インタビュー

小児救急を受診するタイミングを家庭で判断するために

小児救急を受診するタイミングを家庭で判断するために
(故)市川 光太郎 先生

北九州市立八幡病院 元病院長、日本小児救急医学会  元名誉理事長、久留米大学 医学部 元小児科...

(故)市川 光太郎 先生

この記事の最終更新は2015年10月22日です。

小児救急の受診過多問題を解決し、小児救急医療の質を向上させるためには、各家庭で適切な受診のタイミングを判断する能力である「家庭看護力」を養うことが不可欠です。では、子どもにいつもと違う症状が現れている時、具体的にはどのようなポイントを見ればいいのでしょうか。北九州市立八幡病院小児救急センター病院長・日本小児救急医学会理事長の市川光太郎先生にお話を伺いました。

インターネットの普及により、病気などに関する情報が手に入りやすくなったことで、子どもにいつもと違う症状が現れた時、「インターネットを見て心配になった」と言って来院される保護者が増加しています。このような時、保護者に救急の受診が必要な重い病気の症状をお教えすると、保護者はこの症状がなければまだ大丈夫だという安心感を得ることができます。これが家庭内でできれば受診の遅れはなくなり適正受診につながるのではないかと考えて作ったものが「救急受診の目安・判断チェックリスト」です。

救急受診の目安・判断チェックリスト

まず、見た目によるトリアージで受診するべきかどうかを判断しましょう。本来トリアージとは、一度に複数の患者を受け入れる時などに、怪我や病気の重症度を考慮して治療の優先順を決めることを意味します。救急医療の現場においては、まず見た目(第一印象/Initial impression)を見る、次に血圧や心拍数等のバイタルサインを見る、症状を落ち着かせてから専門的な問診や検査をするといったトリアージが行われています。最初の段階では道具や手技は必要ないので、家庭トリアージにも応用できます。

  • 顔色が悪い
  • ゼーゼー言っている
  • 手が冷たくて青白い

上記のようなところを見て、チェックが一つでもついたら救急を受診し、チェックがゼロの場合は家にいて大丈夫だと判断しましょう。このチェックリストをそのまま医師に提示しても良いですし、いつもとどこがどう違うのかを言葉で具体的に伝えることでも、より適切な診察・診断を受けることが可能になります。医師もチェックリストの印を見ることで来院理由がすぐに分かりますから、本チェックリストは医師と保護者間の「共通言語」になり得るものであると言えます。

家庭トリアージの普及と家庭看護力の向上を目指す取り組みは、今全国的なムーブメントになろうとしています。2015年10月には日本小児科医会主催で第1回小児救急研修会を開催し、トリアージの説明や症例を話す予定です。また、2015年11月には保護者の方や看護師の方を交えて、家庭トリアージの必要性や家庭看護力について考える第1回家庭看護力醸成セミナーを、こちらも日本小児科医会主催で開催します。後者の家庭看護力醸成セミナーについては、今後もブロック単位で年2回ずつ、全国で開催していきたいと話し合っているところです。

また、前項でお見せしたチェックリストに関する説明書の配布も、現在始めたばかりの段階です。まず、全国の開業の小児科の先生ほとんどのところに資料を届けます。気に入っていただけたら、それを元に各医療機関内でスタッフの勉強会を開き、トリアージの理屈を学んでいただきます。理屈さえ知っておけば、資料がなくても「これは悪い」とすぐわかるようになります。ですから、医師だけでなく、看護師や事務の方も、患者さんが来られた時にすぐ気づけるよう一緒に勉強していただきたいと考えています。その上で、家庭に指導していただくのが良いのではないでしょうか。

先ほどのチェックリストは、保護者と医師のみならず、かかりつけ医と急患センターの医師間のコミュニケーションを円滑化するためにも大変有用なものです。別の医師同士が見ても、共通言語として機能するので絶対に齟齬は生じません。

一つの医療機関内においても、このような共通言語は必要です。共通言語が無い病院内では、看護師が患者の様態が良くないと当直医を呼んだ後、「何がどう悪いのか」と両者間で押し問答がなされることが多々あります。このような齟齬を生じさせないために、当院では小児早期警告システム(Pediatric Early Warning System:PEWS)というものを作り、「ピューズ」と呼んで病院内での共通言語としています。実際にこの共通言語によって医師と看護師の連携が取りやすくなり、迅速な対応が可能になっています。

これまで小児医療の世界では、医師と保護者のコミュニケーションエラーによって、両者の乖離が深刻になる一方でした。そうではなく、互いが学び協働し、また共通言語を用いることで、一緒に治すという姿勢と信頼関係を築いていくことが必要であると感じています。