子どもが末期腎不全(透析が必要なほど腎臓の働きが失われた重篤な腎臓病)になってしまった場合、大人と同様に透析が必要になります。透析には腹膜透析と血液透析の2種類がありますが、子どもが透析をするにあたっては、腹膜透析が中心となります。子どもの透析について、腹膜透析を中心にして、東京都立小児総合医療センター総合診療科・腎臓内科部長の幡谷浩史先生にお話を伺いました。
透析とは、低下した腎機能の役割を代替する治療方法の一つです。透析には腹膜透析と血液透析の2種類があり、子どもの場合は腹膜透析が主流です。
末期腎不全の子どもも、将来健康な成人にできるだけ近い生活をできるようにすること、社会的・医学的なハンデを作らないことを目標に治療をしていきます。
15歳未満の末期腎不全の子どもであれば、透析療法として腹膜透析を行うことがほとんどです。それは体格などの問題で血液透析ができない小さな子どももいることも理由に挙げられますが、自宅で毎日続ける腹膜透析のほうが、子どもの生活スタイルに合っているということが大きいといえます。在宅治療に重点を置いた治療法であるため、学校にも通いやすくなります。
小さな子どもを長期間入院させ、病院に閉じ込めておくのはその子どものためになりません。
通常、子どもは家族に囲まれて友達と遊んで、ときにはけんかもして、様々な人と関係を築きながら学校生活を送ります。これらの経験を積む貴重な時期をすべて犠牲にして、病気だけ治したとしても、末期腎不全の子どもの将来を本当に幸せにすることは難しいのではないでしょうか。
また、子どもは体重あたりの水分や、食事の必要摂取量が多いため、一般的に週3回行われる血液透析よりも、毎日行える腹膜透析のほうが、透析間の体重増加・老廃物貯留などが少なくて済み安全だというメリットもあります。
具体的には、夜間寝ている間に機械で透析を行う夜間腹膜透析(NPD)が中心です。
健康な子どもの生活に最も近い生活を送ることができるのは腎移植です。しかし、体格・原病や腎不全の合併症・移植腎臓提供など様々な理由から、全ての末期腎不全の子どもたちが速やかに腎移植を受けられるわけではありません。
また、移植後に腎機能が再び悪くなることもあります。腹膜透析は、長く続けると腹膜の働きが落ちてきてしまうため、7年前後しか継続できません。しかし、移植をすぐに受けることができない末期腎不全の子どもたちにとって、腹膜透析は移植や体格が大きくなって血液透析ができるようになるまでの橋渡しとして欠かせない治療法です。
血液透析は自宅で行うことができる腹膜透析とは異なり、医療機関で行う必要があります(成人では一部の地域で在宅血液透析が始まっています)。
シャント(血液透析の際十分な血液量の循環ができるように、動脈と静脈を体内で直接つなぎ合わせた血管)に刺した針から血液を体外に取り出し、体の老廃物等を機械で除去します。小さな子どもはシャント作成が難しく、子どもの場合はあまり用いられません。また、血液透析は週に3回、1回4時間を要し、乳幼児の場合はさらに多く週4~5回、1回5~6時間必要です。血液透析をするために授業や課外活動を犠牲にしなくてはいけないという面からも、腹膜透析のほうが勧められています。
前述のとおり、小さな子どもは血管が細くシャントが作れないため、血液透析がなかなかできないという問題があります。また腹膜透析に関しても血圧や電解質などの管理が難しく、栄養に関しても留意しなければなりません。
加えて、栄養摂取と透析の兼ね合いという問題も生じます。体重10kgの赤ちゃんは、1日あたり1000kcalを摂取する必要があります。ミルクの場合、1000kcalを補うには約1400㏄もの量が必要です。おしっこが出ない(無尿)タイプの末期腎不全の場合には、栄養として摂取したミルクの水分を透析で抜いてあげる必要があります。これを40kgの大人に換算すると毎日5Lもの水分を摂っていることになるので、無尿の赤ちゃんの透析がいかに大変なことか理解していただけると思います。
赤ちゃんで透析が必要になるのは東京都立小児総合医療センターでも年間数人ですが、管理が難しいため専門施設でなければ適切な治療はできません。私たちも、赤ちゃんの透析に関しては毎回どうすればよいか都度判断しながら行っています。
腹膜透析を円滑に行うためにはご自宅で透析ができるようになっていただくことが大前提で、透析カテーテル出口部分の感染など合併症が起こらないよう、ご両親にきちんと腹膜透析の手順をお教えしています。
子どもたちに対しては、制限はなるべく最低限にします。おなかをぶつけるような遊びは避けていただきますが、有酸素運動であれば行って構いません。運動会などの学校行事にも、できるだけ参加してもらうようにしています。そのためにはご家族だけではなく、友達や先生の理解を得る必要があります。
実際のところ、学校で薬を飲むことが恥ずかしく、飲むふりをして隠してしまうケースが多く見られます。なかには腹膜透析を隠すがために修学旅行が嫌だという子どももいます。
このような事態を防ぐためにも、なるべく末期腎不全であることをオープンにできる環境を整えることが非常に重要となります。
東京都立小児総合医療センター 総合診療科/腎臓・リウマチ膠原病科 部長
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