インタビュー

人工関節周囲感染(PJI)の原因と症状、治療法-術後の痛みや発熱に要注意

人工関節周囲感染(PJI)の原因と症状、治療法-術後の痛みや発熱に要注意
小林 直実 先生

横浜市立大学附属市民総合医療センター 准教授・整形外科部長

小林 直実 先生

この記事の最終更新は2017年04月26日です。

外傷後や変形性関節症関節リウマチ大腿骨頭壊死症などで関節が変形し、人工関節置換術を受ける患者さんの数は年々増大しています。人工関節置換術は多くの施設で行われている手術ですが、この手術後、ごくまれに置換した人工関節が細菌感染を起こしてしまうことがあります。この状態を人工関節周囲感染(PJI)と呼びます。

PJIが生じる頻度はそれほど高いわけではありませんが、いったん発症すると抗菌薬の投与や洗浄、そして重症の場合は再置換術が必要になるなど、治療に時間がかかる場合があります。また、PJIは自覚症状がないことも多く、診断が難しい疾患ですが、早期診断・治療を行えば、薬物療法や洗浄で治癒できる可能性もあるため、早期診断が非常に重要な疾患といえます。横浜市立大学整形外科講師の小林直実先生に、PJIのメカニズムと原因、症状、治療の選択についてお伺いしました。

人工関節周囲感染(Prosthetic Joint Infection:PJI)とは、人工関節の周囲に感染が起きた状態を指します。人工関節は人工物(インプラント)であり、バイオフィルムとい防御膜のようなものが生成され、細菌に対する生体の防御反応や抗菌薬の効果が働きにくくなっています。この人工関節が何らかの原因菌によって感染を起こすと、徐々に骨融解(インプラント周辺の骨が溶ける)が生じ、人工関節の周辺にゆるみが生じます。そのため、感染を起こした場合は抗菌薬の投与や、場合によっては再手術による治療が必要です。

細菌

提供:PIXTA

原因は主にブドウ球菌などの細菌で、手術中あるいは手術後に人工関節に細菌感染が起こることで発症します。感染のルートとしては、手術中に創部が感染を起こす場合や、手術後に歯周病や虫歯、腎盂腎炎扁桃炎などの菌が血流を介して発症する場合があります。また、糖尿病もPJIのリスクを高めます。

手術中・手術後にPJIが起こる確率は、初回人工関節置換術を受けた患者さんのうち概ね0.5~1%ほどとそれほど高くはありません。しかし、いったん感染が生じた場合はすぐに適切な治療が必要です。

PJIには、術後間もなくして起こる早期感染と、手術後6週~3か月経過以降に感染が生じる遅発性感染(晩期感染)の2パターンがあります。

早期感染は手術中もしくは術後早期の創部(手術する際の傷口)より侵入した菌が原因で起こり、炎症反応の上昇や創部の感染兆候もあるため比較的診断がしやすく、早期に治療をすればインプラントを温存できる可能性が高いタイプです。

一方遅発性感染の場合は自覚症状に乏しく診断が遅れてしまう傾向にあるので、治療が困難になりやすいタイプといえます。

早期感染か遅発性感染かによって、症状の程度に差が現れます。

早期感染では発熱や創部の赤み、痛みなどの局所の自覚症状が確認されやすいです。人工関節置換術後、数週以内で疼痛や熱感を感じた場合は病院を受診してください。

一方、遅発性感染の場合は初期症状や炎症反応が出にくいので、患者さん自身ではなかなか感染に気づきません。遅発性感染の場合でも急性に発症した場合には、はっきりとした感染の徴候がみられる場合もありますが、定期検査でレントゲンや血液検査を行った際に、人工関節のゆるみやCRP(血液検査の項目の一つで体内の炎症反応をみる数値)の上昇が発覚し、感染を疑われるケースもしばしば認めます。

カルテ

このように遅発性感染の場合は自覚症状に乏しいので、PJIは早期診断が困難な疾患といえます。万が一感染が進行し重症化すると治療も難しくなってくるため、PJIを確実に治療するためには、できるだけ早期に確実に診断することが非常に重要となります。感染を見落とさず確実に診断をしていくために、横浜市立大学整形外科では最新の技術を導入して多角的な検査を行っています。詳細は記事2『人工関節周囲感染(PJI)に関わる諸問題―診断法から人工関節再置換術の術式まで』でご紹介していきます。

PJIの治療では感受性のある抗菌薬の全身投与が最も重要で、原因菌が確認された場合、すぐに抗菌薬の投与および局所の洗浄を行います。早期感染であれば、これらの治療で症状が改善され、人工関節のインプラントを温存できる可能性もあり考慮すべき選択肢といえます。しかしながら、原因菌が同定されていない段階で不適切な抗菌薬を投与すると、その後の診断がますます困難となるため注意が必要です。

一方、遅発性感染の場合、抗菌薬のみによる治療は困難であるといわざるをえません。この場合はインプラントの抜去と、人工関節再置換術が必要になる可能性が高くなります。

手術適応の基準は、原因菌の種類、特に耐性菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA:Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus)など)か否か、また人工関節(インプラント)への感染の到達度によります。前項で述べた通り、創部の浅い部分だけが感染を起こしている場合であれば、抗菌薬のみの治療で治癒する可能性も十分にあります。一方で、MRSAなどの耐性菌に使用できる抗菌薬は限られており、抗菌薬治療が奏功しない可能性が高くなります。

また、感染した菌がインプラントに達している場合は、インプラント表面にバイオフィルムが形成されてしまうため、抗菌薬が届きにくくなってしまいます。バイオフィルムとは菌や微生物の集合体が膜を作って増殖した状態で、これによって細菌が薬剤や免疫反応を防御するため、抗菌薬の効果および生体の防御反応が低くなるのです。

このような場合にはいったんインプラントを抜去し、十分に洗浄と病巣掻爬(そうは)を行った後に再置換術を行うことが望ましいです。

PJIに対する再置換術には、抜去・洗浄を行うのと同じタイミングで再置換術を実施する一期的再置換術と、抜去後に抗菌薬が含まれているセメントスペーサーもしくはセメントビーズなどを挿入して3か月ほど待機し、感染の症状が治まるのを待ってから再置換術を行う二期的再置換術があります。

より確実な治療を行うためには後者の二期的再置換術が望ましいといわれていますが、状況によって一期的再置換術も選択肢となり、その判断の明確な基準についてはいまだに議論されています。(詳細は記事2『人工関節周囲感染(PJI)に関わる諸問題―診断法から人工関節再置換術の術式まで』

このように一期的か二期的再置換術のどちらを選択するかは難しい問題ですが、横浜市立大学整形外科の場合、状況によっては一期的再置換術を検討することがあります。

具体的な一期的再置換術の条件は下記の通りです。

  1. 原因菌が耐性菌(一般的な抗菌薬が効かない)ではない
  2. 複数の感受性のある抗菌薬(内服薬を含む)が使用できる
  3. 糖尿病、その他の免疫不全状態ではない
  4. 筋肉や皮膚、軟部組織の状態が良好であり骨欠損が大きくない

横浜市立大学では、上記の条件が揃っている場合には一期的再置換術を積極的に行っていますが、一期的再置換術の適応に関してはっきりとした答えは出ておらず、一概にどちらが良いということはできません。施設によっては原則的に二期的再置換術が適応となっているところもあります。

車椅子の患者さんのリハビリテーションの様子

一般的には待機期間は入院のうえ、施設でリハビリテーションを受けていただきます。ただし、ご家族にご協力いただける場合は自宅で療養することも可能です。また待機期間、自力で歩行はできず車椅子での生活になります。待機期間に患部の強い痛みを自覚することは少なく、患者さんは安定した状態で待機期間を過ごすことができますから、それほど心配はいりません。

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