インタビュー

ノロウイルス感染症とはどんな病気?子どもの症状

ノロウイルス感染症とはどんな病気?子どもの症状
新庄 正宜 先生

慶應義塾大学 医学部 専任講師

新庄 正宜 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年03月18日です。

ノロウイルスは、急性胃腸炎を引き起こすウイルスのひとつです。主な症状は嘔吐、下痢、腹痛です。一般的には数日で症状が治まって回復する病気ですが、子どもの場合はまれにけいれんなどの症状を伴うことがあります。1回吐いただけで元気なようであれば緊急性は低いと考えられますが、症状が長引いてぐったりしているときなどは、急いで病院へ連れていくようにしてください。

今回は、ノロウイルスの概要と症状について、慶應義塾大学医学部小児科 新庄正宜先生にお伺いしました。

ノロウイルスとは?        

ノロウイルスは、急性胃腸炎を引き起こすウイルスのひとつです。ヒトに感染すると小腸で増殖し、胃腸炎の症状(嘔吐、下痢、腹痛)を引き起こします。そのほかに発熱がみられることもあります。また、胃腸炎の症状が原因で、脱水が起こることがあります。

ノロウイルスは、感染者の嘔吐物や便から検出されます。食材や、二枚貝に濃縮して含まれていることがあります。汚水環境(下水など)にも存在しています。

基本的には、ウイルスが口に入って飲み込むことによって感染します。また、感染者の嘔吐によってウイルスが周囲の空気を汚染し、周囲の人が空気中に舞ったウイルスを吸い込むことによっても感染します。

ノロウイルスには、多くの種類があります。主に2つの遺伝子群(GⅠ、GⅡ)が存在し、さらに遺伝子型によって細かく種類が分けられています。

そのなかでも、ノロウイルスによる胃腸炎の患者さんの多くから検出されるのは、GⅡというタイプです。種類によって症状が大きく変わることはありませんが、GⅡというタイプに感染すると、遺伝子群GⅠに感染した場合と比べて症状が重いという報告がされています。[注1]

また、ノロウイルスには複数の種類があることから、一度感染して免疫(抵抗力)がつくられても、その免疫がすべてのノロウイルスにはたらくわけではありません。そのため、ノロウイルスによる胃腸炎は、ウイルスに感染するたびに発症する可能性があります。

注1…The Journal of Infectious Diseases. 2011 May 15;203(10):1442-4.

ウイルスが発症するかどうかは、個人の体質(ウイルスへの感受性)とウイルスとのバランスによって決まります。たくさんのノロウイルスに感染しても症状が出ない人や、ごくわずかなウイルスに感染しただけで症状が出る人など、さまざまです。

厚生労働省によると、2015年に感染性胃腸炎が検出された件数は、定点で報告が義務付けられている施設(指定届出機関)の報告では、987,912件でした。また、定点あたりの報告数としては、病院1軒あたりの患者数は314.02人でした。

定点あたりの報告数とは、指定届出機関から報告された件数のことです。日本では、全国約3,000か所の小児科が指定届出機関とされています。感染性胃腸炎の患者数は、指定届出機関から、週ごとに保健所に報告されることになっています。

なお、日本全体でみれば、実際には定点報告の件数よりももっと多くの感染者が出ています。

食事

ノロウイルスの主な感染経路は下記の通りです。

  • ノロウイルスに感染した人からうつる
  • ノロウイルスに汚染したものを食べたり、汚染したものが口に入ったりしてうつる
  • 吐物によって汚染された空気を吸い込んでうつる

ノロウイルスは、胃腸炎の症状がみられる人の吐物や便などに含まれて排出されます。こうした排泄物に含まれるウイルスが、他の人の口に入ることで、胃腸炎を発症します。胃腸炎になる人とならない人がいます。体調のよし悪しや、胃腸の強さなど、個人差があるためです。

また、こうした排泄物を処理するときなどに、手や服へウイルスが付着することがあります。ウイルスのついた手で調理すると、料理にノロウイルスが付着してしまいます。このため、ノロウイルスは、ノロウイルスに感染している人が調理した食材を食べることで感染することがあります。

ノロウイルスは、食品に含まれることがあるウイルスです。ノロウイルスが含まれた食材を生で食べると、ノロウイルスに感染することがあります。

ノロウイルスを溜めやすい性質を持っているのは、牡蠣(かき)などの二枚貝です。そのため、生牡蠣を食べたときはノロウイルスによる食中毒を起こしやすいといわれています。

二枚貝はウイルスを溜めやすい性質がある

牡蠣などの二枚貝は、ノロウイルスが含まれやすい性質をもっています。これは牡蠣がノロウイルスを増やしたり、栄養にしたりするはたらきがあるからというわけではありません。

二枚貝は、食事のために水をたくさん取り込んで捨てるという機能(水質浄化作用)により、海水に存在するウイルスを一緒に取り込んで溜める性質を持っています。海中にうすい濃度で存在していたノロウイルスは、貝のなかに取り込まれて濃くなるということです。

また、食べ物でなくても、ウイルスで汚染されたものが、直接あるいは間接的に口に入ることでも感染します。

拭き掃除

ノロウイルスは、空気中に存在するウイルスを吸い込むことでも感染が成立します。たとえば、患者さんの吐物や便が床などに飛び散って乾くと、ノロウイルスは塵(ちり)に含まれて空気中に広がってしまうことがあります。そこで、患者さんの吐物を処理した人には、ノロウイルスがうつりやすいとされます。

床などに付着したノロウイルスは、塩素系漂白剤などを使って拭き取ることが大切です。

ノロウイルスは、くしゃみや咳などの飛沫(ひまつ)に含まれて周囲の人に感染することはありません。飛沫感染*することで知られているインフルエンザウイルスは、鼻水や唾液に含まれて感染するウイルスですが、ノロウイルスの場合はくしゃみや咳によってうつるわけではありません。

飛沫感染…ウイルスを含んだ唾液などの飛沫を吸い込んで感染すること。

ノロウイルスによる急性胃腸炎の患者さんは1年を通してみられます。日本では、秋から冬にかけてと春先まで流行しますが、なぜこの時期に流行するのか、はっきりしたことはわかっていません。

ノロウイルスは生牡蠣を食べることで感染するというイメージを持っている方は多いかもしれません。しかし、生牡蠣を食べることだけが感染の原因ではありません。

流行時期は、牡蠣などの二枚貝をよく食べる時期と重なるところはありますが、牡蠣があまり食べられない時期でも発症はみられます。牡蠣以外の食品から感染するケースも多くみられます。

厚生労働省によれば、ノロウイルスによる食中毒発生事例(2016年)でカキが原因になったケースは、354件のうち13件でした。

ノロウイルスに感染すると、嘔吐、下痢、腹痛、場合により発熱などの症状がみられます。個人差はありますが、このような症状は、一般的には発症から数日間で治まります。胃腸炎の症状(嘔吐・下痢)が強いときは、脱水症状を起こすことがあります。

子どもの場合は、嘔吐のあと下痢が起こるという経過がよくみられます。また、まれに下記のような症状が起こることもあります。

<子どもにだけみられる症状>

  • 胃腸炎関連けいれん
  • 脳炎、脳症
  • 二次性乳糖不耐症(赤ちゃんの場合)

胃腸炎関連けいれんとは、胃腸炎の症状に伴ってけいれんが起こる状態です。

胃腸炎関連けいれんが起こると、一時的に意識がなくなったり、手足がカクカクするような動きがあらわれたりします。多くの場合、けいれんは数秒から数分以内に収まります。

また、胃腸炎関連けいれんでは、群発することがあります。群発とは、1回治ったように思われても、しばらくするとまた症状を起こし、それを繰り返すことをいいます。

脳炎や脳症は、まれな中枢神経症状のひとつです。発症すると、意識を失ったり昏睡状態になったりします。子どもの場合、ノロウイルス感染症に限らず、ウイルス感染症(たとえば、インフルエンザ突発性発疹など)に伴って脳炎や脳症が引き起こされることがあります。

乳糖不耐症とは、腸で乳糖(母乳やミルクに含まれる糖分)を分解できない病気のことです。赤ちゃんで下痢が長く続く場合や、母乳やミルクを飲むとすぐに下痢してしまう場合は、乳糖不耐症の可能性があります。

ノロウイルスに感染したときに起こる乳糖不耐症は、感染に伴って二次的に生じたものなので、「二次性」乳糖不耐症に分類されます。これは、ウイルス感染の急性期*は脱しているものの、乳糖を分解する機能が一時的に低下している状態を指します。

二次性乳糖不耐症が起こっている赤ちゃんには、乳糖が分解されたミルクを飲ませたり、乳糖を分解するお薬をミルクに混ぜて飲ませたりすることが有効です。

急性期…病気が始まり、病状が不安定かつ緊急性を要する期間。

母親と赤ちゃん

子どもの場合、大人と比べて症状を重く感じるようです。自分で体調管理ができないため、突然発症したようにみえたり、吐いている間は水分をうまく摂れなくなったりします。脱水状態を防ぐためには、大人のサポートが必要です。

主な症状は、1歳以上の子どもでは嘔吐が中心になります。

赤ちゃんの場合は、1歳以上の子どもと比較すると、下痢が大半で、嘔吐はあまり激しくないケースがみられます。一方で、重症化しやすいともいわれています。

なお、症状には個人差があります。

大人の場合、子どもと比べて、症状はそう重くないと感じる方が多いようです。気持ち悪くて吐いていたとしても、自分で体調管理できることが多く、必要な水分を少しずつ摂ることができます。

主な症状は、やはり嘔吐、下痢、腹痛です。子どもに比べれば嘔吐が少なく下痢が多いとされています。しかし、子どもと同じく、症状には個人差があります。

体の代謝(生命を維持するしくみ)やホルモンにかかわる病気のある人や、体の抵抗力を落とす治療をしている人は、重症化しやすいので注意が必要です。ノロウイルスにかかると、なかなか治らないということがあります。

病院

医療の進んでいる日本では、ノロウイルスによる胃腸炎が命にかかわることはほとんどありません。強い脱水症状がみられるまで子どもが放っておかれることは実際にはほとんどないためです。しかし、強い脱水で血圧の低下などが引き起こされればショック(血液の循環がうまくいかず命にかかわる状態)で亡くなってしまう可能性もあります。重い症状がみられる場合には受診が必要です。

胃腸炎症状(嘔吐・下痢)による強い脱水が起こっているとき、下記のような症状がみられることがあります。吐いたり下痢したりしている子どもを受診させるのは難しいものですが、子どもにこのような症状がみられたら、急いで病院に連れていくようにしてください。

  • ぼんやりする
  • 目がくぼむ
  • 手足が冷たい、青くなる
  • ずっと吐き続けている
  • 下痢がひどくてぐったりしている

など

赤ちゃんがノロウイルスに感染して哺乳ができなくなると、脱水などの重い症状を合併する可能性があります。また、他の病気をもっている子ども(代謝やホルモンにかかわる生まれつきの病気など)や、体の抵抗力を落とす治療をしている人などがノロウイルスに感染した場合も同様です。注意が必要なため、受診するようにしてください。

1回吐いただけで、あとは元気なようであれば、緊急性が低いと判断できます。

ただし、前述したように嘔吐や下痢が長く続いてぐったりしているようなときには受診するようにしてください。

診察

病院では、ノロウイルスに感染しているかどうか調べるための検査は、インフルエンザのように頻繁には行われていません。急性胃腸炎は、原因ウイルスを判別できたとしても、治療方針があまり変わらない病気だからです。

ノロウイルスに関する検査を行う場合には、下記のような方法あります。

患者さんの便からノロウイルスが検出されるかどうか調べる検査です。

<迅速検査の特徴>

  • 簡易的に行うことができる
  • 年齢によっては保険が適用される(3歳未満、65歳以上、など)
  • 受診したときに便が出なければ実施できない場合がある
  • ウイルスの排出量が少ないと陰性になる(吐き気が起こって間もない頃など)

検査しない場合は、流行時期や症状などからウイルスの種類(ノロウイルス、ロタウイルス*など)を推測することができます。しかし、診察だけでウイルスの種類を完全に区別することは難しいとされています。

ロタウイルス…発熱や嘔吐、白色下痢便を主症状とした急性胃腸炎を引き起こすウイルス

重症の患者さんは、脱水の程度を調べるための検査が行われることがあります。たとえば、脱水でぐったりしていて点滴が必要なときは、点滴と一緒に採血も行われることがあります。

脳MRI*や脳波の測定は、けいれんや脳炎・脳症による脳へのダメージが心配されるときに行われます。患者さん一人ひとりに必ず実施する検査ではなく、脳の異常が疑われる場合に限られます。

脳MRI…磁気を使い、脳の断面を写す検査。

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