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大動脈瘤に対する人工血管置換術は、数ある心臓血管外科領域の手術の中でも、非常に難易度の高い手術です。川崎幸病院川崎大動脈センターでは、年間650件以上(2018年1月~2018年12月実績)の人工血管置換術を行っており、他院で手術が難しいといわれた患者さんも積極的に受け入れています。

今回は、川崎幸病院 川崎大動脈センター・大動脈外科部長兼大動脈センター 副センター長である大島晋(おおしますすむ)先生に、難易度の高い人工血管置換術を標準的に行うための取り組みについてお話を伺いました。

人工血管置換術の方法や合併症ついては、記事2『大動脈瘤に対する人工血管置換術とは?手術の流れや起こりうる合併症について』をご覧ください。

難易度の高い手術ほど「標準化」が求められる

大動脈は、心臓から出た血液が全身へと流れていく通り道であり、非常に血流量の多い血管です。そのため、大動脈瘤に対する人工血管置換術を行う際に、大動脈を少しでも傷つけてしまうと、大出血が起こり、患者さんの命を落としてしまう危険性があります。

川崎大動脈センターでは、このようなリスクに対して、手術にかかわるスタッフ全員が適切な対処を行うために、手術の標準化に努めています。

たとえば、胸腹部大動脈瘤は、動脈瘤の位置によって分けた「クロフォード分類」というものがあります。当センターでは、それぞれのクロフォード分類に応じて、手術をマニュアル化しています。

手術前の準備、人工心肺のセッティング、手術の手順など、スタッフ全員が毎回決められた方法で行うことを徹底し、独自の方法は決して入れないようにしています。

難易度の高い手術ほど手術を標準化しておかないと、不測の事態が起きたとき、「誰が何をすればいいのか」と慌ててしまうことになります。そして、その間に患者さんの命を奪いかねません。

毎回決まりきった方法で手術を進めることで、手順や方法について考える時間を減らすことができ、その分「いつもと違うことが起きていないか」と注意力をはたらかせる時間にあてることができます。不測の事態に対して、迅速かつ適切な処置を行うためには、手術の標準化が非常に重要なのです。

人工血管置換術の標準化を実現するために

大動脈の外科手術におけるスタッフ教育

人工血管置換術の標準化は医師の力だけでは実現せず、手術に携わるスタッフ全員の協力が必要不可欠です。

当センターには、大動脈の外科手術(人工血管置換術や大動脈基部再建術など)における専属看護師と専属臨床工学技士が在籍しています。

手術方法などを共有する術前カンファレンスでは、手術に携わる専属スタッフ全員で、手術におけるピットフォール(落とし穴)を共有して手術に臨みます。

術中は、先ほどお話ししたように、マニュアル化された手順に則って、それぞれのスタッフが決められた方法で手術を行います。特に器械出し看護師(医師へメスや鉗子を手渡す看護師)は、マニュアルを徹底して覚え込み、看護師によって器械の渡し方やタイミングが異ならないようにしています。器械出しがスムーズにされることによって、手術もスムーズに進めることができます。

人工血管置換術のような難易度の高い手術の場合、医師の技量がどれだけ高くても、手術を成功させることはできません。たとえば、自動車レースのF1でも、ドライバーがプロなだけでなく、ガソリンを入れる人、タイヤのネジを締める人、全員がプロのF1のスタッフです。

手術も同様で、スタッフ全員が同じ手順、同じ方法で手術を繰り返すことで、安全性が高まるだけでなく、手術の効率や精度も向上していきます。

鉗子…組織をつかんだり引っ張ったりするための器具

人工血管置換術の実績を積み重ねる

人工血管置換術の標準化が実現できている大きな理由は、当センターにおける人工血管置換術の症例数にあります。

当センターでは、年間800件以上(大動脈基部再建術、胸部大動脈人工血管置換術、胸腹部大動脈人工血管置換術、腹部大動脈人工血管置換術、腹部大動脈ステントグラフト内挿術、胸部ステントグラフト内挿術含む)を実施しています。(2018年1月〜2018年12月実績)。

このように、症例数が多くあるために、人工血管置換術を種類ごとに細かくマニュアル化することが可能です。たとえば、先ほどお話しした胸腹部大動脈人工血管置換術のクロフォード分類ごとのマニュアル化に関しても、胸腹部大動脈人工血管置換術の手術件数が多いために実現できています。

方法を変えるのではなく、同じ方法を続けることで手術を洗練させていく

当センターでは、同じ方法による手術を続けていくことで、人工血管置換術の手術成績の向上に努めています。

たとえば、弓部大動脈人工血管置換術の場合、体温を20度まで冷却して循環停止状態で手術を行います。それが近年、冷却温度を25度にすることで、体温をもとに戻す時間を削減できたり、出血リスクが軽減できたりするのではないかといわれはじめています。

しかし、冷却温度を25度に変えたことによって何らかの合併症が起きてしまえば、患者さんの命を危険にさらすことになります。

当センターでは、現時点で問題が生じていない限り、新しい方法を取り入れることは基本的にはありません。安全性の高い手術を行うために、一つの方法を洗練させていくようにしています。