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全日本病院協会の役割と課題-民間病院が安定的な経営を維持し、地域医療を...
超高齢化社会の到来を目前に控え、中小民間病院を主な会員とする全日本病院協会は今、全国各地域病院の意見集約や医師不足問題解消に力を注いでいます。2017年6月、これまで副会長を務めてこられた猪口雄...
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全日本病院協会の役割と課題-民間病院が安定的な経営を維持し、地域医療を支えていくために

公開日 2017 年 09 月 06 日 | 更新日 2017 年 09 月 06 日

全日本病院協会の役割と課題-民間病院が安定的な経営を維持し、地域医療を支えていくために
猪口 雄二 先生

全日本病院協会会長/寿康会病院理事長・院長

猪口 雄二 先生

超高齢化社会の到来を目前に控え、中小民間病院を主な会員とする全日本病院協会は今、全国各地域病院の意見集約や医師不足問題解消に力を注いでいます。2017年6月、これまで副会長を務めてこられた猪口雄二先生が全日本病院協会の新会長に就任されました。猪口新会長は、日本が目下の課題とする2025年問題だけでなく、その先にある人口減少社会を見据えた医療制度改革が必要であるとおっしゃいます。日本の医療機関がこれから直面する課題とその解決案、また、今後求められる病院総合医の育成や介護との連携について、猪口新会長にお話しいただきました。

全日本病院協会とは-民間病院を主体とする全国組織

地域医療の支える使命のもと、全国各地域の声を吸収

昭和35年に設立された全日本病院協会(全日病)は、現在約2,500病院が加入する公益社団法人となっています。加入する病院の多くは民間の中小病院であり、全日病は地域医療を守るという使命を果たすために、会員病院が持続可能な経営を維持できるよう環境整備にも注力しています。

会員病院の課題は地域の特性や事情により大きく異なるため、それぞれの声を吸収していくことは、全日病の大きな仕事のひとつと考えます。

富山県の医療体制を例に-民間病院の役割や課題は地域ごとに異なる

先日私は講演のため富山県に伺いました。富山県は東京都とは異なり、急性期医療を公立病院が担い、慢性期医療を民間病院が担っているという特徴があります。この場合、全日病は富山県の会員病院の特性や課題に応じ、他の地域に伺うときとは異なる視点で講演を行なう必要があります。ここでは、富山県を例にあげましたが、中四国の民間病院に目を向けると抱える課題はまた異なるものとなります。

会員病院各々が属する地域で活躍していくためには、それぞれの声を傾聴することが不可欠です。私は全日病の新会長として、各地域の意見を吸い上げることで、より強固な全国組織を形成していきたいと考えています。

病院総合医を増やす-現役医師が働きながら受けられる研修の計画

新たなプライマリ・ケア医が生まれ育つ間にも社会の高齢化は進行してしまう

患者さんと話す医師

全日病には21の委員会があり、それぞれの目的に沿った活動を展開しています。現在全日病では、これらの委員会に加えて、新たに病院総合医の研修会を立ち上げたいと計画しています。

超高齢化社会を迎えるわが国では、高度な専門性に特化した医師だけでなく、患者さんを総合的にみることができる医師の増員が欠かせません。プライマリ・ケア医を日本で育成しようとする動きはあるものの、現在教育を受けている学生が医療の現場で経験を積み一人前のプライマリ・ケア医として活躍し始めるまでには長い時間がかかります。一方、既に時代は病院総合医を求め始めています。

臨床経験豊かな医師に新たな視点を与える研修

そこで、特に中小の民間病院を主な会員とする全日病では、現役の医師を対象として、働きながら総合的な診療を行うスキルを習得できる研修を実施したいと考えています。これまで外科領域で活躍されていた医師のなかには、一定の年齢に差し掛かったことで、手術室を離れ、新たなスタートを切ろうとされている方も多々おられます。こういった医師には、長年の臨床医としての経験から得た蓄積があるため、理解や技術の習得が非常に早いという強みがあります。

救急医療などを学ぶため、関連病院での実地研修も企図

現在考えている研修は、WEB研修を利用したり、土日などの休日に集合研修を実施するというものです。また、これまで小児科や救急科をみてこなかったという意欲的な医師のために、会員病院にお邪魔して実施研修を行うこともできればよいなと考えています。

研修で得られる資格はあくまで全日病独自のものですが、必ずや実務で役立つものと確信しています。

人口の高齢化に伴う医師不足問題をどう解消していくか?

横軸の医師と縦軸の医師のバランスを考える

病院総合医が増えることは、日本で問題となっている医師不足の解消にもつながるのではないかと考えています。団塊の世代が後期高齢者に到達する2025年を目前に控えた日本においては、「横軸の医師」と「縦軸の医師」、2種類の医師が適切に配置される必要があります。横軸の医師とは、前項で述べた病院総合医や救急医のことを指します。このほか、リハビリテーション医も横軸の医師として機能していくことが理想的だと考えています。横軸の医師は診療科といった縦割りの区分にとらわれず、広くさまざまな疾患に悩む患者さんをみる能力が求められます。

一方、縦軸の医師は専門的な高度医療を提供する大学病院や基幹病院の勤務医などを指します。今後は、高度な医療を提供する施設はある程度集約され、縦軸の医師もこうした医療機関に集って専門性を発揮していくことが求められます。現在打ち出されている地域医療構想においては、大学病院が地域の高度医療を担う機関として位置付けられていますが、人材やノウハウ、症例数などが集約された医療機関は、より広いエリアを医療圏とし、治療を求める患者さんに応えるべきであると考えます。

2025年の10年後、20年後を見据えた議論が必要

現在わが国では、段階の世代が後期高齢者に達する2025年問題への対応を目下の課題としています。しかし、その先の2035年、そして2045年には人口減少社会というより深刻な問題に直面します。現状の医師不足は明らかですが、その解消のためにただ医師を増やすということではなく、横軸の医師を育て、縦軸の医師を絞っていく戦略が重要だと考えるのです。

また、医師が看護師や薬剤師など、共に働く医療者に役割を振っていくタスクシェアリングやタスクシフティングの実行も求められます。

手のひらを合わせる

医師の働き方改革-慎重な舵取りと論点整理が重要

医師の働き方改革も、2025年に向けた医療制度改革を考えるうえでの重要なテーマです。現代の若手医師の仕事に対する考え方や価値観は、当然ながら私達が医師となった頃のそれとは異なります。議論の際には、私達の視点だけで物事をみつめることなく、多角的な視点を盛り込むことが必要でしょう。

また、医師になるまでに求められる知識や勉強時間は過去に比べて格段に増えているため、医師の働き方改革は、舵取りを誤ると医師不足を加速させるきっかけにもなりかねません。

医師の働き方を考える際には、医師の法制度上の位置づけなども見直さなければなりません。というのも、医師法における応召義務(医師は診療を求められたとき、正当な理由がない限り拒んではならないとする義務)と労働基準法による労働時間の定めは、どうしても相反してしまう部分があるからです。また、病院勤務医の自己研鑽(手術の見学、夜間の救急対応など)を労働とみなすのか否かといった議題についても、回答を出していく必要があるでしょう。

医師の働き方改革は、我々病院経営を守る立場にある組織だけでなく、労働基準監督署など複数の組織が関わり合いながら考えていくべき問題です。また、経営者が医師を労働者(企業における従業員)として守っていくという観点のみならず、患者さんに対して質が高く安全な医療を提供していくという観点に立ち、医師の働き方を考えていくことも必要です。そのためにも、まずは全日病のなかでじっくりと議論を重ね、早期に論点整理を行うことが重要と考えます。

医療と介護の連携-人生の最終段階において患者さんの尊厳を守るために

看取りの現場で起きているミスマッチ

人口が高齢化し、天寿を全うされる形で亡くなる方も増加するこれからの日本においては、医療と介護の連携も重要なテーマとなります。通常、介護施設では患者さんの容態が悪化した際、日ごろからその患者さんをみている在宅医やクリニックの医師(配置医)に連絡します。しかし、ときには医師と連絡がとれないこともあり、やむを得ず救急車を呼ぶこともあります。ところが、この場合患者さんは人生の最終段階にあるにも関わらず、高度な機能を持つ救急救命センターに搬送され、不要といっても過言ではない検査や治療を受けることとなります。これは、近年になり顕在化しはじめた現行の医療システム上の問題のひとつです。また、現行の規定では、救急救命センターで診療し、24時間以内に亡くなった場合、医師はその患者さんの死亡診断書を書くことができないため、警察にお願いしなければならないこともあります。このようなケースになることを防ぐためにも、医師法の解釈拡大も必要です。

高齢患者さんの尊厳ある死を叶えるために

医療システム上のミスマッチを防ぐためには、介護施設と在宅療養支援病院が手を携えることが大切です。たとえば、昼間患者さんの容態に悪化傾向がみられたときには早期段階で在宅療養支援病院へと患者さんを移す、あるいは介護施設で看取りたいという希望があるようであれば、夜間は配置医に変わり在宅療養支援病院の医師が出向くといった仕組みが必要なのではないでしょうか。

もちろん、患者さんやご家族のなかには病院への搬送を希望される方もおられます。これからの医療には、人生の最終段階における患者さんやそのご家族の意思に応える姿勢が求められます。制度として、人生の最終段階における尊厳ある死を叶えるための仕組みを作ることは勿論、最期のときにどのような医療を望むか、元気なときにご家族などと話し合って決めていただけるよう意識改革を促していくことも大切だと感じています。

山積する問題に同時並行で対応していくために

猪口先生

平成30年度医療・介護報酬同時改定に向けて

平成30年度医療・介護報酬同時改定もまた、2025年に向けた医療制度改革の重要なテーマのひとつです。私は長年全日病や四病院団体協議会(四病協)の診療報酬委員会に属してきましたが、平成30年度医療・介護報酬同時改定は決して容易な改定ではありません。検討されるべきことは多岐にわたりますが、まず一点目に、複雑化した診療報酬制度の「簡素化」は必ず行わねばならないことであると考えています。

また、今後社会保障制度を支える生産労働人口は減るものの、医療は確実に高度化(高額化)していきます。このようなジレンマを抱えるなかで、日本はどのように国民皆保険制度を維持し、調整していくかを真剣に考えなければなりません。

診療報酬改定だけでなく、医療構造も今以上に効率化を図らなければならなしでしょう。先述した医師の働き方改革も、医療構造の効率化に関わってくる問題です。

全日本病院協会の団結力強化と、関連協会との連携

このように、全日病の会員病院が直面する課題は山積していますが、いずれも同時並行で加速的に対処していかなければならないものばかりです。全日病には優秀な医師や経営者が多数所属しています。3本の矢ならぬ10本の矢として一致団結していくためにも、冒頭で述べた意見の集約は自身に課せられた使命のひとつであると感じています。これに加え、集約された声から生み出された全日病のスタンスを外部へと発信していくため、1か月に1回記者会見など、メディアへ向けた情報発信の場も設けていきたいと計画しています。

また、全日病がより強く団結するだけでなく、関連協会とも相談や情報共有を行いながら、時代に応じた医療のあり方を検討し議論していくことが重要であると考えます。

 

医療法人財団寿康会 寿康会病院理事長・院長を務め、2017年6月には民間病院を主体とする全国組織、全日本病院協会(全日病)の新会長に就任した。2025年問題など今後医療機関が直面する問題に対応していくため、地域ごとに異なる民間病院の声を吸収・調整し、論点整理をしながらより強固な全日病を作っていきたいと考えている。