概要
脱水症とは、体内の水分が不足している状態を指します。水分の摂取不足や水分が過剰に体外へ排出されることで引き起こされます。
ヒトの体は全体重の60~70%(乳幼児では80%)が水分で占められており、全体重の2%の水分を失うと喉の渇きを自覚するなど、脱水の程度によってさまざまな症状が現れます。特に小児や高齢者は発熱や下痢・嘔吐などが原因で脱水症に陥ることがあり、場合によっては命に関わることもあるため注意が必要です。
なお、体内の水分は“体液”と呼ばれ、全体液の3分の2は細胞の中に、残りの3分の1は血液や間質液(組織において細胞を浸す液体)として細胞の外に存在します。原因によって細胞外、細胞内どちらの水分が失われるかが異なります。
原因
脱水症は、水分の摂取不足、または過剰に水分が排泄されることで体内の水分量が不足して起こります。それぞれの主な原因は以下のとおりです。
水分の摂取不足
吐き気や咽頭痛などによって十分な水分がとれなかったり、喉の渇きを自覚せず水分摂取を怠ったりすると、水分の接種が不足して脱水症を引き起こすことがあります。
ヒトは適度な水分を摂取することで体液を維持しています。一度体内に取り入れられた水分はやがて老廃物などを含んだ汗や尿として排泄されるため、常にその分の水分を補う必要があります。
水分の過剰排泄
ヒトの体内にある水分は尿や汗として排泄されます。また、運動後などに見られる発汗以外にも皮膚からは常に水分が蒸発し、息を吐く際(呼気時)には水分が吐き出されています。このように、生命活動を行ううえで失われる水分を“不感蒸泄”といいます。
高温の環境下や運動によって大量の発汗を繰り返したり、発熱によって不感蒸泄量が上昇*したりすると、体外へ排泄される水分量が減少して脱水症を発症することがあります。熱中症も脱水と密接に関連しています。
また、胃腸炎などによって下痢や嘔吐が繰り返された場合や、消化管出血などによって慢性的な出血が続いている場合にも体内の水分排泄量が増加して脱水症が起こります。
*体温が1度上昇すると、不感蒸泄量は約15%増えるといわれている。
症状
脱水症の症状は失われる水分の割合によって変化します。
全体重の2%ほどの水分が失われた場合、喉の渇きを自覚するようになります。さらに水分が失われると食欲不振や疲れなどが生じ、5%にまで及ぶと頭痛や吐き気、たちくらみ、ふらつきがみられ、10%に至るとけいれんや失神などの症状が現れます。また、体温の上昇や尿量の減少・濃縮も現れるようになり、20%の水分が失われると尿が完全に出なくなって命に関わります。
なお、詳しい症状は脱水の原因によって異なります。
下痢や嘔吐、出血などが原因の場合
水分のほかに大量の電解質(カリウム、ナトリウム、マグネシウムなどのミネラル)が失われるため、血液の浸透圧が低下して細胞内へ水分が移動しやすくなります。その結果、喉の渇きや皮膚・粘膜乾燥などの自覚症状が少なく、気付かないうちに脱水がさらに進み倦怠感などの症状が現れます。また血液量が減るため、それに伴って血圧の低下や頻脈(脈が早くなる)、手足の末端が冷たくなるといった症状が生じるのも特徴です。
水分の摂取不足や多量の発汗などが原因の場合
電解質よりも主に水分が失われて血液の濃度が濃くなるため、血管内側に水分が多く移動します。その結果、一つひとつの細胞内の水分量が減少するため、喉の渇きや皮膚・粘膜の乾燥が著明に現れます。しかし、血液量は維持されているため、血圧が下がったり脈が早くなったりするなどの変化は生じにくいのが特徴です。
検査・診断
脱水症が疑われる場合は、発症当時の環境や皮膚の乾燥、脈拍などを問診で確認し、全身の状態を把握するために血液検査も行われます。血液検査では、クレアチニン値や尿素窒素値によって脱水や電解質の状態を確認します。また、経時的に尿量をチェックする場合もあります。
脱水症の原因が下痢や嘔吐、出血などの場合には、炎症反応や貧血の有無を調べるための血液検査やX線、超音波検査、CT検査などが必要に応じて行われます。
治療
脱水症の治療の基本は不足した水分を補充することです。多量の電解質が失われていることもあるため、血液検査などで電解質の状態を確認したうえで、電解質と水分の両方を含んだ飲料や点滴によって治療を行います。口から水分を取れる場合は基本的には経口補水液をはじめとした飲料を摂取しますが、重度の脱水症や自力で水分が取れない場合には点滴によって投与します。
また、水分や電解質の補給と同時に、嘔吐や下痢など脱水症の原因となる病気の治療も並行して行います。
予防
脱水症の予防には適度な水分補給が大切です。特に汗をかきやすい夏場や運動時、入浴の前後、睡眠の前後などは意識的に水分を摂取しましょう。一般的な成人の場合、1日に必要な水分量は食事に含まれる水分を含めて2.5リットルといわれています。
また、子どもや高齢者などは本人が脱水の状態に気づくまでに時間がかかることもあるため、周囲の大人がこまめな水分補給を促しましょう。大量の汗をかいたときなどは水分だけでなく塩分も補給できるよう、経口補水液やスポーツドリンクを飲むことが望ましいとされています。高齢者の場合、飲み物から水分を十分に補給することが難しい場合もあるため、水分量の多い食事を用意するなどの工夫をしましょう。
また、心臓や腎臓の病気などの基礎疾患がある方は、水分の取りすぎが体に負担をかけることがあるため、医師と相談しながら脱水症対策をしましょう。
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