インタビュー

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の治療―完治は可能?

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の治療―完治は可能?
木村 宏 先生

名古屋大学 大学院医学系研究科ウイルス学 教授

木村 宏 先生

この記事の最終更新は2017年08月09日です。

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は、EBウイルスが活性化し全身にあらゆる症状を引き起こす疾患です。病状が進行すると命にかかわる可能性があります。今までは有効な治療法がないといわれてきましたが、近年、造血幹細胞移植を実施すると根治できる可能性があることがわかってきました。記事1『慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の原因や症状とは』に引き続き、名古屋大学大学院医学系研究科 総合医学専攻 微生物・免疫学講座 ウイルス学 教授の木村 宏先生に、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の治療や、生存率などの予後、早期発見のための活動などについてお話を伺いました。

提供:PIXTA

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は、EBウイルスという成人の日本人の90%以上が保有するウイルスが突如活性化し、発熱やリンパ節の腫れ、皮膚の症状、血小板などの減少や白血病悪性リンパ腫など、全身にあらゆる症状を引き起こす疾患です。年間で多くても100名程度しか新たに発症しないまれな疾患であり、日本では小児慢性特定疾病に指定されています。

小児での発症が多数であるものの、近年では本疾患の認知度の向上などにより、成人での発症、発見される例が増えてきています。しかしながら、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)はまだ多くの方に知られているとはいえない状況です。そのため発見が遅れ、予後不良となるケースもあります。

試験管を振る感じの検査

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は、通常の血液検査では確定診断が難しい疾患です。そのことから、保険適用外の専門的な検査も含めて実施し、確定に至ります。

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)では3段階の検査があります。

1.抗体検査

EBウイルスに感染しているかどうかを調べる検査です。慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)に感染していると、抗体が異常に高くなることがあります。抗体検査は健康保険を使用して受けることができます。しかし、必ずしもすべての患者で抗体値が高いわけではありませんので、この検査法の役割は限定的です。

2.EBウイルス感染症迅速診断(リアルタイムPCR法)

本疾患を疑った場合は、EBウイルスDNA定量の実施が必須です。本検査は、血液中のEBウイルスの量を調べることでEBウイルスが実際に増えているかどうかをみます。慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の場合は、血液中のEBウイルスのDNA量が102.5コピー/μgDNA以上のことが多いといわれています。

この検査はある程度大きな病院に行けば実施可能ですが、健康保険の適用外となり、検査費用は原則自己負担です。

3.どの細胞がEBウイルスに感染しているか調べる検査

抗体検査やEBウイルス感染症迅速診断を経ても、確定には至りません。類似疾患を除外するために、最後にどの細胞がEBウイルスに感染しているのかを調べる検査を実施します。具体的には蛍光抗体法、免疫組織染色またはマグネットビーズ法などの細胞解析と、EBNA、EBEAR、またはEBウイルスDNA検出などのウイルス検出を組み合わせて行います。この検査を実施できる施設は限られています。

これらの検査を実施し、以下の診断基準をすべて満たすと慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)と診断されます。

<慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)診断基準>

  • 1 伝染性単核症様症状が3か月以上持続(連続的または断続的)
  • 2 末梢血または病変組織におけるEBウイルスゲノム量の増加
  • 3 T 細胞あるいはNK細胞にEBウイルス感染を認める
  • 4 既知の疾患とは異なること

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の類似疾患には、先天性免疫不全症やエイズなどの後天性の免疫不全疾患、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)が関連しない単独の悪性リンパ腫白血病があげられます。これらは症状がとても似ているため、抗体検査だけでなくEBウイルス感染細胞の同定検査をしっかり行い、鑑別する必要があります。

子どもの抗がん剤治療

発熱やリンパ節の腫れを抑えるための、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)や免疫抑制剤のシクロスポリンを用いた治療が実施されますが、これらは一時的に症状を抑える対症療法に過ぎず、根治には至りません。特に発熱やリンパ節の腫れなど、活動性の症状が強く出ている場合は、病気の進行が早く、EBウイルス感染細胞ががん細胞へと変異してしまうために積極的に化学療法や、後述する造血幹細胞移植を行います。一方、蚊刺過敏症など皮膚症状にとどまる軽症例では、すぐに化学療法や造血幹細胞移植を実施せずに、薬で症状を押さえながら経過観察をすることもあります。

原則、放射線治療を行うことはありません。

EBウイルスに感染した細胞を根絶やしにしなければ、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は完治に至りません。そこで前述の治療と組み合わせながら、造血幹細胞移植を実施します。

造血幹細胞移植とは、健康な方から造血幹細胞(血液のもとになる細胞)を移植する治療法です。

造血幹細胞移植は、基本的には年齢を問わず受けることができます。しかしながら造血幹細胞移植は先の化学療法も含め、副作用などのリスクが高い治療法です。そのため特に小児の場合は治療に踏み切ることに迷われると思います。その際には主治医とよく相談し、どの治療を受けるのかしっかりと考えてください。

また、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)のセカンドオピニオンを実施している病院もあります。私の在籍する名古屋大学医学部附属病院のほか、東京医科歯科大学医学部附属病院、大阪府立母子保健総合医療センターが慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)のセカンドオピニオン外来を設けています。もし治療に迷われたら、これらのセカンドオピニオンを利用するのもひとつの方法です。

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の正確な生存率はまだ明らかになっていません。少し古いデータですが、発症後15年生存率が、移植を受けない患者さんで25.7%、移植を受けた患者さんで60.6% であったという報告があります。最近の大阪府立母子保健総合医療センターの報告によると、1〜37歳の患者さん18名に移植前の化学療法を弱めたうえで造血幹細胞移植を実施したところ、4年後の生存率が90%以上であったとのデータがあります(しかしながら、このデータは母数が少ない点、造血幹細胞移植を受けられる患者さんは比較的状態のよい患者さんである点などを考慮する必要があります)。

罹病期間や年齢も治療成績との相関があります。罹病期間が短いほど造血幹細胞移植による治療成績は向上します。年齢も、成人よりは小児のほうが化学療法や造血幹細胞移植での治療成績がよいと報告されています。

木村 宏先生

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)はまれな病気であり、似た症状を示す類似疾患も多くあります。そのためすぐに慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)を疑う必要はないと思います。しかし、症状が1か月以上など長期にわたり持続する場合は、まずは内科や小児科のかかりつけ医に相談するとよいでしょう。

まれな疾患ですが、近年では認知度の向上もあってこの病気を知る医師は増えつつあります。また、2016年には私が委員長として関わった『活動性EBウイルス感染症とその類縁疾患の診療ガイドライン 2016』が刊行されました。本ガイドラインをもとに医師が適切な診断・治療ができるようになっています。

一方で課題もあります。そのひとつが慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の確定診断に必要な検査の一部がいまだ保険適用外である点です。この検査が保険適用となれば、さらなる早期発見につながると考えています。私たち医師や『慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の患者会(SHAKE)』などが厚生労働省に保険適用を求める活動を実施しているところです。これからも引き続き、早期発見・治療に向けて研究を含めた活動をしていきますから、患者さんも悲観的にならずに、まずは主治医としっかり相談をして今後の治療について考えてみてください。

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