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新型コロナ第4波は不可避?! 規模抑制に必要な備えは?

公開日

2021年03月29日

更新日

2021年03月29日

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2021年03月29日

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国際医療福祉大学救急医学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長

志賀 隆 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2021年03月29日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

振り返れば、中国・武漢市に滞在歴のある男性が、肺炎症状が改善しないことから検査を受け、2020年1月15日に確定診断がなされて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の日本人第1例となりました。続く1月29日には、武漢から邦人を乗せたチャーター便が日本に到着。その後2月に乗員乗客3711人を乗せたクルーズ船「ダイヤモンドプリンセス号」での大規模な感染が確認されました。我々は1年以上COVID-19と格闘してきたことになります。

この間、感染者数は増減を繰り返して3度目の波がようやく引き、2度目の緊急事態宣言が2021年3月21日で解除になりました。ですが、収束が見えているとは言いがたいのが現状です。今後の希望はワクチンであり、メディカルノートでも詳しく分かりやすい情報を発信しています。緊急事態宣言が明けてリバウンドが懸念される中で、我々はどのような備えをしていくべきかについて考えたいと思います。

不十分な日本の感染対策

ワクチンの有効性は非常に確固としたものと考えられます。医療職への接種が始まり、私も1回目を打ちました。みなさんに感謝をしております。ただ、全国民に行き渡るまでには数カ月から半年以上の時間がかかる可能性があります。

2021年2月に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の改正が行われ、罰則付きで感染拡大防止策が強化されましたが、それでも日本の感染対策はベストとは言えません。ほぼ完全に感染を抑え込んでいる台湾のように、検疫と隔離を厳格に行うなど個人の権利に踏み込むことは、日本ではなかなか難しく、検疫・接触追跡について効果的な対策は限界があります。たとえば、検疫を経て国内に戻る邦人や訪日外国人の方々は2週間の隔離を求められますが、これは義務ではありません(オーストラリアや台湾では義務となっています)。入国前72時間以内に行った検査証明書の提出義務はありますが、どんな検査も感染者を100%検出できるわけではありません。たとえばPCR検査の感度(病気のある人に病気があることを見つけることができる割合)は7割程度が最大ですので、どうしても検疫で全てを食い止めることはできません。したがって、たとえ国内の感染者数が減っても、現状の“水際対策”では海外からの流入が避けられないと考えられます。

オリンピック開催のリスク

東京オリンピック・パラリンピックは、大会組織委員会などが海外からの観客受け入れを断念しましたが、それでも開催となれば選手団や関係者など万単位の方が海外から入国することになるでしょう。また、日本人の観戦が可能となれば、県境をまたいだ大規模な人の移動も想定されます。ここで対策を誤れば第4波の引き金になる恐れもあります。

2月に開催されたテニスの4大大会の1つ全豪オープンでは、選手や関係者はチャーター機で入国したうえで、2週間隔離されました。選手らは調整のために1日5時間の外出が許されましたが、入国時のチャーター機から陽性者が出たケースでは同乗者全員が厳格に外出制限を課されました。

オリンピック・パラリンピックを開催するのであれば、海外からの人の流入と国内の人の動きによって感染が広がらないよう、戦略的なワクチンの使い方を考える必要があるでしょう。それに加えて、法律の整備はおそらく難しいでしょうが、オーストラリア同様の隔離措置を、「努力義務」ではなくしっかり守ってもらうガイドラインの整備が重要です。

変異株の調査と対策が必要

全国の衛生研究所はCOVID-19のPCR検査で陽性となったサンプルの5~10%を抽出して変異株PCR検査を実施。疑い患者についてはサンプルを国立感染症研究所に送り、ゲノムシークエンスといって遺伝子情報の全てを解析して変異があるかどうかや、変異の種類について調べています。そして、その結果は厚生労働省ならびに国立感染症研究所のウェブサイトで随時公表されています。我々が気をつけるべきなのは、それぞれの都道府県によってどの種類の変異株がどれくらい発生しているか、です。

報道などでは最初に変異株が確認された国の名前で呼んでいますが、実際にはどのような遺伝子の変異が起きているかで考えるべきです。なぜなら、ウイルスの変異はどんどん起きていて、ある国の変異ウイルスでも多種多様な遺伝情報の変異がありうるからです。

代表的な変異には「N501Y」変異があります。この変異があると、ウイルスが細胞に入り込む際にくっつく相手である「受容体」によりくっつきやすくなるようです。また、通常の株に比べて感染性や死亡率が高いことが分かっています。ただ、この変異については幸いながらワクチンが効きます。この変異は2020年12月にイギリスと南アフリカで認められました。国内でも報告が増加しつつあり、感染者の大半は渡航歴がありません。イギリスや南アフリカでの感染者の動向から考えると、この変異のあるウイルスが増えればせっかく抑えた感染者数が再度爆発的に増加する可能性が高く、今の段階できちんとしたクラスター対策をしておくことが重要です。

もう1つの代表的な変異は「E484K」があります。この変異があると、今までのウイルスに対してできた免疫の効果が弱まると考えられています。実際に、実験室レベルでは、回復者の血清中にコロナウイルス抗体がある中でウイルスの感染が抑制されにくいことが分かっています。この変異は南アフリカやブラジルで検出されていました。今のところ主流になっていませんが、2020年12月以降に国内でもこの変異が検出されています。

ワクチンの効果や今後の感染の広がりを考えていく中で、変異株の遺伝子情報が今後も必要になるでしょう。検査の陽性率が上がり、変異株の割合も高まっている地域では、都道府県独自の緊急事態宣言などで飲食店の対策、黙食の徹底、家族など同居する人以外とのカラオケや合唱を控えるなどを早期に行う想定でいることが、公衆衛生の観点から必須であろうと考えられます。特にワクチンが効かない、あるいは効果が低下するような変異に関しては、徹底してクラスターをつぶし、小さな芽のうちに摘み取ることが重要です。一度感染者数が増えてしまった場合には第3波のときのように、緊急事態宣言と病床拡大でしか対応方法がありません。そのため、なんとかしてクラスター対策ができるうちにゲノム調査を行いつつ、抑え込みを図ることが必要です。それをしながらワクチンが国民の大多数に行き渡れば、COVID-19制圧が見えてくるかもしれません。それよりも第4波が先に来るか後になるかは、今後の対策と我々の行動にかかっているでしょう。
 

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国際医療福祉大学救急医学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長

志賀 隆 先生

学生時代より総合診療・救急を志し、米国メイヨー・クリニックでの救急研修を経てハーバード大学マサチューセッツ総合病院で指導医を務めた救急医療のスペシャリスト。東京ベイ・浦安市川医療センターでは救急の基盤をつくり、国際医療福祉大学医学部救急医学講座教授に着任。後進の育成にも力を注ぐ。