インタビュー

「医療情報」とは何か

「医療情報」とは何か
中山 健夫 先生

京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康情報学分野 教授

中山 健夫 先生

この記事の最終更新は2015年10月22日です。

現代、私たちはインターネットや雑誌などの様々なツールから情報を得ることができます。なぜ私たちは情報を手に入れようとしているのでしょうか。それは、情報が意思決定の際に必要になるからです。それでは、この「情報」とはどのように定義されているのでしょうか。そして「医療情報」とは何を指すのでしょうか。京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康情報学分野 教授 中山健夫先生にご説明頂きました。

「情報」は、「(意思決定において)不確実性を減ずるもの」であると、クロード・シャノンという人物によって定義されました。「情報=不確実性を減ずるもの」とは何か、例を挙げてご説明します。
例えば、休日にナビが付いていない車で京都からUSJに遊びに行くことになったとしましょう。USJに向かう途中、道が二つに分かれている場合、どちらの道を選択するでしょうか。何も情報がないので、「選択できない、分からない」と思われる方が多いのではないでしょうか。

「情報が無いとどちらに行ったら分からない」-これはそのとおりです。この場合は右の道を選んでも左の道を選んでもUSJにたどり着ける可能性は両方とも50%で同じとも言えます。このように、「分からない=情報がない」時は、どちらがUSJに行ける可能性(確率)が高いか分からないので、不確実性が最も高いということになります。不確実性が高ければ、どちらに進んだらよいか決められなくなって、「えいや」とどちらかに飛び込むしかなくなります。意思決定の際に、不確実性を少しでも減らすものが「情報」なのです。

USJの例に戻って、分かれ道のところに「右の道は大阪方面、左の道は奈良方面」という道しるべがあれば、奈良よりは大阪に向かったほうがUSJに近づけそう、言い方を変えれば、近づく確率が高まりそうだと分かります。次の分かれ道では「山方面、海方面」という道しるべがあれば、海方面に向かった方がUSJにたどり着ける確率がさらに上がりそうだと思えます。このような形で、私たちは枝分かれのあるところで常に道標を探して、自分の目指すゴールにたどり着く確率を高めようとしているのです。この道しるべが「情報」なのです。
つまり情報というのは、意思決定をするときにゴールにたどり着く確率を高めてくれる手がかりなのです。

学校法人聖路加国際大学名誉理事長、聖路加国際病院名誉院長の日野原重明先生が影響を受けたウィリアム・オスラーという人物は、「Medicine is a science of uncertainty and an art of probability(医学は不確実性の科学であり、確率のアート(技術)である)」という言葉を残しています。

ある治療がその患者さんに「必ずよい」効果が示すかどうか100%とは言えない中で、最大限に自身の知識を用いて、患者さんに最良のことを行おうとするのが医学なのではないでしょうか。例えば、目の前の患者さんにこの薬がよいと思って処方してみても、必ず効くとは限りません。しかし、効く可能性が高いと思われる薬を、医者は自身の経験やエビデンス(科学的な根拠)に基づいて処方します。すなわち、「不確実さを避けられない状況の中で、少しでも不確実さを減らし、良い結果が期待できるような方法を採るために最善を尽くそうとしているのが医学の姿だ」とウィリアム・オスラーは述べたのですね。

医者にとってのUSJ(ゴール)は、患者さんによくなってもらうことです。そのゴールに向けて、患者さんが少しでもよくなる確率を高めるために、臨床の意思決定を行います。ここでは治療AとBのどちらかを選択するということだけではなく、そもそも治療を行った方がよいのかよくないのか、ということも選択肢に含まれてくるのです。
患者さんをよくする確率を高めるための意思決定の道しるべになるのが情報であり、医学の場合の情報はエビデンスや医者の経験ということになります。

何かを決める時に、一番手近なところにあるのは、自分の経験や先輩からの教えです。これらは言い方を変えれば「自分の内だけにある知識」です。しかしこの約25年の間に、「自分の内」の知識の大切さに加えて、「自分の外」にも意思決定の手がかりがあるということが分かってきました。これがEBM(evidence based medicine=根拠に基づく医療)といわれるものです。

人間の意思決定は、自分の経験と外部からの何かしらの影響の相互作用の結果ともいえます。ここで「自分の外」を見ず、「自分の内」にあるものだけで判断していれば独善的になるでしょう。「自分の外」にある情報が、必ずしも自分が直接診ていない患者さんを対象とした臨床研究から得られたエビデンス(科学的な根拠)です。EBMでは、このようなエビデンスと自分の経験とを合わせて、患者さんのために最善を尽くすことの重要さを強調しています。

前項で、意思決定の際には自分自身の経験に加えて、「自分の外」にあるエビデンスが情報として必要だと述べました。一般的にエビデンスとなる臨床研究の結果は確率に関わる何らかの数字で示されますが、人間は数字だけでは、ぴんとこない時も少なくありません。意思決定の重要な役割を担っているのが、一つ一つの「ナラティブ(体験・語り)」です。このナラティブは医療従事者にも、患者さんにとっても重要です。

つまり、「80%有効である」という定量的な情報だけではなく、「患者さんがこんなふうに喜んでくれた」や「(他の医者から)自分はこうしたら上手くいった」というような体験を聞くことで、数字で示されるエビデンスがさらに安心感のある、いわば血の通った情報になるのです。量的なエビデンスに質的なナラティブという次元の異なる情報を両方大事にしていくことが、医療者にとっても、患者さんにとっても意思決定の拠りどころとして行ける、これからの医療情報のあり方と考えています。

※一般的には「ナラティブ」というと、患者さんの体験を指します。闘病記などがその例です。ただし、医者の体験というのも重要であり、その場合は「医者のナラティブ」という言い方をします。

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    中山 健夫 先生

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    中山 健夫 先生

    東京医科歯科大学医学部卒業後、東京厚生年金病院(現在東京新宿メディカルセンター)や国立がんセンター研究所がん情報研究部 室長などを経て現在は京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 教授を務める。健康情報学を専門とし、公益財団法人日本医療機能評価機構Minds(マインズ)やEBM・診療ガイドラインに関する厚生労働科学研究にも携わっており、日本の医療情報の分野において大きく貢献している。

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