福井康之先生は2,000例以上の豊富な脊椎手術経験を持つ医師として知られています。今回は福井先生の腰痛・坐骨神経痛治療に対する考え方や手術の方針などについてお話をうかがいました。
医学に限らず、物事は何でも相手目線で考えることが重要です。外科医のなかには「手術して治す」という傾向に陥る医師もいますが、もし自分が患者ならば痛い思いをして切られるのは嫌ですし、出来ることなら手術は避けたいと考えるはずです。
従って、治療法として手術は最終手段と考えるべきで、まずは身体に負担の少ない保存療法が基本となります。また、鍼や指圧などの東洋的治療も、症状が緩和するのであれば試して良い治療法と考えます。
一方、馬尾型障害の場合は手術しないリスク、すなわち神経の重度圧迫状態を放置すると、筋力低下や排尿障害などの神経麻痺が生じるリスクがあることも理解する必要があります。いったん神経麻痺が生じると手術しても治らないため、注意が必要です。
従って、最も重要なことは「治療」ではなく「診断」です。なぜ痛いのか、歩けないのか、その原因をきちんと突き止めることが重要であり、そもそも保存療法を含めて治療が必要な状態なのかを検討することが大事になります。
最も低侵襲な治療とは、肥満や運動不足を是正し、禁煙を励行して生活習慣の改善を図り、精神的にもポジティブに考えるように努め、自分自身の治癒力で治すことだと考えています。
近年、内視鏡や顕微鏡を使用した低侵襲手術が提唱され、身体に負担の少ない手術法が開発されております。私自身は病態に応じて顕微鏡手術を施行しておりますが、確かに従来の方法に比べて皮膚切開も小さく、出血量も少量で済みます。
一方、手術の侵襲には「手術時間」と「手術回数」という重要な因子があります。脊椎の手術は全身麻酔のもと、腹臥位(うつ伏せの状態)で行うため、長時間の手術は身体に与える影響が大きくなります。特に内科合併症の多い高齢者では、長時間の手術は大きな問題といえます。やはり出来るだけ短時間で的確に手術を終了させることが重要です。
手術回数に関しても同様に、一回の手術で確実に病態を治すことが大事であり、多数回手術は極力避けるべきと考えます。
したがって、低侵襲手術とは単に皮膚切開の大小や入院期間の長さ・短さで判断することではなく、総合的に評価するべきであり、基本的には一回の手術で確実に治すことが最も低侵襲な手術であるといえるでしょう。
椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄はレントゲンやMRI画像での所見(医師が見た結果判断されたこと)であり、誰でも確認できる客観的所見です。一方、痛みやしびれなどの症状はあくまで患者さん自身が感じる自覚的感覚であり、客観性はありません。
一部の外科医は前述したように「手術して治す」という感覚に陥りがちです。確かに手術すればヘルニアは摘出され、脊柱管の狭窄状態は消失します。しかし、患者さんはヘルニアの摘出や狭窄の改善を希望して手術を受けているわけではありません。あくまで自分自身の症状である、痛みやしびれを治してもらいたいという気持ちから手術を受けているのです。
したがって、手術治療を行うには椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄による神経の圧迫が痛みの原因になっている必要、すなわち画像所見と症状が因果関係になっている必要があります。
これを確認するにはまず患者さん自身を詳しく診察することが大切です。痛みの原因として内科疾患は関係していないか、糖尿病による神経障害はないか、血流には問題ないか、そして家族背景や労働環境を含めたストレスは影響していないか、などを詳細に検討する必要があります。そして、最終的には硬膜外ブロックや神経根ブロックにより、病変部に麻酔剤を注射して症状が緩和するのかを細かく確認します。
因果関係になっていれば、的確な手技により手術を行って病態を改善させれば必ず症状は消失もしくは緩和するはずです。これこそが「治る患者を手術する」という意味です。
人間の脳は強いストレスを感じると、その苦しみから注意をそらすかのように、身体のどこかに痛みを感じることがあります。日常生活の悩みや腰痛の苦しみが周囲に理解されないことなど、さまざまな心因性のストレスが痛みを増強させている場合があるのです。
もちろん、身体に何も悪いところがないのにストレスだけが原因で腰痛や坐骨神経痛になる方は稀で、多くの場合は腰痛や坐骨神経痛を引き起こす何らかの身体的な要因を持っており、そこに心因的要因が重なり合っているのです。
患者さんのなかには詳細な診察を受けて痛みの原因が分かったことで安心され、それだけで痛みがずいぶんと楽になるという方がいらっしゃいます。やはり、最も低侵襲な治療とは自分自身の治癒力で治すことなのです。
私は患者さんひとりひとりの状態をしっかりと見極め、その方にとって最善の診断と治療を行なうことこそが、もっとも大切であると考えています。
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