インタビュー

クラゲや魚に刺されたら―その対処法

クラゲや魚に刺されたら―その対処法
白石 吉彦 先生

隠岐広域連合立 隠岐島前病院 院長

白石 吉彦 先生

白石 裕子 先生

西ノ島町国民健康保険浦郷診療所 所長、隠岐島前病院 外科

白石 裕子 先生

目次
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この記事の最終更新は2015年04月29日です。

クラゲや魚に刺されたら、どうすればよいでしょうか。海で刺された場合、すぐに医療機関に行けないことも多いはずです。そんな時に気をつけるべきことはなにか、平成10年から島根県・隠岐島にある隠岐島前病院で離島医療を守り続けている白石吉彦先生、白石裕子先生にお話をお聞きしました。

奄美以南の海には強い毒を持ったハブクラゲがいます。20年ほど前、ハブクラゲによって子どもが亡くなってしまう事故がありました。それ以降、ハブクラゲがでる南の海水浴場には、ハブクラゲの進入を止めるため、ハブクラゲネットというものが設置されるようになりました。

私が働いている隠岐周辺には、ハブクラゲのように死亡者が出るほど強い毒をもったクラゲはいないようです。ただしもちろん、クラゲに刺されてしまうと、皮膚がただれたり激しい痛みがでたりという症状がでます。海洋生物や毒虫系とは違って、クラゲは「刺胞(しほう)」を持っているのが特徴です。化学的・物理的刺激が入った時に刺胞から針がでて数μml(マイクロミリリットル)の毒が出ます。その毒を出させないためには、とにかく刺激を与えないことが大切です。

実は今のところ、クラゲに刺された際の画期的な治療法は発見されていません。まずできることは、刺胞から毒を出させないように、物理的刺激をあたえず、患部からそーっと針を取ることです。

しかしクラゲに刺された時、現場で針を取るための器具がないことも多いのが実情です。そのような場合に最もよくないのが、乱暴に針を取ろうとした結果、かえって砂などが患部に付着して、物理的刺激を与えてしまうことです。針を取るための道具がない場合は、なるべく物理的刺激を与えないよう気をつけながら、患部をそーっと洗い流しましょう。

ただし刺された患部が腫れてしまった場合にできることは、炎症を抑えるためにステロイドの軟膏や、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を塗ることくらいです。

またハブクラゲにかんしては、食酢が刺胞の発射装置をロックすることが知られています。今では、沖縄の海水浴場にはどこにでもお酢が置いてあります。ハブクラゲに刺された場合は、まず患部にお酢をたっぷりかけましょう。

隠岐では、クラゲに比べると毒魚に刺されて来院される患者さんが圧倒的に多いです。フグのように、死人が出ることのある毒魚についての研究はそれなりに進んでいます。しかし、そこまで毒が強くない毒魚系については、いまだに多くのことがわかっておらず、研究もされていません。

しかし実は、フグ以外でも毒魚系による死人はゼロではなく、ダルマオコゼやエイに刺されて死人がでた例がいくつか報告されています。ただし、通常は毒魚に刺されても激しく痛むだけで、死に結びつくことはほとんどありません。

隠岐では毒魚に刺される患者さんが多くいるため、私は医学書だけではなく魚に関する本も読んで調べてみました。その結果、魚の毒は基本的にタンパク毒であることが分かったのです。そのため、72度のお湯で30秒から1分ほど温めると大体は失活(無効化)してしまいます。しかし実際に72度のお湯につけると人は火傷してしまうので、現実的ではありません。
しかし我慢できる範囲で、できるだけ高い温度のお湯につけて温めることがタンパク毒を失活させるためには効果的です。

経験的にも、クラゲや毒魚に刺された時は、初期には温めた方が楽になることが圧倒的に多いことがわかってきました。しかし、刺されて時間が経ってしまい、皮膚の腫脹(しゅちょう、腫れあがること)が出はじめてからは、温めると血流が多くなり、逆に痛みが増してしまうので注意が必要です。

クラゲや毒魚だけでなく、ハチもムカデも、刺された直後は温めた方が症状を緩和させることがわかってきました。しかしこれは医学的に証明されているわけではありません。私も、毒魚、ハチ、ムカデともに種類が多く、臨床試験ができないため、論文にするところまでは至っていません。

昨年の夏、85歳くらいのおばあさんが全身を10ヶ所くらいハチに刺されて来院したことがありました。隠岐島前病院では、基本的に毒魚、毒虫系に刺された直後は温めるように指示を出していますが、その時はたまたま、患者さんが刺されたところを自分で冷やしていました。

そこでおばあさんとお話しし、片方の腕を温めてみる許可を得ました。10分後にどちらの腕が楽かをおばあさんに尋ねると、圧倒的に温めた方の腕の方が楽だと答えてくれました。その時はアシナガバチに刺されての来院でしたが、おそらく他のハチであっても結果は同じだったろうと思います。

しかし、これも研究ではないので、医学的にはなんとも言えないところです。このように、島の臨床の現場には「研究にはならないけれども経験上は…」という知見がたくさんあるのです。

このほか経験的には、刺された患部にステロイド(ベタメタゾン吉草酸エステル)と局所麻酔(リドカイン)を打つと、痛みが取れて腫れを抑えることが分かっています。

しかしこのことも、文献に載っているわけではありません。そこで私は、研究するためにハチに刺された患者さんにインフォームドコンセントをした上で、ベタメタゾン吉草酸エステル、リドカインの注射を行い、その3日後に電話でその後の状態を聞き、そのデータを自治医大の先生と協力して論文にしようという試みを行いました。

実際にやってみると、これもなかなか症例数が集まらず、論文にするのは難しくなっています。しかしステロイド(ベタメタゾン吉草酸エステル)を患部に打っても悪い影響はないということの説明にはなりそうです。

毒魚、毒虫系に刺された場合、受診せずに耐えている方もいるかと思います。自分で応急処置をする場合は、刺された直後、つまり最初のうちは温めてみてください。温めた結果、余計にからだの異変を感じるようであれば、温めるのをやめましょう。

腫れてしまった後の場合は、温めると痛みが増すので冷やした方がよいです。腫れた後には冷やすほか、ステロイドや非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の軟膏を使用します。

魚の骨が喉に刺さったら、ご飯を噛まずに飲み込んで魚の骨をとるという方法が民間療法で広まっています。しかしこれが有効かどうかに関しては、実はなんとも言えないところです。

確かにこの方法で魚の骨が取れることもあります。しかし逆に、骨をどんどん奥に押し込んでしまう場合もあるのです。その結果、食道に刺さってしまうなど、ひどい状態になってしまうこともありえます。実際にどれくらいの確率で骨が取れて、どれくらいの確率でさらに状態が悪化するかは、統計もなく実験もできないので詳しくは分からないのです。

魚の骨が喉に刺さって外来に来られる患者さんは、大抵来院される前に、ご自分でなんとかして針を取ろうとしてから来られます。口を開けて見えるレベルの骨であれば、自分でも取れる可能性が高いです。来院される患者さんの8割くらいは口から骨は見えずに、鼻カメラを用いることではじめて喉の奥に刺さっている骨を発見できます。(鼻カメラを用いる時、喉全体に麻酔をかけてしまうと骨が刺さっているかどうか分からなくなってしまうので、鼻にだけ麻酔をしてから行います。)

経験的には、魚の骨が口をあけた状態で見えなくても、本人が喉につまっていると言う場合、骨は確実に喉に刺さっているのです。

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