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アルポート症候群

最終更新日
2022年09月27日
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2022/09/27
更新しました

概要

アルポート症候群(Alport症候群)とは、難聴や眼症状を伴う進行性の遺伝性腎炎です。この病気では、腎臓の糸球体の毛細血管や内耳や角膜・網膜を作る材料であるIV型コラーゲンの遺伝子に変化が生じ、IV型コラーゲンの障害や欠損により、それらの組織が弱くなるために幼少期から血尿がみられ、やがて蛋白尿(たんぱくにょう)が出現し次第に腎機能障害が進行します。また、難聴や円錐水晶体、白内障、角膜変性、網膜病変などの目と耳の症状をきたします。

X染色体性の遺伝形式をとることが多いため、患者の多くは男性が占めています。X染色体性のアルポート症候群では、男性のほうが腎不全への進行が速く、10~40歳代に末期腎不全に至ることが多く、さらに難聴も問題になります。一方の女性では症状が軽く、進行が遅い傾向にありますが、末期腎不全に至る場合もあります。発生頻度は約5万出生に1人との報告があり、日本においては現在1,200人ほどの患者がいると推測されています。

原因

腎臓には、糸球体という血液の中の水分をろ過して尿を作る組織が、1つの腎臓あたり100万個あります。コラーゲンは糸球体の毛細血管の重要な材料の1つです。アルポート症候群においては、IV型コラーゲンの遺伝子に変化が生じ、正常なコラーゲンが作れなくなります。その結果、糸球体の毛細血管が薄く壊れやすくなるために、血液中のタンパクや赤血球が尿に漏れ出て蛋白尿や血尿を生じます。やがて糸球体の障害が進行し、腎機能が低下します。IV型コラーゲンは内耳や角膜・網膜の材料であるため、難聴や眼病変も合併します。

遺伝形式に応じて“X染色体連鎖型(X染色体性)”“常染色体潜性(劣性)型”“常染色体顕性(優性)型”の3つに分類され、それぞれ頻度は80%、15%、5%です。アルポート症候群は遺伝性の病気であり、親から子に遺伝しますが、患者の10~20%は家族に腎症をもつ人がおらず、遺伝子の突然変異により発症します。

症状

腎障害

幼少期から血尿が出ることが多く、患者の多くは3歳検尿や学校検尿をきっかけに診断されます。風邪をひいたときなどには肉眼的血尿(目で見て分かる血尿のことで赤褐色~緑褐色の尿が多い)が出ることがあります。血尿で発症し、やがて蛋白尿が出現し、次第に腎機能障害が進行します。

もっとも頻度が高く男性に多いX染色体性のタイプは、男性では約90%の患者が40歳までに末期腎不全(腎臓のはたらきが悪くなり透析腎移植を必要とする状態)に進行します。末期腎不全になる年齢は10歳代と30~40歳代の二峰性を示します。一方、女性の場合でも、X染色体性の場合は40歳までに約10%の患者が末期腎不全に進行します。

常染色体潜性(劣性)型はもっとも予後不良であり、10~20歳で末期腎不全に進行し、常染色体顕性(優性)は比較的予後良好ですが、約20%の患者が50~60歳代で末期腎不全に進行します。

難聴

X染色体性の男性患者は10歳以降に感音性難聴を発症し、40歳代では80%に難聴を認め、難聴が進行した場合は補聴器が必要になります。一方、女性の発症率は20%程度です。常染色潜性(劣性)型では50%以上、常染色顕性(優性)型では、10%程度が難聴を呈します。

発症と進行の評価に定期的な聴力検査が必要です。

眼症状

眼症状としては、円錐水晶体、白内障、角膜変性、網膜病変などがみられ、視力低下や視界の障害をきたします。 X染色体連鎖型の男性患者の3分の1、常染色潜性(劣性)型で半数の患者が眼病変を合併します。

検査・診断

患者の多くは3歳検尿、学校検尿、健康診断で指摘された尿異常を契機に診断にいたります。また風邪をひいたときの肉眼的血尿を契機に受診することもあります。アルポート症候群は親から子に遺伝し、腎障害に難聴や眼症状を伴います。そのため、尿異常がある患者の診察の際には、問診で血尿・蛋白尿・腎不全・難聴などの家族歴の確認が必要になります。外来通院時には、血液検査や尿検査を定期的に実施します。目や耳の症状に応じて、定期的な聴覚検査や眼科検査も検討します。

確定診断には遺伝子検査(採血で検査が可能で保険適用あり)を行います。遺伝子検査により遺伝形式に加え、今後の病気の進行の目安を知ることができます。遺伝子検査の結果の説明や家族内での遺伝などの情報については、希望があれば遺伝カウンセリングを受けることができます。

腎生検*または皮膚生検も診断に有用ですが、現在では遺伝子検査が優先されます。腎生検により腎障害の進行の程度を知ることができます。

*生検:組織を採取して顕微鏡で詳しく見る検査のこと
 

治療

現時点で、アルポート症候群に対する根本的な治癒療法はありません。しかしながら、蛋白尿を減らし腎障害の進行を遅らせることを目的に、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(リシノプリル、エナラプリルなど)やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ロサルタン、カンデサルタンなど)の内服治療が広く行われています。また、これらの治療の腎障害の進行抑制効果がすでに証明されています。

腎障害の進行に伴って貧血高血圧、骨ミネラル代謝異常、電解質(カリウム、ナトリウムなど)、浮腫などの慢性腎障害としての合併症が生じた場合は、それぞれの症状に対して対症療法を行います。末期腎不全に至った場合には、透析(血液透析・腹膜透析)や腎移植が必要となります。X染色体型の家系において、女性が生体腎移植のドナーになる場合は、その後の腎機能低下が問題になることがあるので、腎移植の専門家に相談するべきです。

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