大動脈瘤とは、人体でもっとも太い血管である大動脈の一部がこぶのように異常に膨らんだ状態を指す言葉です。高齢の男性に発症することが多いといわれており、高齢化の進展とともに患者数は増加傾向にあります。
大動脈瘤の多くは目立った自覚症状がないことが特徴で、ある日突然、破裂を起こすことがあります。また、大動脈瘤のタイプによっては発生時に痛みを感じることもあり、早期に治療を必要とする場合が多いです。それでは、大動脈瘤で現れる症状にはどのようなものがあり、どのようなときに注意が必要なのでしょうか。
大動脈瘤はでき方によって、“真性大動脈瘤”、“仮性大動脈瘤”、“大動脈解離(解離性大動脈瘤)”の3つに分けられます。このうち、大動脈解離と呼ばれるものは、大動脈の血管構造が裂けることで起こるため、発生時に胸や背中に激しい痛みを感じることがあります。
一方、ほかのタイプの大動脈瘤は目立った自覚症状がないことが多く、症状がないまま拡大して、ある日突然破裂を起こします。破裂に至ると激しい痛みを生じ、ショック状態に陥って命に関わることも少なくありません。また、大動脈瘤ができる位置によっては、こぶで周りの器官が圧迫されることで、後述するような漠然とした症状が現れることもあります。
破裂や解離を起こしていない大動脈瘤の場合、明らかな自覚症状がないことが多いです。しかし、大動脈瘤の状態によっては何らかの症状が現れ、発見のきっかけとなることもあります。
一般的には無症状のことが多いですが、こぶが大きくなるときに痛みを感じることもあります。また、こぶができる位置によっては、何らかの症状が現れることがあります。たとえば、以下のようなものが挙げられます。
【胸部にある大動脈瘤の場合】
【腹部にある大動脈瘤の場合】
しかし、これらの頻度は高くなく、あっても漠然としたものであることが少なくないため、健康診断などをきっかけに見つかることも多いでしょう。
激しい痛みとともにショック状態を起こし、意識消失、心停止に至ることがあります。早急に手術を行えれば助かることもありますが、残念ながら手術室に到着する前に命を落としてしまうことも多いといえます。手術室にたどり着いた場合でも、救命率は50%程度といわれており、辿り着けなかった場合を考えるとさらに低いといえます。
大動脈全層が破けてしまうものを大動脈瘤破裂とすると、大動脈壁の内膜のみが避けて起こるものが大動脈解離です。大動脈解離も大動脈瘤から発症することがしばしばあります。大動脈解離は発症時に、突然の引き裂くような胸、背中の痛みを感じます。しかし、約10%の人には痛みがないことがあり、そのときは失神や嘔気、嘔吐といった症状が現れることもあります。
大動脈解離の多くは発症後すぐに緊急の治療が必要になります。スタンフォードA型といわれる心臓に近い上行大動脈に解離が発症した場合、開胸手術をしなければ90%の方が命を落としてしまいます。背中側にある下行大動脈以下に解離を起こすスタンフォードB型の解離であっても10%の方が死亡するという極めて重篤な病気であり、緊急で降圧治療が必要になります。
発症後2週間以上経過した大動脈解離は慢性大動脈解離と呼ばれ、臓器虚血や破裂の危険性は少なくなりますが、解離した血管は年単位で動脈瘤を形成していくことになります。一度解離を起こしてしまった血管は、生涯にわたるフォローアップが必要です。
上述のように大動脈瘤は自覚症状に乏しく、明らかな自覚症状が現れたものは大動脈瘤破裂や急性大動脈解離といった、危険な状態であることも少なくありません。これらは一度発症すると命に関わる病気であるため、発症を未然に防ぐことが大切です。
大動脈瘤破裂を予防するためには、破裂する前の段階で大動脈瘤を見つけ、適切な治療を行う必要があります。上記の自覚症状が現れた場合はもちろんのこと、健診や人間ドックでCT検査やエコー検査を定期的に受けるとよいでしょう。また、もし胸部や背中に激痛が起こった場合は直ちに救急車を呼びましょう。
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川崎幸病院川崎大動脈センター センター長/大動脈外科部長
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