角膜移植は、記事1『円錐角膜とは―治療にはコンタクトレンズから角膜移植まで様々な方法がある』でご紹介した円錐角膜や外傷、感染症、角膜水腫などの場合に検討される治療法の一種です。比較的成功しやすく、安全な方法が確立されているものの、どうしても拒絶反応や合併症が起こる可能性が残るため、移植をするかどうかは慎重に検討する必要があります。近畿大学眼科主任教授の下村嘉一先生は、そういった術後の感染を防ぐ新しい角膜移植の方法を考案されています。引き続き、下村先生にお話をお伺いします。
角膜移植は他の移植に比べて成功率が高いとはいえ、どうしても一定の割合で拒絶反応がみられるので、移植の適応は慎重に判断します。
具体的には、移植は片眼性(片目で対象物をみたとき、ものが見えない状態)の疾患であれば眼鏡による矯正視力が0.1未満になるまで、両眼性(片目で見ると一つにみえるが、左右両方の目で対象物をみたとき見えづらくなる)の疾患の場合は0.2~0.3になるまで検討されません。
患者さんのなかには、「角膜移植は心臓移植や腎臓移植と異なり血管を切ることもないので失敗しないだろう」と考える方がいらっしゃいます。しかし、絶対に成功する手術は存在しません。移植はそれだけリスクを伴う治療であり、角膜移植をすればすべて解決するわけではないということを覚えておきましょう。
そのため、角膜移植を行う前には、医師が患者さんに移植のリスクなどをしっかりと説明し、事前にインフォームドコンセントを得る必要があります。
※近年角膜移植が増加している疾患「水疱性角膜症」とは?
最近では、水疱性角膜症に対する角膜移植の症例が増加しています。
水疱性角膜症は、白内障の手術後などに、眼球の内皮細胞(角膜の最も内側に位置する内皮を形成する細胞)が障害されて、角膜のむくみや混濁を起こす病気です。
その他、外傷による角膜移植も多く見受けられます。かつてはヘルペスが原因となることも多くありましたが、アシクロビルが適用となってからは減少してきています。
角膜移植は移植する層の範囲に応じて大きく3通りに分類され、それぞれ表層角膜移植術(LKP)、深層角膜移植術(DALK)、全層角膜移植術(PKP)と呼ばれます。
角膜の変性や混濁箇所が浅い場合には、表層角膜移植術(LKP)が行われる場合が多いです。また、角膜全体の濁りや変性がみられる場合は、全層角膜移植術(PKP)で上皮、実質、内皮すべてを取り換える場合があります。ただし、現在ではこの術式はあまり行われていません。全層角膜移植(PKP)では術後の拒絶反応のリスクが高く、乱視が発生する可能性があるためです。
最近、角膜移植は病変部位のみを移植する「パーツ移植」が主流になりつつあり、特に角膜内皮移植(DSAEK)という術式が選択されるケースが増えてきています。
角膜内皮移植(DSAEK)とは、患者さんの目から内皮細胞とデスメ膜(角膜実質層と角膜内皮層の間にある強靭な膜)を取り除き、そこにドナーの角膜内皮と深層実質を移植する手術です。目の中に空気を入れ、その浮力によって患者さんの眼球に「貼り付ける」ため、ドナーの角膜を糸で縫う必要がありません。
角膜内皮移植(DSAEK)の大きなメリットは、患者さんの個別の症状に対処が可能であり、また縫合が不要であるため術後の合併症も比較的少なく、角膜移植後の乱視が起こりにくいという点にあります。
また、近畿大学では日本で唯一、OOKP(歯根部利用人工角膜移植)という手術を行っています。OOKPとは、患者さんの犬歯の根部分(歯槽骨)に穴をあけて人工角膜を植え込み、それを目に移植するという方法です。主にスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)などの難病に適応されます。
(手術前の目の様子。角膜全体が白濁している(画像提供:近畿大 福田昌彦先生))
OOKPでは、まず下顎骨から犬歯を摘出し、その犬歯の根部分(歯槽骨)に大きな穴をあけて人工角膜を入れます。人工角膜がついた犬歯をいったん瞼に挿入し、1~2か月程度おいて、患者さんの目の組織が犬歯の周りに絡むのを待ちます。十分に組織が絡んだら、挿入しておいた犬歯を瞼から取り出して、眼球に挿入します。
(OOKPでは患者さんの歯(犬歯)を使用する 画像提供:近畿大 福田昌彦先生)
OOKPは拒絶反応が少なく再手術が容易に行えるといったメリットがありますが、外観と視野狭窄の2点が欠点です。また、OOKPで視力は1.0まで回復するものの、視野は上下左右で約45度に狭まってしまいます。
(術後1カ月の眼球(画像提供:近畿大 福田昌彦先生))
近畿大学ではこれまで、口腔外科と眼科の協同で7例のOOKPを行い、すべての症例で成功をおさめています。ただし、現在のところOOKPは先進医療には認められていません。
小規模な病院などでは日帰りで角膜移植を行っている施設もありますが、入院するほうが安全だと考えます。移植には全身管理や救急体制が必要であり、白内障手術とは状況が異なるため、できる限り入院して手術を受けてください。
角膜移植の成功率は約80%とされており、残りの約20%では拒絶反応や感染症が起こるといえます。これらの症状が現れた場合、もちろん治療を行いますが、全体としての透明治癒率(角膜が透明になってしっかりと眼球に生着する確率)は75~80%程度です。
また、子どもの角膜移植は治療成績が悪い傾向にあります。子どもは組織の力が強くて元気なため、拒絶反応も強くなってしまうからです。子どもに角膜移植を行う際は、その点をご本人やご家族と相談する必要があります。
充血、目の痛み、視力低下の3つの症状が現れた場合は拒絶反応を起こしている可能性が高いため、注意が必要です。また、視力低下によって角膜に水がたまり羞明(しゅうめい:眩しく感じること)を自覚する場合もあります。なお、突然の目やにや眼周囲の痛みは、感染の徴候といえます。
単純ヘルペスウイルスによって角膜が障害される場合があります。
単純ヘルペスウイルスは、三叉神経節という大きな神経節にほぼ100%潜伏感染しています。三叉神経節から大きく3本の神経(三叉神経という太い脳神経)に分かれ、三叉神経が顔面の感覚を支配しています。
ほとんどの場合は単純ヘルペスウイルスが潜伏感染していても無症状で終わりますが、0.05%程度の割合で、発熱、紫外線、風邪などをきっかけに、角膜に感染してしまう場合があります。
最近の研究により、ヘルペスウイルスは三叉神経節のみに潜伏するのではなく、角膜にも潜伏しているということが判明しました。ですからヘルペス感染で角膜が濁ってしまった方に対しては、積極的に移植を推奨しています。
ヘルペスウイルスは賢いウイルスで、普通に抗ウイルス薬を投与すると再び三叉神経節に潜伏感染してしまいます。とくに角膜移植では三叉神経節のヘルペスウイルスを刺激するので、移植でウイルスが活性化した瞬間を狙ってアシクロビルという抗ウイルス薬を投与します。これによって、ヘルペスウイルスを確実に叩くことができるのです。実際に、この方法を取り入れてから角膜移植後のヘルペス再発が減少しました。
ただし、現在ヘルペスが角膜に潜伏感染しているかどうかの検査は容易ではありません。検査では、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)という方法で、涙や角膜からウイルス採取する必要がありますが、この検査を行える大学病院は2~3施設にとどまります。
症例によって異なりますが、安定には約半年を要します。
前項で述べた通り、視力が安定するまでには約半年かかります。
角膜移植後、最も重要なのは、「拒絶反応を起こしたらすぐに病院を受診する」ということです。もしも視力が落ちた場合はすぐに医療機関を受診してください。視力低下がみられても、ステロイドの投与で4分の3の患者さんは回復します。これは早ければ早いほど経過がよいことが分かっています。発見の遅れを防ぐ目的で、私は患者さんに「朝、起床したらまずはカレンダーに書いてある数字などが見えるか確認して、さらに鏡で目が充血していないかを確認してください」とお話ししています。
手術直後ははっきりと物が見えないため、例えば手術した目が自動車のサイドガラスにぶつかってしまったり、箪笥の角に体が当たったりする可能性が高くなります。最悪の場合、目が障害物に当たって角膜が破裂し、目から飛びでてしまう方もいらっしゃいます(近畿大学でも、2~3年に1人はそういった患者さんをみます)。ですから、視力が安定するまではゆっくりと行動し、周囲の障害物に注意して生活してください。
角膜移植のあとは自己管理が大事になることをぜひ知っておきましょう。
近畿大学 名誉教授、生長会 眼科 統括部長
下村 嘉一 先生の所属医療機関
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新しい枕が合わず、首を痛めてから様子がおかしいです。
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