徳島県▽福岡県――です。また、一部実施されているのは▽札幌市周辺▽横浜市▽岐阜市周辺▽神戸市周辺▽和歌山県田辺市周辺▽広島市周辺――です。また♯7119以外の番号で実施している団体が▽山形県▽栃木県▽千葉県▽香川県▽熊本県――となっていますので、各自治体のホームページなどをご確認のうえご活用ください。
2021年5月に医療法が改正され、国家資格である「救急救命士」の業務範囲が拡大されました。これまで彼らが担う救急救命処置は「病院または診療所に搬送されるまでの間」、つまり病院前までに限定されていました。しかしそれが拡大され、2021年10月から実際に重度傷病者については救急外来(傷病者が来院してから病棟に移動するまで、入院しない場合は帰宅するまで)でも救急救命処置を行えるようになったのです。
このような変化により、今後は従来よりも救急救命士の活躍の場が広がる=救急救命士の資質を活用していくとともに、救急医療現場の負担を軽減することが可能になると期待されています。
写真:PIXTA
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