連載自分を守る!家族を救う!! 家庭の救急知識

“withコロナの夏” 我慢しつつも楽しめる工夫を

公開日

2020年07月30日

更新日

2020年07月30日

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2020年07月30日

掲載しました。
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国際医療福祉大学救急医学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長

志賀 隆 先生

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2020年07月30日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

日本各地に豪雨災害をもたらした今年の長い梅雨も、ようやく終わりが近づいてきたようです。梅雨が明ければ、お待ちかねの楽しい夏がやってきます。ただ今年は、今までとは違った夏になります。そう、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響です。今回は「COVID-19の時代」にどうやって夏を楽しむかについて考えます。

バーベキューや屋外の活動で注意すべきは?

夏の活動といえば屋外。3密の1つは「密閉」ですから、屋外であれば1つ“密”が減ります。少しいいところです。ただ屋外なら絶対に安全かといえば、そうではないでしょう。やはり可能であれば距離を取りたいですね。1mでも効果はありますが2mが理想的です。

夏は開放的な気分になり、大きな声で楽しんだりはしゃいだりしてしまいがちです。しかし、これは3密のうちの「密接」につながります。屋外の方がリスクが下がるのはもちろんです。かといってリスクがゼロになるわけではありません。可能であれば大きな声は出さないほうがいいですね。

楽しい時間にアルコールが加わることもあるでしょう。ただ、酒席だとどうしても声が大きくなったり、距離が近くなったり、マスクを外してしまったりと、クラスターが発生しやすい状況が増えてしまいます。ということでCOVID-19を考えても体のことを考えても、お酒は3杯までにとどめておいた方がよいでしょう。

バーベキュー
写真:Pixta

プールや海はどうしたらいいの?

屋外であればバーベキューと同様に、密接と密集をどうやって避けていくかが大事になります。プールの水は塩素消毒されています。けれども、仲間と水に入って歓声を上げたり、力泳後に激しい呼吸をしたりといった場面でウイルスが排出され、感染につながる恐れは否定できません。海やプールの中でマスクをすることは極めて困難です。そのため、運営側の工夫が必要であると考えます。人と人の距離をとるために入場制限をしているか、手指衛生のための準備がされているか、などが安全性の1つの目安になるかと思います。ただ、水辺のレジャーは通常のアウトドア活動よりも感染リスクが高まる恐れもありますので、重症化しやすい高齢の方や持病のある方は、基本的には避けた方がいいのではないかと思います。

追加でお願いをしたいのは「アルコールを摂取した後に泳がない」ということです。救急医をしていると、若い方の溺死に立ち会うという悲しい思い出があります。亡くなった方の中には、飲酒後に水に入ったことが原因というケースが少なくありません。そして、お子さんにはライフジャケット着用をぜひお願いします。

マスクは?

屋外で距離が保てる場合には、マスクの必要はありません。マスクをすると覆われた部分の湿度も上がりますし、顔の表面の温度も上がります。それによって熱中症になるリスクが上がると考えられます。

一方、屋内で複数人が活動する場合にはマスクをしたほうがいいでしょう。マスクをしていると屋内でも熱中症リスクが上がりますので、エアコンをつけておいた方がいいですね。エアコンには換気の効果はないので、温度管理に気をつけつつ時々は窓やドアを開けて換気を怠らないようにしましょう。28℃近辺の実測室温が推奨されますが、エアコンの設定温度が28℃になっていても、実測温度が30℃程度になっているということもよくあります。設定と実測の差に注意し、こまめに調節しましょう。また、男女で活動に適した温度は異なることも知られています(温度が下がりすぎると女性のテストのスコアが下がるという研究があります)。男女の「設定温度争い」は夏のオフィスなどでよくみられる光景です。お互いの感じ方の差に配慮し、話し合って「適温」の設定をすることがオススメです。

室内の換気の様子
写真:Pixta

熱中症の対策は?

体温が高い状況で「調子が悪い、だるい」と訴えて病院に搬送された場合、我々病院で働く医療職は熱中症を疑う一方、常にCOVID19を考えることになります。そうなると、診療も感染用の場所になります。そして対応するスタッフも個人防護具(PPE)をつけて対応することになります。標準的な装備としては▽ガウン・エプロン▽マスク▽ゴーグル・フェイスシールド▽手袋――などを着用して感染から身を守ります。ご想像通り、これらを身に着けるととても蒸れて、余計に体力を消耗します。ですので、患者・医療者双方が本来必要のないストレスを抱え込まないためにも、今年は例年以上に熱中症予防を頑張りましょう。

基本的には「気温と湿度が高いときには屋外での活動を控える」のが大原則になります。どうしても屋外に出なければならない場合にも、始めは1日あたり1時間ほどにとどめ、少しずつ屋外での活動時間を増やすようにしないと熱中症のリスクが上がります。1日目は屋外1時間、翌日は2時間、翌々日は3時間……といった形で徐々に屋外活動時間を増やします。特に気をつけたいのは、普段ウオーキングやジョギングといった屋外での活動の準備をしてない人が、シーズン初めてのテニスやサッカーなど突然負荷の高い運動をする場合です。熱中症だけでなく、脳卒中や心筋梗塞(こうそく)などの危険性も増えます。

また水分の摂取がとても大事です。屋外での活動では15分に1度、経口補水液やスポーツドリンクのような「塩分の入った水分」をコップ1杯程度摂取するようにしてください。また、1時間に1度、日陰や室内などの涼しいところで休憩をする必要があります。

高齢者では半数以上が住宅で熱中症にかかっていますので、屋内でも油断は禁物です。よくいわれるように、適切に冷房を使うとともに、こまめに水分を取ってください。熱中症予防についてもっと詳しく知りたい方は過去の記事(「熱中症予防は前日から勝負 救急医が教える10の秘策」)もご参照ください。

“withコロナ”の生活は今年だけではなく、来年も続く可能性があります。感染を恐れて閉じこもってばかりの生活を続けるのは限界があります。感染対策に配慮しながら、「我慢する中でも楽しみのある」――そんな夏を、工夫して過ごしていきたいですね。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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国際医療福祉大学救急医学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長

志賀 隆 先生

学生時代より総合診療・救急を志し、米国メイヨー・クリニックでの救急研修を経てハーバード大学マサチューセッツ総合病院で指導医を務めた救急医療のスペシャリスト。東京ベイ・浦安市川医療センターでは救急の基盤をつくり、国際医療福祉大学医学部救急医学講座教授に着任。後進の育成にも力を注ぐ。