一般的に「五十肩」という名前で知られる、「肩関節周囲炎」という肩が痛くなる症状があります。この多くは自然に治ります。しかし、「たかが五十肩」と決めつけて診断を受けないのは危険です。なぜなら1週間以上の肩の痛みが続いている場合には腱板断裂など治療が必要な病気が隠れている可能性などもあり、一度整形外科でレントゲン検査などを受けて正確な診断をつけるべきだからです。
この記事では、肩関節周囲炎の治療について、関節外科医として多くの学会で評議員を務められていらっしゃる、国立病院機構京都医療センター整形外科診療部長・京都大学臨床教授の中川泰彰先生にお話をお聞きしました。
肩関節周囲炎は痛み止めなどの薬物療法や保温などの生活上の注意、そして運動療法やリハビリテーション(保存的治療と言います)で治癒するので、手術が必要になる場合は多くありません。ほとんどの方の場合、放っておいても2年程度で肩関節可動域が80%程度は戻ると言われています。それでも、完全には戻らない方が一定数いますが、そのなかでも手術に至る方は5%もいません。
放っておいても治る病気であれば、整形外科を受診しなくても良いのではないかと考えてしまいがちですが、これは大きな間違いです。重大な病気(肩の骨腫瘍など)が隠れている可能性も否定できませんから、勝手に肩関節周囲炎だと思うのは危険です。正確に診断をつける意味で、1週間以上肩の痛みが続くなら整形外科を受診しましょう。何よりもますは診断を早くつけることが大切です。「まずは診断ありき!」なのです。早期の段階で積極的に治療を始めたら、2年もかからずに治る可能性もあるということを覚えておいてください。
肩関節周囲炎の治療は、肩関節の痛みを和らげることと、肩の可動域を改善させることのふたつがポイントです。
前述した痛み止めなどの薬物療法や保温などの生活上の注意、そして運動療法やリハビリのことを総称して「保存的治療」と言います。保存的治療の内容は、発症後の時期により変わります。
痛みが強い時期です。急性期では、ちょっと肩が動いただけでも強い痛みを感じる時があります。この時は第一に痛みを感じないようにすることが大切で、まずは肩関節を安静にします。安静を取るために三角巾やアームスリングなどを用いることもあります。この時期では痛み止めの薬や、痛み止めの注射が効果的です。
徐々に痛みが減ってくるので、温熱療法や運動療法を行っていきます。温熱療法では、ホットパックや入浴などで肩関節を温めて筋肉の緊張をほぐし、血行を良くすることによって症状を改善させます。運動療法では、肩関節周囲の筋肉の強化や、肩を動かす範囲を少しでも広くするための治療をしていきます。運動療法には振り子運動(アイロン体操)などが効果的です。
(参考:肩関節周囲炎(五十肩)の治療(3)―五十肩体操)
日本バプテスト病院 整形外科 主任部長、 京都大学 臨床教授
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