連載慢性期医療の今、未来

社会とのリアルな接点を維持 新たな介護のあり方「DAYS BLG!」の特徴

公開日

2021年09月07日

更新日

2021年09月07日

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2021年09月07日

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介護保険サービスを利用する人を単に「ケアされる側」にしない、新たなデイサービスの形を模索し、2012年に東京都町田市で通所型介護事業所DAYS BLG!*(以下、BLG)を立ち上げた前田隆行さん。BLGでは利用者さんをスタッフと同じ場所で同じ時間を共有する「メンバー」と呼び、ボランティアなどを通じて社会参加する画期的なシステムを採用しています。BLGの特徴や取り組みについて、前田さんにお話を伺いました。

*DAYS BLG!の由来:DAYS(日々)とBarriers(障害)、Life(生活)、Gathering(集う場)の頭文字、そして!(感嘆符、発信)。毎日の生活場面で生きづらいと思う社会環境が障害であり、その障害を感じている人たちが集い発信することで、生活しやすい社会をつくろう」という意味が込められている。

※本記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム」によるものです。

社会とのリアルな「接点」を維持する

BLGでは、メンバーが有償/無償のボランティアを行い、社会との接点を維持しています。これには当事者と社会、2つの視点で重要なポイントがあります。

まず当事者の視点では、ボランティア活動を通じて社会に貢献する実感を得られるという点です。対価をいただけるお仕事であれば、なおさらその実感は高まります。

もう1つ社会の視点では、メンバーと地域の人々が実際に時間・空間を共有すること。それがお互いの「リアルな接点」になります。実際に関わることで、たとえば「認知症になってもこういう仕事ができるのか」「介護保険サービスを利用する人でもこんなふうに働けるのか」という発見が生まれるでしょう。リアルな接点を維持することで、認知症のある人に対するステレオタイプが払拭される可能性もあります。

ご提供写真

BLGのメンバーが洗車作業を行う様子

有償・無償ボランティア活動と自発的な手伝い

BLGでは、有償・無償のボランティアを14カ所で実施し(2021年8月時点)、有償ボランティアでは、その対価を「謝礼」としてご本人が受け取る仕組みを採用しています。ボランティアの内容は、近隣のカーディーラーでの洗車作業や地域の新聞のポスティング、学童保育での読み聞かせなどです。そのほかに自分が所属する場所のためにできること、たとえば掃除や領収書の整理などを自発的に手伝う習慣があります。

どのようにボランティア活動を行うのかというと、たとえば洗車作業なら1人で全てを行うのではなく、車体に水をかける、屋根や窓を拭く、ボディを磨く、車内を清掃するなど作業工程をいくつかに分解し、数人で分担します。麻痺のある方には難しい作業はほかの人が担当するなどして作業をシェア。大体1日に5〜6台を洗車します。

全ての活動に「選ぶ自由」がある

BLGにおける全ての活動には、メンバー一人ひとりに「選ぶ自由」があります。ボランティア活動をやる・やらないというのもそうですし、食事も一律のものを提供するのではなくご本人が選びます(外食か、自分で作るかなど)。たとえば、猛暑の日に草むしりの予定があったとしたら、誰でも「暑いからいやだな」と思うでしょう。そんなときには「今日は草むしりしません」と決める自由があるのです。

活動上の「ミス」に関する考え方

ボランティア活動中のミスが起こるリスクは当然ゼロではないので、それを念頭に置いた契約や覚書を交わしています。ただ、それは認知症の方だから、という前提ではなく全ての人に共通する一般的なリスクの考え方と一緒です。

たとえば洗車作業では、ディーラーさんが行う場合でも通常年に1回ほどはミスで車体に小さな傷が付くことがあり、それを前提に会社として保険に入っているといいます。私たちが仕事を請け負うときにも同様のリスクを考慮し、同様の保険でカバーできるよう調整していただいているのです。

どのような方が利用するのか

BLGは地域密着型の小規模デイサービスです。要介護認定を受けている方であれば、どなたでも利用できます。認知症をお持ちの方は多いですが、そのほかに高次脳機能障害や統合失調症と診断されている方もいらっしゃいます。施設の定員は13人、登録者数は27人です(2021年8月時点)。

BLGでの1日 大まかなスケジュール

BLGは9時半から16時半までの7時間でサービス提供を行っています。

到着後、まずは朝のバイタルサイン(脈拍、呼吸、血圧、体温など)を測定。血圧が変動しやすい天候の日には「気を付けましょう」と注意喚起を行います。その後、お茶を飲みながらその日の午前に行う活動とお昼ご飯の予定を決めます。皆さん一律のお昼ご飯が出るわけではないので、外へ食べに行くのか、買いに行くのか、自分で作るのかなどを各自決めていただきます。それらが決まったら、午前のボランティア活動です。

お昼前には戻ってきて、事前に決めていたお昼を取ります。「さっきは買いに行こうと思っていたけど、やっぱり外で食べたい」という心変わりがあれば、もちろん変更も可能です。それぞれが思い思いの昼食を済ませた後は、再び集まり今度は午後の活動についてミーティングをします。活動後15時半頃には戻り、お茶を飲みながら1日を振り返ります。

振り返りのポイントは、スタッフ目線の記録ではなく、メンバー本人が感じたことやそのときの感情をそのまま記録するという点です。認知症の症状がある場合、忘れてしまっていることもありますが、その時点の感情を残していただきます。「楽しかった」「充実していた」などのよかった面だけではなく、「つまらなかった」「まあまあだった」などさまざまな感情について記録していただくようにしています。そして振り返りが終わったら、メンバーをご自宅までお送りする、というのが1日の大まかな流れです。

ご提供写真

BLGのメンバーが活動する様子

メンバーが「楽しい」と感じられる環境づくり

「楽しい」と感じられる環境づくりには、いくつかのポイントがあります。

1つ目は、皆さんご自身の病気や体の状態、障害となりうることについて受容されていること。次に、ご本人にBLGを見学いただくことを利用前の条件にしています。というのも、ご家族やケアマネジャー(介護支援専門員)だけが見学して「ここがいい」と思ったとしても、ご本人がどう感じるかは分からないからです。ご本人が知らないところで話が進まないよう、BLGでは必ず利用前にご本人に見学いただくようにしています。

それから、失敗しても責めないことも重要です。これにより、一人ひとりが自分の弱さを開示し合い、素でいられる環境ができると考えます。たとえば誰かが食器をハンドソープで洗っていたとします。そのときに失敗を責めたり怒ったりしたら、ご本人はせっかく自発的に食器洗いをしようとしたのに、自信を失って「もうやらない」という気持ちになってしまいますよね。ですから「ハンドソープでも泡が出るし、手も潤うから一石二鳥だね」と前向きに捉えます。そうやっておおらかに過ごせるのが理想的ですね。たとえ失敗しても責めない。すると「またチャレンジしよう」と前向きな気持ちになれます。

このようなおおらかな環境では、「私は認知症で――」「あ、僕もそうです」とメンバー同士が徐々に打ち解け、仲間意識も生まれていきます。互いに弱さを見せ合い、素でいられるようになるのですね。そうするとデイサービスにいる時間が楽しくなり、BLGという空間が自分の素が出せる「居場所」になるのだと思います。

次のページでは、BLGで出会ったメンバーのお話をお伝えします。

 

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