急性胆のう炎は、重症化するとショックや敗血症を起こす危険もあります。そのため、基本的には診断がつき次第入院し、可能な限り早く胆のう摘出術を行なうことが理想とされています。しかしながら、炎症が高度に進行し、全身状態が悪化している場合は、すぐに外科で手術を行なうことはできません。たとえば、胆のうに膿が溜まっているときには、消化器内科で緊急的に「ドレナージ」と呼ばれる措置を実施し、体外へと膿を排出する必要があります。
急性胆のう炎の検査と治療、ドレナージの方法について、福岡山王病院の肝臓・胆のう・膵臓内科教授の伊藤鉄英先生にお伺いしました。
急性胆のう炎は、比較的診断しやすい疾患のひとつです。右上腹部痛や圧を加えたときに腹筋が緊張する筋性防御などの「マーフィー徴候」に加え、エコー検査による画像所見、採血検査による白血球数増加、CRP値増加のいずれかがみられれば、確定診断をつけることができます。
高度の炎症や穿孔(破れること)が起きている場合には、血中の白血球数が上昇します。また、体内で炎症や組織破壊が起こっている場合には、血清中にCPRと呼ばれるタンパク質が増加します。
このほか、血液検査では黄疸の原因となるビルビリンの値や、血中膵酵素の値も調べ、重症度や膵炎の合併の有無を確認します。
エコー検査では、胆のう腫大や胆のう壁の浮腫、胆のう周囲の炎症性液貯留の有無を確認することができます。急性胆のう炎の場合、胆のうのサイズは通常の1.5~2倍に腫れ上がります。また、描出された画像から、むくんだ胆のう壁の層も目視することができます。
なお、慢性胆のう炎でも胆のう壁が肥厚し、壁面が何層にもわかれている画像が描出されますが、胆のう自体のサイズは小さくなります。
重症度が高い場合は、胆のうの周囲に多量の炎症性物質を含む液体が溜まり、重い症例では胆のう壁が穿孔していることもあります。
このような異常所見を細かく調べ、正確に重症度分類を行なうためには、CT検査が適しています。
そのため、当院では(1)腹部超音波検査、(2)採血検査、(3)CT検査の3つをセットで行い、確定診断をつけています。
比較的待機的に処置を行える症例であれば、MRI検査を行います。急性胆のう炎のなかには、一定の割合で無石性の胆のう炎もみられます。しかし、一見無石性胆のう炎にみえているだけで、実際には胆石が胆嚢管の先にある総胆管へと落ちているケースも存在します。
総胆管に胆石が嵌頓している場合、胆嚢炎と胆管炎を併発するリスクもあるため、MRI検査で位置や大きさを正確に把握し、胆のう摘出術時に胆石も摘出する必要があります。
代表的な鑑別疾患は、膵臓に炎症が起こる急性膵炎です。患者さんのなかには、急性胆のう炎と急性膵炎を併発している方もおられます。
また、消化器を専門としない医師が、患者さんから症状のみを聞いて、急性胃炎などの胃腸疾患と間違えてしまう例もあります。
急性胆のう炎とは、適切な触診と血液検査、エコー検査さえ行えば診断をつけられる病気です。胃腸疾患や心疾患など、上腹部に痛みを伴う疾患との鑑別ためにも、疑わしい場合は上述した検査を実施することが大切です。
また、軽症の急性胆のう炎と慢性胆のう炎は症状がよく似ており、専門医でも鑑別が難しいケースがあります。
急性胆のう炎の診断がついた場合、基本的に全例入院となります。(※慢性胆のう炎の場合は、外来で経過を観察することもあります。)通常は、抗生物質や痛み止めを投与し、全身管理を行って腹腔鏡下胆嚢摘出術に備えます。
手術までの数日は、絶食し、飲水は喉を潤す程度に留め、可能な限り早い段階で手術を行います。
なお、炎症が肝臓にも及んでいるなど、病変が広がっている場合は、より安全に手術を行なうために、腹腔鏡手術から開腹手術へと移行します。
急性胆のう炎の発症後、腹腔鏡下胆のう摘出術を行うタイミングは、教科書的には48時間以内、難しい場合でもできる限り早く行うことが望ましいとされています。
急性胆のう炎の治療が原則早期の胆のう摘出術とされている理由は、ショックや敗血症を起こしてしまうと、命に関わるリスクもあるためです。ただし、すべての患者さんに対し、入院後すぐに手術を行えるというわけではありません。
たとえば、既に重症化しており胆嚢に膿が溜まっている場合、まずドレナージと呼ばれる内科的措置を行い体外へと膿を出さなければ、手術に進むことはできません。
急性胆のう炎は、胆のう壁に穿孔などが起こり、膿腫化していると死亡率が劇的に高くなる病気です。そのため、診察時に重症急性胆のう炎を発見したときには、一刻を争ってドレナージを行う必要があります。
特に高齢患者さんの場合、痛みを感じにくくなっていたり、異変を感じても我慢されてしまうことがあり、重症化してから初めて来院される傾向があります。高齢者の盲腸(急性虫垂炎)は自覚されにくく、医療者など、周囲が気をつけなければならない病気として有名ですが、これは急性胆のう炎にも共通していえることなのです。
膿を排出するためのドレナージには、皮膚と肝臓を通過して胆のうを穿刺(せんし)する経皮経肝的胆のうドレナージのほか、内視鏡的経乳頭的胆のうドレナージと呼ばれる手法もあります。
前者は一般的な胆のうドレナージの方法として、全国的に広く実施されています。肝臓と胆のうは密接しているため、肝臓にも廃液用の管を通すことで、体に害のある膿を漏出させることなく排出することができます。
膿腫化が認められる症例のなかでも特に緊急性が高いと判断した場合、当院でもこの方法でドレナージを行います。
より侵襲の少ないドレナージの方法としては、内視鏡的経乳頭的胆のうドレナージがあります。まず、口から側面鏡(前方ではなく横方向を映すカメラ)のついた特殊な内視鏡を挿れ、続いて十二指腸のファーター乳頭からガイドワイヤーを挿れて胆のう管に到達させます。このとき、ガイドワイヤーが胆のう管の方向へ正しく進んでいるかを確認するため、少量の造影剤を用います。
その後、鼻から挿れたゴムチューブをガイドワイヤーに添わせるように胆のう管まで持っていき、鼻から廃液を行うことがあります(内視鏡的経鼻胆道ドレナージ)。
内視鏡的経乳頭的胆のうドレナージにかかる時間は、20~30分ほどです。
まれに胆のう管に胆石が嵌頓しており、ガイドワイヤーをスムーズに進められない症例もありますが、直径0.025インチの非常に細いガイドワイヤーを用い、胆石の横をすり抜けるように通過させることもあります。また、経鼻的にチューブを入れることが難しいと判断したときには、すぐに経皮経肝的ドレナージへと切り替えます。
内視鏡的経乳頭的胆のうドレナージの特徴は、体に傷をつけないことです。ただし、内視鏡的経乳頭的胆のうドレナージにはスキルと経験を要するため、広く一般的に行われているわけではありません。
私たち消化器内科の医師の主な仕事は、検査と診断を行い、手術に充分に耐えられるよう患者さんの全身状態を整え、適切なタイミングで外科へとお渡しすることです。このプロセスのなかに、上述した膿腫ドレナージも含まれています。
しかし、全身麻酔下で行なう胆のう摘出術は、高齢患者さんや血液をサラサラにする抗凝固剤を服用中の患者さんなどには行なえません。このように、手術適応外となった場合は、炎症が治まるまで鎮痛剤や抗生物質などを投与しながら経過観察を行うこととなります。
ただし、炎症が落ち着き、胆のうを摘出せずに経過観察を行った場合、急性胆のう炎を再発する可能性があります。
そのため、仮に全身状態が悪く、一旦は胆嚢ドレナージを行い、全身管理を徹底したとしても、最終的には胆のうを摘出することが推奨されます。胆のう摘出術を行えば急性胆嚢炎を繰り返すことはありませんが、経皮的ドレナージを行い胆のう摘出術を実施しなかった場合の再発率は22~47%となっています。
この数値からも、手術に耐えうる患者さんには胆のう摘出術を行なうことが望ましいと結論づけることができます。
胆のうは胆汁を一時的に貯蔵し、濃縮して脂肪の消化吸収を助ける役割を持ちます。とはいえ、同じ哺乳類のなかにも、ネズミや馬など、生まれつき胆嚢を持たない無胆のう動物は多種存在しており、生きるために必ずしも無くてはならない器官というわけではありません。
ヒトは、脂肪分の多い食べ物を食べることも多い動物であり、より高い消化能力を得るべく、胆のうを持ったのだと考えられています。
しかし、胆のうを摘出してしまったとしても、脂肪分の消化吸収が全くできなくなるわけではありません。
人間とは大変適応力に優れた生き物であり、脂質を多く含む食事により自身の体調が悪化することを察知すると、自ずと摂取量を調整するようになります。そのため、胆のう摘出術を受けた患者さんが、その後過剰に太ってしまったり、嘔吐を繰り返してしまうということはありません。術直後からしばらくは、脂質の多い食事により消化不良を起こすこともありますが、時間と共にこのような症状も緩和されていきます。
胆のう摘出術を受けられた患者さんには、次のような食事指導をしています。
このように、食事の際の注意点は厳しいものではありません。胆のう摘出術後も、健康に問題のない範囲で食事を楽しむことができます。
胆のうは膵臓を助ける役割を担っている器官です。そのため、胆のう摘出後は、膵臓に負担をかけるよう、これまでの習慣を是正していくことが大切です。たとえば、飲酒は適量を守り、ストレスを溜め込まないよう注意することが重要です。
また、お酒を飲むときのおつまみは、脂質の多いピーナッツなどの安価な乾き物ではなく、「よいもの」を選びましょうとアドバイスしています。
国際医療福祉大学 教授、福岡山王病院 膵臓内科・神経内分泌腫瘍センター長
関連の医療相談が18件あります
急性胆嚢炎のオペの結果
昨日、急な腹部の激痛と微熱で、普段より逆流性食道炎の診察で通院中の総合病院を受診し、急性胆嚢炎の診断。 即入院し、今日、腹腔鏡オペ。 胆泥が少しあったものの、結石は無し。 ただ、炎症はかなり進んでおり、一部が壊死に近かったとのこと。 胆石や胆泥が少なくても、炎症が進行する原因は何かありますか。 ちなみに高脂血症や生活習慣病などの既往症はなく、日頃から、食事管理や生活管理に気をつけているのですが。
体の不調と不安感
先日、慢性胆嚢炎から腹腔鏡手術で胆嚢摘出術を行いました。 入院期間は6日間で術後の血液検査等も引っかかることなく経過良好で退院しました。 しかし、退院後に吐き気と喉のつまり感、胸の違和感で夜眠れなかったり、今日も背中の痛みと吐き気があります。 (喉のつまり感は以前に咽喉頭異常感症だと診断されました) 胆嚢摘出後の背中の痛みや吐き気などの症状はよくあることなのでしょうか? もしかして、他の病気ではないのか?手術したのにどうして痛いのか?と、不安感が強くなり夜なかなか眠れません。 喉のつまり感から眠れなかった次の日には循環器内科に行き、心電図、レントゲン等とってもらい異常なしでした。 半夏厚朴湯を処方されたので今はそれを飲んでいますが、手術した病院でもう一度検査をするなり相談した方がいいのでしょうか? それとも、精神的な不安感を取り除くために心療内科等にかかった方がいいのでしょうか? ちなみに5ヶ月ほど前に人間ドックで腹部エコーや胃カメラ等の検査もしておりますが、胆石以外は異常なしでした。
胆嚢炎 炎症数値が下がらない
胆嚢炎になってしまった義母のことで相談です。 強い痛みをしばらく我慢してしまったようで、病院に行った時にはかなり高い炎症だったことと、手術をするには72時間を過ぎてしまっていたことで、3日ほど抗生物質で様子を見て、その後ドレナージの処置を受けました。 その後、医師となかなか会えず詳しいことがわからないのですが、本人に聞くと、ドレナージ後に炎症の数値も下がらず、高い熱が続いているそうで、それが1週間続いているそうです。 ドレナージの処置をしても炎症や熱は続くものなのでしょうか? 手術は9月の半ばに予定されています。 今の時点でほかに何も出来ることがないのか、また、ドレナージをしても炎症も落ち着かず熱が続いているのはどのような状況が考えられるのでしょうか? 教えていただけますと有難いです。よろしくお願いします。
胆石との付き合い方、および今後想定されるリスクを教えてください。
3~4年前から人間ドックで胆石が複数あるという診断結果が出ています。5㎜程度の胆石だった頃(2年前)に医師に相談したところ、まだ小さいから経過観察と指導されておりました。今年のドックでは7㎜程度との診断でしたが診断書では経過観察との表記でした。普段の生活ではほとんど支障はありません。胆石が原因かは不明ですが稀に(年に2回程度)背中の左端の方が痛み出したり、脂っこいものを食べてすぐに便意を感じ軽い下痢をすることがあります。今後どのようなアクションを起こせばよいのか、想定されるリスク、どのように胆石と付き合っていくべきなのかご助言をお願いします。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「胆のう炎」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。