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大動脈瘤に対する「人工血管置換術」とは?手術の流れや起こりうる合併症について

大動脈瘤に対する「人工血管置換術」とは?手術の流れや起こりうる合併症について
大島 晋 先生

川崎幸病院川崎大動脈センター センター長/大動脈外科部長

大島 晋 先生

目次
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この記事の最終更新は2019年02月01日です。

大動脈瘤とは、心臓から全身へ流れる血液の通り道となる、胸部や腹部の大動脈が(こぶ)状に膨らむ病気です。大動脈瘤が大きくなって破裂すると、大出血を起こして命にかかわる危険性があるため、破裂のリスクがある場合には治療を行う必要があります。

今回は、川崎幸病院 川崎大動脈センター・大動脈外科部長兼大動脈センター センター長である大島晋(おおしますすむ)先生に、大動脈瘤の治療法の一つである人工血管置換術についてお話を伺います。

大動脈瘤に関する内容は記事1『大動脈瘤とは?解離や破裂をしない限り無症状であることがほとんど』をご覧ください。

大動脈瘤 

胸部や腹部の大動脈が()状に膨らむ「大動脈瘤」では、腹部の場合5cm以上、胸部の場合5.5cm以上の瘤になると、破裂リスクが高くなるといわれています。大動脈瘤が破裂すると、体内で大出血を起こし、命にかかわる危険性があります。

そのため、破裂リスクが高いと考えられる大動脈瘤に対しては、破裂を予防するための治療を行う必要があります。

治療の方法としては、外科手術である「人工血管置換術」と血管内治療である「ステントグラフト内挿術」の2つの方法があります。

どちらの治療を行うかは、主に大動脈瘤の形態や場所によって決定します。

大動脈瘤の形態には、「真性大動脈瘤・仮性大動脈瘤・解離性大動脈瘤」があり、解離性大動脈瘤では、解離した弱い血管にステントグラフトを挿入することは危険性が高いといわれています。そのため、解離性大動脈瘤に対しては人工血管置換術を行うことが一般的です。

また、大動脈瘤が発生した場所に枝分かれしている血管がある場合には、ステントグラフトを留置することは困難であるため、人工血管置換術が選択されます。

人工血管置換術に関する詳細は後述で、ステントグラフト内挿術に関する詳細は記事4『大動脈瘤に対する「ステントグラフト内挿術」とは−メリット・デメリットは?』で詳しく解説します。

*真性大動脈瘤…動脈壁の脆弱化に伴い大動脈が拡張することによってできる瘤

*仮性大動脈瘤…動脈壁が破綻して、血管外にできる瘤

*解離性大動脈瘤…大動脈の内膜が裂けて、中膜と外膜の間に血液が入り込むことによってできる瘤

人工血管置換術とは、お腹や胸を切開して動脈瘤を切除したあと、その部分を人工血管に置き換える治療法です。

人工血管置換術は、大動脈瘤がある場所によって大きく3つの術式に分かれます。

  • 弓部(きゅうぶ)大動脈人工血管置換術…上行から弓部にかけて発生した大動脈瘤
  • 下行(かこう)大動脈人工血管置換術…弓部から下行にかけて発生した大動脈瘤
  • 胸腹部大動脈人工血管置換術…下行から腹部の下にかけて発生した大動脈瘤

それぞれの術式によって、手術の方法や流れは異なります。次章からは、術式ごとの手術の流れについて解説します。

 胸骨正中切開、人工心肺の確立

弓部大動脈人工血管置換術では、まず胸の真ん中を20cmほど切開する「胸骨正中切開」を行います。胸骨正中切開を行い、心臓と大動脈を確認することができたら、次に人工心肺を確立します。

人工心肺とは、止まっている心臓に代わって、人工的に心臓や肺の役割をする補助手段のことです。弓部大動脈人工血管置換術は、心臓を止めて手術を行うため、人工心肺を用います。

弓部大動脈人工血管置換術における人工心肺の確立では、上行大動脈に「送血管」という血液を送るためのチューブをつなぎ、右房、上大静脈、下大静脈に「脱血管」という血液を抜くためのチューブをつなぎます。右房から抜いた血液を、体外で酸素化して上行大動脈へ送ることで、全身の循環を保つことができます。

また、このとき血液が通るチューブを氷で冷却することで、体温を20度まで低下させる「超低体温循環停止法」を行います。体がだんだんと冷えてきた段階で、上行大動脈を遮断(クランプ)して、心臓を守るための心筋保護液を心臓に注入します。

体温が20度まで冷却されると、心臓も冷え、小刻みにけいれんしたあと心停止します。

心停止が確認されたら、人工心肺も止め、全身の血液循環を停止します。

血液循環が停止しても、全身を冷却することで、下半身の臓器は2時間ほど機能を維持することができます。

しかし、脳と心臓は30分以上経過すると臓器障害が起こる危険性があります。そのため、脳の血管に血液を送るためのチューブを挿入して、脳還流を行うことで、脳の血流を確保した状態で手術を行います。心臓は、先ほどご説明した心筋保護液によって保護されます。

大動脈の切除

人工心肺を確立したら、動脈瘤を切除し、人工血管を縫合します。

人工血管の縫合では、まず心臓からもっとも遠い、遠位側(えんいそく)と呼ばれる部分を縫合します。また、弓部大動脈には、「腕頭(わんとう)動脈・総頸(そうけい)動脈・鎖骨下動脈」といった脳や腕につながる重要な血管が3本出ているため、それらについても1本ずつ人工血管と縫合していきます。

これらの縫合を行っている間に、人工心肺を再開し、全身の体温を少しずつ元に戻していきます。

最後に、心臓にもっとも近い中枢側(ちゅうすうそく)と呼ばれる部分を縫合したら、上行大動脈の遮断を解除します。すると、心臓への血流が再開するため、心臓が再び動き始めたら、人工心肺を少しずつ緩めていきます。

心臓が正常に動いていることが確認できた段階で、人工心肺から完全に離脱します。その後、止血を行い、切開した胸骨をワイヤーで留め、傷口を閉じて手術終了です。手術時間は約5時間です。

下行大動脈人工血管置換術の流れ

下行大動脈人工血管置換術では、左開胸といって、左側の第5肋骨のすぐ下を肩甲骨からみぞおち付近にかけて45〜50cmほど切開します。このときの患者さんの体位は、右側臥位(みぎそくがい)(右側部を下にして横になった状態)です。

左開胸をしたら、視野を確保するために左肺の空気を抜き、右肺だけで換気を行います。

大動脈瘤と大動脈が見えたら、大動脈(動脈瘤の上流と下流)を遮断する部位を決定し、その周辺を剥離(はくり)します。

下行大動脈人工血管置換術では、左心バイパス法による人工心肺を行います。左心バイパスでは、肺静脈に血液を抜く「脱血管」をつなぎ、足の大腿動脈に血液を送る「送血管」をつなぎます。

下行大動脈人工血管置換術は、大動脈を遮断して行うため、そのままの状態では下肢への血流が途絶えてしまいます。そこで、左心バイパスを用いることで、肺で酸素を取り込んだ血液の一部を、心臓や大動脈を介さずに、下半身へと送り出すことが可能です。

また、左心バイパス法では全身を冷却する必要はなく、心臓も動いた状態で行います。

人工血管を縫合

左心バイパスを確立したら、大動脈を遮断します。このとき、中枢側(心臓に近い側)の血流は心臓の拍動で保たれており、末梢側(心臓から遠い側)の血流は左心バイパスによって保たれています。

そのあと、動脈瘤を切除して、人工血管を縫合します。縫合が完了したら、大動脈の遮断を解除し、左心バイパスを外したあと、止血をして閉創します。

下行大動脈人工血管置換術の手術時間は約4時間です。

胸腹部大動脈人工血管置換術の流れ

胸腹部大動脈人工血管置換術では、下行大動脈人工血管置換術と同じく、第5肋骨の下を切開する左開胸で行います。ただし、切開範囲はさらに大きく、肩甲骨からお腹にかけて60〜70cmほど切開します。体位は、下行大動脈人工血管置換術と同様で右側臥位で行います。

皮膚を切開すると、胸とお腹を隔てている横隔膜があります。大動脈は横隔膜を貫く構造をしているため、横隔膜を切開して大動脈の側面を確認できる状態にします。

大動脈が確認できたら、下行大動脈人工血管置換術と同じ方法で左心バイパスを確立して、大動脈を遮断します。

このとき、腹部大動脈から出ている上腸間膜(じょうちょうかんまく)動脈、腹腔動脈、左右腎動脈の血流は遮断された状態にあります。そのため、上腸間膜動脈と腹腔動脈には血液を送るためのチューブをつないで血液還流を行います。また、左右腎動脈にもチューブをつないで約4度のリンゲル液を流すことで腎臓を守ります。

動脈瘤の切除、人口血管の再建

次に、動脈瘤を切除し、人工血管を縫合します。その後、上腸間膜動脈と腹腔動脈、左右腎動脈も再建します。

すべての縫合が完了したら、大動脈の遮断を解除し、左心バイパスを外したあと、止血をして閉創します。手術時間は7〜8時間ほどです。

人工血管置換術では、手術に伴って何らかの合併症が起こることがあります。弓部大動脈人工血管置換術で起こりうる合併症としては、主に以下のようなものが挙げられます。

反回神経(はんかいしんけい)とは、声帯の動きを司る神経のことです。反回神経は、弓部大動脈のアーチ部分のすぐ下を通っているため、人工血管を縫合する際に反回神経を傷つけてしまうことがあります。

反回神経麻痺を生じると、声がかれたりする症状が現れます。場合によっては、食べ物などが気道に入ってしまうことによる誤嚥性肺炎を起こすことがあります。

大動脈瘤の多くは動脈硬化によって起こります。動脈硬化では、アテローム(粥状)(じゅくじょう)と呼ばれるおかゆのようなどろどろとした物質が血管内に蓄積していることが多くあります。そのため、人工血管を縫合するときには、慎重にアテロームを除去しながら行います。このとき、取りきれなかったアテロームが、脳の血管へ流れて詰まると、まれに脳梗塞を起こすことがあります。

下行・胸腹部大動脈人工血管置換術に伴う合併症には、主に以下のようなものがあります。

先ほどご説明したように、下行大動脈人工血管置換術と胸腹部大動脈人工血管置換術では、肋骨部分を切開して行う左開胸で手術を行います。このとき、広背筋と僧帽筋という筋肉を切開することによって、術後の痛みが生じやすくなります。

術後に痛みが残ると、痛みによって深呼吸がしにくくなります。すると、呼吸が浅くなってしまうために、無気肺(肺の一部またはすべてに空気が入っていない状態)となり、呼吸状態が悪くなる合併症が起こることがあります。

対麻痺()とは両足が動かしにくくなる状態を指します。主に、胸腹部大動脈人工血管置換術で起こりやすい合併症です。

胸腹部大動脈人工血管置換術では、大動脈から脊髄につながっている「肋間(ろっかん)動脈」の再建を行います。しかし、肋間動脈の数は非常に多いため、すべてを再建することはできず、多くの肋間動脈が手術によって失われてしまいます。

すると、脊髄への血流が減少してしまうために脊髄梗塞を起こし、それによって対麻痺が生じます。

大島先生 

大動脈は、心臓から全身へ血液が流れる通り道であるため、非常に血流量の多い血管です。そのため、大動脈を少しでも傷つけてしまうと、大出血を起こし、患者さんの命を奪ってしまう危険性があります。

たとえば、簡単に縫合できると思っていた血管が、実際に見てみると動脈硬化によって石灰化(せっかいか)(石のような石灰成分が沈着している状態)していることがあります。石灰化が強い患者さんでは、「コンコン」と音が鳴るほど血管が硬くなっており、その状態では針を通すことができません。そのため、石灰成分を除去したうえで縫合する必要がありますが、慎重に行わないと血管を傷つけてしまう恐れがあります。

また、解離性大動脈瘤の場合、血管が(もろ)くなっていることが多いため、縫合した場所から出血が起こることもあります。

大出血などの重大な合併症のリスクを回避するためには、綿密な術前準備が欠かせません。

術前には、CT画像などから得られる情報をもとに、複数の心臓血管外科医の目で手術における「ピットフォール(落とし穴)」を探し出します。このとき、できるだけ多くのピットフォールを探し出し、一つひとつのピットフォールに対処できるような準備を行うことが非常に重要です。

患者さんごとに、血管の状態やピットフォールは大きく異なります。同じ人工血管置換術は2つとなく、毎回初めての手術に臨む気持ちで行わないと足をすくわれてしまいます。

しかし、どれだけ術前の準備をしっかりと行っても、予想もしていなかったことが術中に起こることもあります。そのような不測の事態に対して、迅速かつ適切な対処を行うためには、手術を標準化することが重要です。

当センターでは、安全性の高い手術を行うために、医師だけでなく、専属の看護師や臨床工学技士などと共に「人工血管置換術の標準化」に努めています。

引き続き、記事3『難易度の高い「人工血管置換術」に対する川崎大動脈センターの取り組み』では、川崎大動脈センター大動脈外科における、難易度の高い人工血管置換術を安全に行うための取り組みについてお話を伺いました。

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