膵臓をサポートし、脂肪分の消化吸収を助ける役割を持つ胆のう。肝臓で作られた胆汁の貯蔵庫でもある胆嚢に炎症が起こる「急性胆嚢炎」は、消化器を扱う診療科において比較的よくみられる疾患のひとつです。右上腹部の鈍い痛みや、右肩に現れる肩こり、背部痛や吐き気などを主症状とする急性胆のう炎は、放置してしまうと重症化し、死に至ることもある注意が必要な疾患です。福岡山王病院の肝臓・胆のう・膵臓内科教授の伊藤鉄英先生に、急性胆のう炎の原因と本疾患を発症しやすい人、重症度ごとの症状についてご解説いただきました。
胆のうは、肝臓で生成された胆汁を一時的に溜め、濃縮させる役割を持つ袋状の消化器官です。まずは、胆のうと胆汁が食べ物を消化吸収する過程でどのような役割を担っているのか、簡単にご解説します。
胃酸により消化された食べ物は十二指腸へと送られます。食べ物を受け取った十二指腸は、さまざまなホルモンを放出し、膵臓を刺激して膵液の生成を促します。1回の食事で作られる膵液の量は、成人で500ccほどです。膵液には消化酵素のリパーゼやアミラーゼなどが含まれており、消化吸収以外のときには閉じているオッディ括約筋が開口(弛緩)することで十二指腸へと流れ込みます。
一方、胆汁は肝臓で24時間常に生成され続けています。この胆汁を一時的に貯蔵し、5~10倍に濃縮している器官が胆のうです。胃酸により消化された食べ物が十二指腸へと送られると、コレシストキニンというホルモンの司令により、胆のうはギュッと収縮し、50cc~60ccほどの胆汁が十二指腸へと流れ込みます。オッディ括約筋とは、必要なときに膵液と胆汁を十二指腸へと流入させ、日ごろは逆流を防いでいる「蛇口」と捉えると、理解しやすいでしょう。
胆汁自体には消化酵素は含まれませんが、膵液と混ざりあうことでリパーゼなどを活性化させ、その働きをサポートする作用があります。また、胆汁に含まれる胆汁酸は、脂肪酸を消化吸収しやすい形に乳化させています。このような役割から、胆のうは腸内で膵臓の働きを助け、脂肪の消化吸収を助ける器官として知られています。
胆のうの壁に炎症が起こり、激しい痛みを主な症状とする急性胆のう炎は、私たちが日常の診療現場において高頻度で出あう疾患のひとつです。
急性胆のう炎の原因の約90%は、生じた結石(胆石)が胆のう管にはまり込み、閉塞してしまうことです。このような状態を嵌頓といいます。胆石の嵌頓により胆嚢管閉塞が起こると、胆汁はうっ滞あるいは逆流してしまい、細菌感染を起こして重症化する危険もあります。
突発的に激しい症状を伴い発症する急性胆のう炎とは異なり、持続的に続く慢性胆のう炎は、胆のう管が閉塞していない場合にも比較的軽い症状が継続します。これは、胆石の刺激などにより胆嚢壁に繰り返し炎症が起こっているためです。急性胆のう炎では、胆のうが浮腫などにより肥大しますが、慢性胆のう炎では胆のう壁が分厚くなり、胆のう自体のサイズは萎縮していきます。
急性胆のう炎を引き起こす胆石ができる原因は、多岐に渡ります。大きな要因として、胆のうの収縮機能が低下することが挙げられますが、機能低下の原因もまた一様ではありません。最近では、ヘリコバクター・ピロリ菌(HP)の感染により胆のうの収縮機能が落ちるといわれるようになり、専門家間でも話題となっています(2018年3月時点)。
また、同じ消化管である腸管の運動が低下することで、胆のうの収縮機能にも悪影響が及ぶことがわかっています。
また、原因は明らかになっていないものの、高脂血症や食生活の変化が胆石の生じる原因になっているともいわれています。
胆石は、主成分をビリルビンとするビリルビン結石と、コレステロールを主成分とするコレステロール結石に大別されます。(※頻度は少ないものの、この他の結石も多々あります。)
後者のコレステロール結石は、かつての日本ではほとんどみられませんでしたが、現代になり、日本人の食生活が高カロリー化、高脂肪食化したことによって増加しています。
前者のビリルビン結石とは、胆汁の粘張度(粘り気)が高くなり、うっ滞や細菌感染を起こすことにより、胆汁が凝集してできる結石です。
急性胆のう炎のリスク因子のうち、代表的な5つのリスクファクターを総称して“5F”といいます。
日本の場合、人口の大多数が黄色人種であるため、白人(Fair)を抜いて“4F”と表現することもあります。
急性胆のう炎が男性よりも女性に多い理由は、現時点ではわかっていません。ただし、女性の場合、50歳以降に発症のピークがあるため、更年期を境にホルモンバランスが崩れることが関係していると考えられます。ホルモンバランスの乱れは脂質分解能の低下にも影響するため、痩せ型の女性で若い頃と食生活が変わっていなくとも、更年期を過ぎて脂肪肝ができることがあります。胆のうの収縮機能の低下も、このような体の変化に関連して起こるのではないかと推測されています。
このほか、若い女性でも経口避妊薬(ピル)を内服している場合は、女性ホルモンの分泌が止まっているため、急性胆のう炎を発症しやすいといえます。
また、肥満体型の方が急激なダイエットをした際にも注意が必要です。
急性胆のう炎の典型的な症状は、右上腹部(右季肋部)に現れる鈍い痛みです。
軽症であれば、脂っこい食べ物を摂った後などに痛みが現れ、1~2時間ほどで収まります。食後の腹痛は、消化のために胆のう自身が収縮しようとしているにも関わらず、機能低下により収縮できないために起こります。
胆石が嵌頓し、胆のう壁に炎症が起こると痛みは鋭利なものに変わり、症状は持続するようになります。
急性胆のう炎の疑いがある場合、診察時に触診を行なうことが重要です。急性胆のう炎の典型症状には、右上腹部を押すと、圧痛により息が吸い込めなくなるというものがあります。
患者さんのなかには、エコー検査を行なうために機器を患部にあてた際、息がうまく吸えないと訴える方もおられます。この症状はMurphy(マーフィー)という医師が記録に残しているため、「マーフィー徴候」と呼ばれ、現在でも急性胆のう炎の診断のための重要な手がかりとなっています。
このほか、患部を押すと腹筋が緊張して硬くなる筋性防御(きんせいぼうぎょ)も、主要な症状として挙げられます。
消化不良のために、吐き気や嘔気が現れることも多々あります。これらの症状に続き、38度以上の発熱がみられることもあります。
また、腸管の動きも悪化するため、ガス溜まりにより腹部膨満感やつかえ感を感じることもあります。
急性胆のう炎の場合、神経系を通して肩こりが右肩に現れる患者さんもおられます。また、背中に鈍い痛みが現れることもあります。
急性胆のう炎の場合は右肩、膵臓に炎症が起こる急性膵炎の場合は左肩に肩こりが生じやすいため、問診の際には上記のような症状はないかどうか、こちらから質問を投げかけるよう心がけています。
急性胆のう炎は、軽症、中等症、重症に分類されます。
炎症が高度に進むと、白血球数やCRP値の上昇が認められます。CRPとは、体内で炎症が起こっているときに血清中に現れるタンパク質です。
また、画像検査を行なうと、胆嚢の周囲に液体が溜まる炎症性液貯留や、胆嚢壁の高度の肥厚が認められることもあります。
上記の症状に加え、肌が黄色くなる黄疸や膿腫などが認められた場合は、重症の急性胆のう炎と診断します。重症急性胆のう炎の症状には、ショックや細菌感染による敗血症など、命にかかわるものもあるため、緊急的な治療を要します。胆のうに膿が溜まっている場合、消化器内科において即座に体外に膿を排出する胆のうドレナージを行ったあと、外科的手術へと歩を進めます。
次の記事2『急性胆嚢炎の検査と胆嚢摘出術、再発率——ドレナージ後に手術を行なうことも』では、急性胆嚢炎の基本的な治療と、膿腫が認められた場合に行なうドレナージの方法、術後の生活についてご解説します。
国際医療福祉大学 教授、福岡山王病院 膵臓内科・神経内分泌腫瘍センター長
関連の医療相談が18件あります
急性胆嚢炎のオペの結果
昨日、急な腹部の激痛と微熱で、普段より逆流性食道炎の診察で通院中の総合病院を受診し、急性胆嚢炎の診断。 即入院し、今日、腹腔鏡オペ。 胆泥が少しあったものの、結石は無し。 ただ、炎症はかなり進んでおり、一部が壊死に近かったとのこと。 胆石や胆泥が少なくても、炎症が進行する原因は何かありますか。 ちなみに高脂血症や生活習慣病などの既往症はなく、日頃から、食事管理や生活管理に気をつけているのですが。
体の不調と不安感
先日、慢性胆嚢炎から腹腔鏡手術で胆嚢摘出術を行いました。 入院期間は6日間で術後の血液検査等も引っかかることなく経過良好で退院しました。 しかし、退院後に吐き気と喉のつまり感、胸の違和感で夜眠れなかったり、今日も背中の痛みと吐き気があります。 (喉のつまり感は以前に咽喉頭異常感症だと診断されました) 胆嚢摘出後の背中の痛みや吐き気などの症状はよくあることなのでしょうか? もしかして、他の病気ではないのか?手術したのにどうして痛いのか?と、不安感が強くなり夜なかなか眠れません。 喉のつまり感から眠れなかった次の日には循環器内科に行き、心電図、レントゲン等とってもらい異常なしでした。 半夏厚朴湯を処方されたので今はそれを飲んでいますが、手術した病院でもう一度検査をするなり相談した方がいいのでしょうか? それとも、精神的な不安感を取り除くために心療内科等にかかった方がいいのでしょうか? ちなみに5ヶ月ほど前に人間ドックで腹部エコーや胃カメラ等の検査もしておりますが、胆石以外は異常なしでした。
胆嚢炎 炎症数値が下がらない
胆嚢炎になってしまった義母のことで相談です。 強い痛みをしばらく我慢してしまったようで、病院に行った時にはかなり高い炎症だったことと、手術をするには72時間を過ぎてしまっていたことで、3日ほど抗生物質で様子を見て、その後ドレナージの処置を受けました。 その後、医師となかなか会えず詳しいことがわからないのですが、本人に聞くと、ドレナージ後に炎症の数値も下がらず、高い熱が続いているそうで、それが1週間続いているそうです。 ドレナージの処置をしても炎症や熱は続くものなのでしょうか? 手術は9月の半ばに予定されています。 今の時点でほかに何も出来ることがないのか、また、ドレナージをしても炎症も落ち着かず熱が続いているのはどのような状況が考えられるのでしょうか? 教えていただけますと有難いです。よろしくお願いします。
胆石との付き合い方、および今後想定されるリスクを教えてください。
3~4年前から人間ドックで胆石が複数あるという診断結果が出ています。5㎜程度の胆石だった頃(2年前)に医師に相談したところ、まだ小さいから経過観察と指導されておりました。今年のドックでは7㎜程度との診断でしたが診断書では経過観察との表記でした。普段の生活ではほとんど支障はありません。胆石が原因かは不明ですが稀に(年に2回程度)背中の左端の方が痛み出したり、脂っこいものを食べてすぐに便意を感じ軽い下痢をすることがあります。今後どのようなアクションを起こせばよいのか、想定されるリスク、どのように胆石と付き合っていくべきなのかご助言をお願いします。
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