インタビュー

大人の夜尿症、社会における誤解と偏見

大人の夜尿症、社会における誤解と偏見
大友 義之 先生

順天堂大学医学部附属練馬病院 小児科 教授・診療科長

大友 義之 先生

この記事の最終更新は2015年10月18日です。

夜尿症の実態は未だよく知られていない面が多く、それゆえ多くの誤解や偏見が患者さんとそのご家族の悩みをより一層深いものにしているのではないでしょうか。長年にわたり夜尿症の診療・研究に携わっておられる順天堂大学医学部附属練馬病院小児科の大友義之先生(先任准教授)にお話をうかがいました。

実は大人でも、夜尿症が治っていないという方がいます。大人の場合は夜尿があっても隠してしまうことがあるため判断が難しいところがありますが、日本では0.5%、つまり200人にひとりの割合だといわれています。しかし欧米では3%、つまり100人いれば3人は夜尿症が治っていないというデータがあります。

関連記事「夜尿症とは―おねしょと夜尿症の違いは?」の中で、夜尿症の原因のひとつとして睡眠と覚醒の障害がベースにあるという説をご紹介しました。深い眠りと浅い眠りの周期が確立されておらず、質の悪い浅い眠りだけがだらだらと続いているために、尿意を感じて起きることができなくなっているのではないかという考え方です。

大人の場合は子どもと違って目覚ましで起きるということができますので、尿意に関係なく目覚ましで起きてトイレに行くことで「失敗」はしていないものの、もしそれを忘れてしまったりすると漏れてしまう―つまり夜尿症が完全に治ってはいないという方は実際におられます。

私たちのところへやってくる患者さんの中には、ずいぶん遠くから足を運ばれる方がいらっしゃいます。あるとき、患者さんのお住まいのすぐ近くに夜尿症治療で有名な病院があることに気づいて、どうしてそこへ行かなかったのかを尋ねたことがあります。すると、お母さんは「知り合いに会うかもしれないから、通える範囲でできるだけ遠いところを探してここへ来ました」とおっしゃいました。

またあるお母さんは、待合室で名前を呼ばれた人が息子と同じ学校に通う子の母親であることに気づいて、「○○さんもうちの子と同じ夜尿症でこちらに通院しているのですか」とお尋ねになりました。私が答えに窮しているとそのお母さんは、先生が答えられないのは分かっていますが、お互いに顔を合わせてしまうと気まずいから予約日を変更したい、というのです。

夜尿症のお子さんを連れて来られるのは、ほとんどの場合母親です。私たちがお母さん方の相談を受けて医師の立場から説明をするだけでも、喜んで帰って行かれる方がいらっしゃいます。その背景には、残念ながらお父さんはそのことについてあまり話を聞いてくれないからという現実もあるようです。

私自身の経験になりますが、日本夜尿症学会の前理事長である赤司俊二先生(新都心こどもクリニック)の本を勉強のために購入した際、書店の店員さんに「カバーをお付けしますか?」と訊かれました。私が「要りません」と答えると、その店員さんは「本当にいいのですか?」と念を押すのです。

購入した本を薄いビニールの手提げ袋に入れてもらい、帰りの電車の中でつり革につかまっていると、目の前に座っている人の視線が私の手提げ袋に注がれていることに気づきました。袋越しに本の表紙が透けて見えていたのです。先ほどの書店員の問いかけはそういうことだったのか、とその時気づきました。

夜尿症がよく知られていないのは、実は医師の世界でも同じです。日本夜尿症学会では、11年ぶりに診療ガイドラインの改訂作業を行なっています。世界標準の夜尿症治療の流れにそった、できるだけ客観的な診断基準を示すことができるよう議論を重ねています。

幸いなことに小児科医の間では近年、夜尿症治療に取り組もうとしている医師が増えてきています。小学校に上がってもおねしょが治らないというお子さんをお持ちの方は、ぜひお子さんと一緒に医療機関で相談してみていただきたいと思います。もしかしたら夜尿の原因となるような泌尿器系の別の疾患や先天的な要因が潜んでいるかもしれません。診察や検査でそのような基礎疾患の心配がないと分かれば、それだけで安心・納得して帰って行かれる方もいらっしゃいます。夜尿症の治療は早く開始すればそれだけ早く治ります。私たちは医療の立場からそれをお手伝いさせていただきたいと願っています。

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