一般的に「五十肩」という名前で知られる、「肩関節周囲炎」という肩が痛くなる症状があります。この多くは自然に治ります。しかし、「たかが五十肩」と決めつけて診断を受けないのは危険です。なぜなら1週間以上の肩の痛みが続いている場合には腱板断裂など治療が必要な病気が隠れている可能性などもあり、一度整形外科でレントゲン検査などを受けて正確な診断をつけるべきだからです。
この記事では、肩関節周囲炎の治療である五十肩体操について、関節外科医として多くの学会で評議員を務められていらっしゃる、国立病院機構京都医療センター整形外科診療部長・京都大学臨床教授の中川泰彰先生にお話をお聞きしました。
「五十肩体操」と言われる肩関節周囲炎の運動療法があります。これには振り子運動(アイロン体操)や挙上運動・外旋運動・背中洗い運動・肩さわり運動など様々なものが挙げられます。
五十肩体操のような運動療法については、痛みがあるかどうかをきちんと判断しながら行う必要があります。強い痛みがありながらそれを我慢して無理に行っても、リハビリテーションとしてあまりいい結果は出ません。そればかりか、かえって患部が悪化してしまうこともあります。患部に痛みはあったとしてもごくわずかなものであることが前提で、少しずつ行っていくのがリハビリとして最適です。また、多少リハビリテーションのペースが遅くても自分のペースを守り、じっくり行うことが回復までの最短距離となります。
机や椅子など、身近にある家具を支えにして姿勢を前かがみにします。そして、症状がある(痛い)ほうの手で大きな円を描くよう、内側に手首を回転させます(下図A)。そのあと、今度は逆方向(外側)に手首を回転させます(下図B)。この振り子運動は、どんな時期であっても準備体操として行うと効果的です。
まずは仰向けに寝て、症状がない方の手で症状があるほうの腕を頭上まで持ち上げながらゆっくりと伸ばしていきます。伸ばし切ったところで5秒間、同じ姿勢を保ってから、ゆっくりと腕を下ろします。
今度はうつ伏せの体勢になり、症状があるほうの腕が「バンザイ」するようにまっすぐに腕を挙げ、そのまま腕全体に体重をかけます。
この運動は痛みが少なくなってから行うストレッチなので、初期の段階から無理にやり過ぎないよう注意しましょう。
この運動にはまっすぐな棒が必要です。
A:まずは仰向けになり、肘を直角に曲げて、そのまま両手のひらで棒を挟みます。そして、症状がない方の手で症状があるほうの手に向かって棒をぐっと押し、痛い方の腕を外側に回転させます。「もう限界」というところまで回転させた位置で5秒間キープし、そこからゆっくり元の位置に腕を戻します。ポイントは、炎症が起きているほうの肘を常に直角に保つよう意識することです。
B:こちらは立ったままできる運動です。肘を直角にした姿勢のまま立ち、ドアノブなどの動かないものを症状がある(痛い)ほうの手で持ちます。そして、ドアノブをつかんだ手の力で、体全体を反対側の手の方向にぐるりと回転させます。この運動は、痛みが少なくなってから行うストレッチ方法ですので、病状初期からの無理は禁物です。
この運動にはハンドタオルを使います。
症状があるほうの手を下側に、ないほうの手を上側にして、背中側でタオルを持ちます。そして、症状があるほうの手がなるべく背中の上側に来るまで、健康なほうの手で引き上げてあげます。ぎりぎりまで引き上げたところで5秒停止し、ゆっくりと元の位置に戻します。
健康なほうの手で症状があるほうの肘を持ち、腕が地面と水平になるように胸の位置まで持ち上げます。そして、症状があるほうの手が反対側の肩を触れるくらいまで、健康なほうの手で症状があるほうの腕全体を引き寄せてあげます。十分に引き寄せたところで5秒間停止し、その後ゆっくりと手を緩めます。
Q1 温熱療法は効果がありますか?
慢性期から回復期における治療として、温熱療法は十分に効果があります。
(参考:「肩関節周囲炎(五十肩)の治療(1)―保存的治療」)
Q2 磁気療法は効果がありますか?
磁気療法は整形外科のクリニックなどで施行されていることがありますが、これには十分な科学的データはありません。ただし、これも原理としては温めているのと同じなので、効果がある可能性はあります。
Q3 電気療法は効果がありますか?
これも磁気療法と同様で、整形外科のクリニックで行われている治療ですが十分なデータはありません。しかし、これも温めているわけですから効果がある可能性はあります。
Q4 ストレッチは効果がありますか?
これは五十肩体操と同じ発想なので効果があります。
日本バプテスト病院 整形外科 主任部長、 京都大学 臨床教授
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