院長インタビュー

高度な救急医療体制を備えた災害拠点病院を目指す阿蘇医療センター

高度な救急医療体制を備えた災害拠点病院を目指す阿蘇医療センター
甲斐 豊 先生

阿蘇医療センター 病院事業管理者 院長 甲斐 豊

甲斐 豊 先生

目次
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阿蘇医療センターは、2014年(平成26年)8月に熊本県阿蘇市黒川に開院した新しい病院です。前身である阿蘇中央病院が建てられたのは1950年(昭和25年)であり、開院以来60年以上ものあいだ、地域の医療を支えてきました。しかし、施設の老朽化問題や設備が現代の医療需要には対応しきれなくなったことに加え、救急医療体制を強化する必要性にせまられたことなどを機に、新病院設立の計画が持ち上がりました。その計画により同センターは現在の姿となりました。新たにスタートを切った同院の現在と、これからの展望について阿蘇医療センターの院長である甲斐 豊先生にお話を伺いました。

 

地域の中核病院として現代の医療ニーズに応えうる医療体制を目指す

外観

当センターは、地域の中核病院における地域医療連携のかなめとしての役割を担っています。開院以来、各医療機関や関連施設などとの連携を図りながら、地域の患者さんにとって最善の医療を提供してきました。そのほかに、救急医療の提供や災害時の医療拠点となりうる体制づくりを通して、より高度な地域の医療ニーズに応じる当センターの取り組みをご紹介します。

地域を支える強固な救急医療の体制構築をめざして-t-PA モードによる受け入れ体制の確立

t-PAモードとは

t-PAモードとは、急性期脳梗塞の疑いのある急患さんが発生した場合に、診断・検査・治療開始・入院までの一連の流れを迅速に行う受け入れ体制のことです。当センターでは、「t-PAモード」の掛け声で、関係部署が即座に受け入れ態勢を整えます。

脳梗塞とは、脳の動脈に血栓ができて起こる病気です。脳細胞に酸素や栄養素が運ばれなくなるため時間の経過とともに脳の神経が壊死していき、処置が遅れれば生命に関ります。そんな脳梗塞の治療法として有効なのが、t-PA製剤という薬を投与して脳の動脈にできた血栓を溶かすt-PA治療です。

t-PA治療における制約

t-PA治療を行うための最大の難関となるのが、脳梗塞が発生してからどれほどの時間が経過したかという点です。脳細胞の壊死が進んでいる状態でt-PA製剤を投与すると、壊死巣から出血(脳出血)を起こしてしまう危険性があるため、脳梗塞の発生から3時間以内(2012年8月からは、4.5時間以内に延長)でなければt-PA治療は行えません。

そのため、t-PA治療は総じて時間との戦いであるといえます。当センターでは、いつでもt-PAモードに入ることのできる体制を確立することで、急性期脳梗塞の患者さんの迅速な受け入れが可能となっております。2012年(平成24年)の体制確立以来、これまで治療することのできなかった多くの患者さんの治療にあたってきました。

t-PAモードによる受け入れ体制の確立とその成果

当センターがt-PAモードによる受け入れ体制を確立する以前は、急性期脳梗塞の患者さんのほとんどが熊本市内の病院に搬送されていました。そのため、t-PA治療を施すことのできるタイムリミットを超えてしてしまう患者さんも多くいらっしゃいました。しかし、当センターの受け入れ体制が整った現在では、そのような心配はありません。

災害拠点病院としての体制強化-より確かなBCP策定をめざして

BCP(The Business Continuity Plan)とは

BCP(The Business Continuity Plan)とは、自然災害やテロ攻撃など緊急事態が発生した場合の事業継続あるいは早期復旧を可能とする計画のことです。現在、企業には緊急事態の発生を見据えて平時から備えておくことが求められています。

医療機関におけるBCPの策定は、非常に重要な意味を持つと考えられます。自然災害などにより多くの負傷者が発生した場合、近隣の医療機関の受け入れ体制が人命救助に大きく関わってきます。いついかなる事態にも対処できるよう、事前に万全対策を練っておくことが重要です。

熊本地震を教訓とし、厚生労働省がBCP策定を義務化

東日本大震災以降、その重要性が叫ばれていたBCPが、厚生労働省により2017年3月31日付けで義務化されました。これは、災害時に負傷者を受け入れる「災害拠点病院」に対して、被災しても速やかに医療機関としての機能を回復し診療を行うことができるよう、事前に業務計画を策定し準備をするというものです。この通達を受け、当センターもBCPの策定に尽力しています。

また、BCP策定の義務化は熊本地震を教訓にしたものでもあります。2016年4月の熊本地震発生時点でBCPを策定している病院は、熊本県内全体のわずか8%であり、すべての医療機関が万全の対応をとることができたとは言い切れません。

当センターは、この教訓を活かし、緊急事態の発生時に最善の医療体制で患者を受け入れることのできる体制づくりが進められています。災害時であっても高度な救急医療が提供できる医療機関となることを目指しています。

医療現場における人材不足と向き合う-時代のニーズに応える求人活動

深刻な医療人材不足と向き合う

現在、全国的に深刻な医師不足が続いています。特に、地方の総合病院における医師の不足は深刻であり、当センターもその例外ではありません。それに加えて看護師の定着率の低さという問題に直面している当センターでは、医師を含む医療従事者全般の人員確保のため、新たな方法で広く人材を募集する取り組みを続けてきました。

インターネットサービスを利用した求人活動と現状の課題

当センターでは、ハローワークや自院のホームページで求人を呼びかけるだけではなく、医療従事者を対象としたインターネット上の人材紹介会社など、求職者の方がネットを介して応募できるような求人活動も行っています。オンラインサービスを利用した就職・転職活動が一般的となった時代のニーズに応えることで、あらゆる年代の求職者に広く呼びかけることを目指しています。

しかし、インターネットサービスを介して応募があった求職者の方の多くは一時的な採用を求める傾向にあります。現状では看護師の一時的な採用などには一定の効果を果たしているものの、どのようにすれば定着採用にいたるのかということを含め、今後の採用方針について見直しが必要だと感じています。引き続き、院内全体で検討を重ねていく予定です。

医療による地域貢献を目指して-甲斐 豊院長からのメッセージ

当センターは、地域の中核病院であり、地域医療連携におけるかなめとしての役割を果たしながら、より高度な医療ニーズに応えるためさまざまな取り組みを行っています。

いついかなる場合であってもt-PAモードによる受け入れが可能な体制づくりや、BCPの策定による非常事態への備えに代表されるように、より高度な救急医療の提供と災害時における拠点病院としての体制強化に特に努めています。それにより、地域の方々が安心して暮らすことのできるよう、より質の高い地域医療の提供に勤めています。

今後の課題である医療従事者の不足にも真摯に向き合っていき、当センターが理念として掲げる「地域住民から信頼される病院」であり続けられるような確固たる医療体制の構築を目指しています。医学や医療技術の進歩に沿う知識の習得と技術の向上を図りながら、医療で地域に貢献するための取り組みをこれからも続けてまいります。