インタビュー

急性大動脈解離に対する検査・診断・治療―生存率を上げるためには

急性大動脈解離に対する検査・診断・治療―生存率を上げるためには
福井 寿啓 先生

熊本大学病院 心臓血管外科 教授

福井 寿啓 先生

この記事の最終更新は2017年06月26日です。

上行大動脈に亀裂が入るA型急性大動脈解離は、発症後1時間あたり1~2%の致死率という非常に高い水準で症状が進行し、亡くなった方のうち60%は病院に到着する前に死亡が確認されているという報告もあります。一方で、病院に搬送され手術を受けた場合、患者さんの生存率は約90%です。ですから、急性大動脈解離に対してはできる限り早く緊急手術(人工血管置換術)を行うことが重要です。急性大動脈解離の検査と治療について、生存率を上げるためのポイントを含め、熊本大学病院心臓血管外科教授の福井寿啓先生にお話しいただきました。

急性大動脈解離において最も重要な検査はCTによる画像診断で、心臓超音波検査やレントゲン検査も合わせて行います。合併症や臓器障害が起こっていないかを確認し、手術する部位を決定するために、検査は欠かせません。

CTで撮影した画像所見で大動脈解離の程度を確認し、手術する部位を検討します。

大動脈解離のCT画像
A型の急性大動脈解離のCT画像。黄色の矢印が上行大動脈、緑の矢印が下行大動脈。 福井寿啓先生ご提供
B型大動脈解離
B型の急性大動脈解離のCT画像。黄色の矢印が上行大動脈、緑の矢印が下行大動脈。 福井寿啓先生ご提供

心臓超音波検査では、心臓の合併症の有無を診断します。検査で合併症が起こっていると予測できた場合は、必要に応じて追加で手術を行います。

心臓の合併症と同様、他の臓器障害が起こっていないかも確認し、血管の狭窄や閉塞が起こって血液が流れていない箇所が発見できた場合は血行再建手術(冠動脈形成術またはバイパス術)を人工血管置換術と合わせて行うこともあります。

上行大動脈が解離しているA型急性大動脈解離の場合、非常に緊急性が高く、緊急手術が必要です。(詳細は記事1『急性大動脈解離の原因と症状―激しい背中の痛みや吐き気が特徴』より)

急性大動脈解離の手術は基本的に人工血管置換術が適応となります。人工血管置換術は上行大動脈置換術(じょうこうだいどうみゃくちかんじゅつ)と弓部大動脈置換術(きゅうぶだいどうみゃくちかんじゅつ)の2種類があり、患者さんの容体や年齢に応じて置換の範囲を決定します。

急性大動脈解離の置換術

上行大動脈置換術は、上行大動脈のうち破裂した部位を人工血管に取り換える手術です。一方、弓部大動脈置換術は、上行大動脈から弓部大動脈までをすべて人工血管に取り換える手術で、弓部大動脈置換術は上行大動脈置換術に比べて手術規模が大きくなります。

急性大動脈解離の治療の基本的原則は、解離が発生し亀裂(エントリ)が入っている場所を取り換えることです。そのため、原則として亀裂が上行大動脈に入っていれば上行大動脈置換を、弓部大動脈にみられれば弓部大動脈置換術が行われます。

ただし、比較的年齢が若い患者さんの場合、上行大動脈置換術が適応になるケースであっても、弓部大動脈を残しておくと将来的に弓部大動脈瘤が起こる可能性があるので、弓部大動脈置換術が適応になることもあります。

患者さんの容体や施設によって異なりますが、当院の場合は平均3~4時間です。ただし、およそ2時間で終了するケースや、5~6時間以上要するケースもあります。

上行大動脈に亀裂がないB型の急性大動脈解離の場合、緊急手術をしなくとも内科的療法で回復する可能性があります。この場合は主に降圧薬を用いて血圧を下げる治療が行われます。

なお、B型の急性大動脈解離の場合であっても大動脈壁が解離することによって手足や胃腸への血流が悪くなり臓器障害に陥る恐れがある場合は外科手術が必要になります。

解離のショックで救急車が到着する前に突然死する方もいるため、急性大動脈解離の正確な生存率は明らかではありません。冒頭で述べたように、現在の報告では、症状の発症から1時間当たり1~2%の致死率ともいわれています。これは非常に高い数値と考えます。

また、亡くなった方のうち60%は病院に到着する前に死亡が確認されているという報告もあります。一方で、病院に搬送され手術を受けた場合、患者さんの生存率は約90%です。

つまり急性大動脈解離においては、できる限り早く、適切な病院に到着できるか否かで患者さんの生存率が大きく左右されるのです。患者さん自身で救急車を呼ぶことが難しい場合もありますので、、周囲の方がいち早く気づいて病院に連絡する必要があります。

急性大動脈解離の場合、治療開始時間が早ければ早いほど救命できる可能性が高まります。発症後数時間以内には、血圧を下げるなど何らかの治療介入がなされることが重要といわれています。急性大動脈解離を発症すると、血圧が160以上に上昇しますから、まずはその血圧を降圧薬によって下げなければなりません。その後、手術を行い解離した血管を治療していきます。

最後に、私たちが現在大動脈瘤に対して積極的に行っているステントグラフトの血管内治療についてご紹介します。

ステントグラフトとは、金属製の骨格に支えられた人工血管を足のつけ根の血管から挿入し、動脈瘤のなかに留置する治療法です。胸やお腹を大きく切開しないため、患者さんに手術創が残りにくいという特徴があります。

ステントグラフトの血管内治療は大動脈瘤に対する術式であり、急性大動脈解離に対する治療法ではありません。ただし、弓部大動脈置換術を行った患者さんの慢性期に、追加的治療として下行大動脈にステントグラフトを挿入する場合や、解離による臓器障害を伴ったB型の急性大動脈解離に対して、下行大動脈の亀裂部位を閉鎖する目的でステントグラフト血管内治療を用いる場合があります。

当院で大動脈解離の慢性期にステントグラフトを挿入した患者さんはすべて良好な経過を辿っており、引き続き我々が定期的な外来診療にてフォローアップを行っています。

開胸手術のリスクが高い方に対して有効な方法と考えられています。また、開胸手術よりも速く実施できるので、緊急で治療が必要な患者さんに対しては有効な手術であると考えられます。

急性大動脈解離に対して用いられる人工血管置換術は、解離した血管を摘出して人工血管に取り換える手術であるため、一度取り換えた部分が再び悪化することはありません。しかし、ステントグラフトは動脈瘤の内部で人工血管を挿入し、将来的に動脈瘤が小さくなることを期待する長期的な観点の手術です。つまり、手術後も動脈瘤自体は患者さんの体内に残っていることになり、場合によっては動脈瘤が徐々に拡大してくることもあります。

今まで感じたことのないような激しい痛みが胸と背中に起こった場合、我慢しないで直ちに助けを求め、周囲の方に救急車を呼んでもらってください。急性大動脈解離は、一秒一刻を争う疾患であり、早く病院で治療を受けるほど救命できる可能性が上がります。救急車を呼ぶことに躊躇してしまったり、翌日まで待つことを考える方もいらっしゃるのですが、決して我慢せず病院に来ていただきたいと考えます。

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