インタビュー

サイトメガロウイルス(CMV)とは。妊娠中の感染には注意が必要

サイトメガロウイルス(CMV)とは。妊娠中の感染には注意が必要
永松 健 先生

東京大学医学部附属病院  女性診療科・産科 准教授

永松 健 先生

この記事の最終更新は2015年11月16日です。

サイトメガロウイルス(CMV)は多くの方が感染経験を持つ、どこにでもいるウイルスです。一般の方であれば、感染に大きな心配はないウイルスですが、妊婦が初感染すると胎児に悪影響を及ぼす可能性があります。それが先天性サイトメガロウイルス感染症といいます。サイトメガロウイルス(CMV)と先天性サイトメガロウイルス感染症について、東京大学附属病院講師・周産期病棟医長の永松健先生にお話を聞きました。

CMVは、どこにでも存在するありふれたウイルスです。性行為や唾液、尿、血液などの体液を介して、多くの方が小児期に感染して自然治癒しています。現在日本では、すでに抗体を持っている方が7割を占めていますが、社会環境の変化に伴いその抗体保有率が徐々に低下していることが問題となっています。

サイトメガロウイルスに感染しても、健康な方であれば多少風邪をひいた程度の症状で治まってしまうことが多く、妊婦自身が感染に気づかないこともあります。しかし、妊婦になってからサイトメガロウイルスに初めて感染すると、おなかの中の赤ちゃんに影響が及ぶことがあります。そうした先天性サイトメガロウイルス感染症により障害を生じる確率は、感染してしまった赤ちゃんのうち10%程度だと予測されています。

赤ちゃんへの感染の起こり方として第一に、胎盤を介した胎児への移行があります(先天性感染)。これは妊娠中の初感染の場合、特に危険性が高いことが知られています。一方で、母乳を含めたお母さんの体液を介して新生児期に感染を起こす場合(後天性感染)もあります。

先天感染を起こしてしまうと、様々な神経障害(難聴、精神発達遅滞、運動障害、視力障害)や、発育障害、肝臓・脾臓の腫大を生じます。生まれる前から超音波検査で症状が確認できるケースもありますが、出生前や出生時には症状があらわれなくて感染していることに気付かれず、成長に伴ってはじめて神経の障害が確認される場合もないとはいえません。なお、先天性の聴力障害は1000人に1人とされており、そのうち20%程度はサイトメガロウイルス感染症によるものであるという推定があります。

妊娠中に感染が確認された際、有効性が確立された治療法はありません。一方生まれた赤ちゃんがサイトメガロウイルス(CMV)に感染していることが判明した場合は、抗ウイルス薬で治療する方法があります。とくにバルガンシクロビルという薬による治療では難聴が改善したと報告されています。

しかし、バルガンシクロビルの使用は、日本ではまだ新生児に対する治療薬としては保険適応外となっていること、また好中球減少および精子形成の障害などの副作用が指摘されているため、それを使用するかについては医師と赤ちゃんの両親が慎重に相談することが必要です。

サイトメガロウイルスに関しては、現在は妊婦健診においてスクリーニング検査が行われることは一般的ではありません。そのため先天性感染が起こっていても気づかれないままでいる赤ちゃんが、1000人に1人程度存在するのではないかという推定があります。

スクリーニング検査が広まっていない理由は、母体の血液検査の正確性が十分ではないためです。現在行うことができる母体血清CMV特異的IgM検査では、本当は胎児への感染の可能性がないのに検査の結果が陽性となり、妊婦が大変心配するということがしばしばおこります。

一方で、生まれた赤ちゃんの尿を用いた検査法は正確性が高いのですが、費用や技術的な問題点から現在は一般的な診療では行われていません。そのため、有効性の高いスクリーニング検査の方法について研究がすすめられています。

現在、社会環境の変化に伴いお母さんのサイトメガロウイルス(CMV)の抗体保有率が低下していることが指摘されています。そのため、将来的に、女性が妊娠中にサイトメガロウイルス(CMV)を初感染してしまい、結果として先天性サイトメガロウイルス感染症の赤ちゃんが増加するのではないかと危惧されています。しかし、これまでは一般の方においてサイトメガロウイルス(CMV)感染症についての認知度が低く、風疹などと比較すると世間的にあまり注目されていないという現状にあります。

妊娠中はそもそも免疫力の変化に伴い、体がウイルスに負けやすくなっていることが知られています。つまり、体の中のウイルスに対する抵抗力が下がっています。

サイトメガロウイルス(CMV)は感染した幼児の唾液や尿に出てきます。妊婦がサイトメガロウイルス(CMV)の初感染を生じる主な経路は、上の子どもを含む周囲の幼児や赤ちゃんだといわれています。しかし、だからといって妊娠中に上のお子さんと隔離するということは間違った対応です。上の子の育児に際して、おむつ交換、食事、鼻水・よだれを拭いたとき、おもちゃを触った後などは手洗いを心がけるようにしましょう。また食事に際して同じ箸やスプーンを使用することは避け、口移しは行わないなどいくつかの注意点を守ることで、サイトメガロウイルス(CMV)感染の危険性を大きく減らすことができます。

 

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