
ノロウイルスは、胃腸炎を引き起こすウイルスのひとつです。手洗いや消毒によってある程度予防することができるものの、感染力が強いことで知られています。子どもの場合は集団感染することが多いため、家庭や保育施設で対策を徹底することが重要です。感染して胃腸炎症状(嘔吐・下痢)があらわれた場合の治療方法は、経口補水液による水分補給がメインになります。お子さんが経口補水液を飲みたがらないこともあるかもしれませんが、きちんと水分を補給することは大切です。体調が回復するまでしっかりとサポートしていきましょう。
今回は、ノロウイルスの感染予防と治療方法について、慶應義塾大学医学部小児科 新庄正宜先生にお伺いしました。
子どもがノロウイルスに感染するとき、下記のような感染経路が考えられます。流行時期にはこのような感染経路に十分注意して、感染拡大を防ぐことが重要です。
ノロウイルスは、子ども同士の集団のなかで感染することが多いウイルスです。子どもは、ウイルスに触れた手を洗わないで口に入れてしまうため、感染を拡大させることがあります。幼稚園や保育園などの保育施設では、ノロウイルスの流行時期に嘔吐した子どもは早く帰宅させるなどの対応が必要です。また、子どもには、素手でおしりを触らない・よく手を洗うといったことを指導するようにしましょう。
ノロウイルスは、症状が治ったあとも便に含まれて数週間にわたって排出されます。また、症状が出ていない人でも、実はノロウイルスに感染していてウイルスが排出されているということもあります。
そこで、ノロウイルスの流行時期は、胃腸炎の症状が出ている人が身近にいなかったとしても、ドアノブやおもちゃなどにはウイルスが付着している可能性があります。きれいに拭いておくこともちろん、大人は吐物やオムツを処理する際にはマスクや手袋をつけるなどして細心の注意を払うようにしてください。
手についたノロウイルスを取り除くためには、石鹸と水でよく洗うことが有効です。ノロウイルスは流水で洗い落とすことができるウイルスです。まんべんなく手をこするようにしてしっかり洗い流してください。
ノロウイルスを含む嘔吐物や便が付着した場所は、乾いたあとでもウイルスが残っていることがあります。そこで、塩素系漂白剤などを使用して拭き取り消毒することが有効です。塩素系漂白剤などに含まれる「次亜塩素酸ナトリウム」には、ノロウイルスのはたらきを失わせる作用があるためです。
ただし、子どもが吐いたり下痢をしたりするたびに塩素系漂白剤で消毒することは難しいでしょう。実際には、消毒したつもりでも感染してしまうこともあります。
1,000ppm消毒液(濃度0.1%)をしみ込ませた布などで拭き取ってください。
作り方:1Lペットボトル1本の水に、塩素濃度約6%の塩素漂白剤20ml(ペットボトルのキャップ約4杯分の原液)[注1]
200ppm消毒液(濃度0.02%)をしみ込ませた布などで拭き取ってください。
作り方:1L ペットボトル1本の水に、塩素濃度約6%の塩素漂白剤4ml(ペットボトルのキャップ薬1杯分の原液)[注2]
注1、注2…ノロウイルス対応標準マニュアル(第3版)東京都福祉保健局
ノロウイルスはアルコールに抵抗力があります。たとえば、エタノール(アルコール消毒薬)で3分間消毒したとしても、ノロウイルスの数は20分の1にしか減少しません。[注3]手についたノロウイルスを取り除くためには、アルコール消毒するよりも、石鹸と水で手を洗うことが必要です。
注3…J Hosp Infect.2015 Jul;90(3):226-34.
ゴム手袋をつければ、ウイルスに汚染されたものに素手で触れてしまうことを防げます。しかし、子どもは手袋を脱ぐときにウイルスに触れてしまったり、手袋をつけた手で物を触ったりすることがあります。大人が使うときは、素手でウイルスに汚染したものを触れないよう注意して着脱してください。
ノロウイルスは、1分間85度で加熱すれば、そのはたらきを失わせることができます。そこで、ノロウイルスが含まれている食材(二枚貝など)は、なかまでしっかり加熱すれば食べることができます。
ただし、調理する人がノロウイルスに感染しており、手にウイルスがついているときは、加熱したあとの食材にもノロウイルスが付着することがあります。
ノロウイルスの治療は、胃腸炎の症状を和らげる治療方法(対症療法)が中心になります。なぜなら、ウイルスを除去する薬物などがなく根本的な治療は難しいからです。
ノロウイルスによる急性胃腸炎では、経口補水液を飲むことが標準的な治療です。吐き気がおさまらなくても、なるべく経口補水液から始めます。
経口補水液とは、水に塩分とブドウ糖を溶かしたものです。脱水を起こしているときには水分が必要ですが、水分だけでは塩分・糖分が不足します。そこで、水分・塩分・糖分を同時に補給できる経口補水液を飲むことが効果的です。
幼い子どもは、経口補水液を飲めないことがあります。お子さんが経口補水液を飲みたがらないときでも、スプーンでちょっとずつ飲ませるなど、もういちど試してみてください。
どうしても難しいときは、味噌汁の上澄みを半分程度に薄めたものや、リンゴジュースで代用してみます。ただし、味噌汁だけ、リンゴジュースだけを飲み続けると成分に偏りが出てしまいます。
赤ちゃんの場合、母乳は中断しないほうが経過がよいとされています。ミルクは薄める必要はありません。
ただし、約2週間以上下痢が続く場合は、二次性乳糖不耐症(乳糖を分解する機能が低下した状態)が起こっているかもしれません。医師に相談のうえ、乳糖が分解されたミルク(低乳糖乳)や、乳糖を分解するお薬を混ぜたミルクなどを飲ませるようにしましょう。
下痢や嘔吐が長く続いてぐったりするなど、重い症状がみられたときは、点滴を行うことがあります。
症状が和らいだら食事を開始します。脂肪や糖分の多いものは、消化を妨げる場合があるので、避けた方がよいでしょう。
ノロウイルス自体のはたらきを失わせる薬剤はありません。
吐くことや下痢による苦しさを和らげるためには、吐き気止め、下痢止め、体内の水分バランスを整える漢方薬などが使われます。症状が重くて苦しい場合には処方されることがあります。
しかし、軽度であれば嘔吐や下痢は数日で治まるため、副作用の可能性と薬の有効性のバランスを考えて投与されます。特に吐き気止めは、副作用の心配があるためあまり推奨されていません。そこで、長期にわたって繰り返し処方することは避けられています。
ノロウイルスは秋から春にかけて流行します。流行時期は、生牡蠣をはじめ食材に注意し、食中毒の対策を行うようにしてください。また、流行のピークを過ぎていても、ノロウイルスによる胃腸炎は一年中発症がみられます。食事前の手洗いも含めて、こまめに手洗いをしっかりするなど、普段から予防を心掛けることが大切です。
慶應義塾大学 医学部 専任講師
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