院長インタビュー

「また来てね」と患者さんにいえる病院でありたい——ふくやま病院の取り組み

「また来てね」と患者さんにいえる病院でありたい——ふくやま病院の取り組み
譜久山 剛 先生

医療法人社団医仁会 ふくやま病院 理事長

譜久山 剛 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

この記事の最終更新は2017年10月03日です。

ふくやま病院は、1974年に開院し、地域に密着した医療を実施してきました。2016年に新しく明石市硯町に新築移転し、これまで一般病棟で行っていた緩和ケアの専門病棟をオープンしました。新しくなった同院は、一般診療のほかに、急性期病院やがん専門病院のバックアップおよび退院支援、緩和ケアや在宅療養のサポートに取り組み、患者さんを中心に地域医療連携を行っています。

ふくやま病院が担うべき医療と今後のあり方について、理事長の譜久山(ふくやま) (つよし)先生にお話を伺いました。

https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/carbon-assets-production/uploads/ckeditor/pictures/8829/content_85ede77e-fa57-486d-b7fc-f3201a8a064f.JPG
ふくやま病院 外観

当院は、1974年4月に、19床の有床診療所の譜久山外科として開院しました。開院以降、病床数を増やしながら地域医療の充実に励んできました。1993年には院内保育園を開設、1996年には在宅介護支援センターを開設し、地域医療を支えてきました。

2016年には明石市硯町に新築移転しました。当院では、内科・外科・整形外科を中心とした診療を行っています。なかでも、糖尿病などの生活習慣病、消化器疾患、肛門疾患などに力を入れています。さらに、“基幹病院では手が回らない領域の医療を提供すべき”という考えのもと、緩和ケアの患者さんを受け入れています。明石市には、急性期医療を担う病院やがんセンターなどがありますが、その病院と緩和ケアを行う病院との間に連携がありませんでした。そこで、兵庫県立がんセンターと緩和ケアの基本的な知識を共有する勉強会を開き、互いの連携を深めてきました。

2017年5月に20床の緩和ケア病棟を開設して、患者さんとご家族が安心して緩和ケアを受けることができる環境が整いました。

緩和ケアでは、“がんと診断されたときからの切れ目のない緩和ケアが必要”といわれています。

当院では、兵庫県立がんセンターと連携して、抗がん治療を受ける患者さんに対して、化学療法や手術はがんセンターで行い、それと並行して緩和ケアを定期的に当院で受ける、という仕組みを作りました。がん治療を始めたときからその患者さんをサポートすることができれば、患者さんは少しでも気持ちに余裕のあるときから、さまざまな状況への準備をすることができます。私たちも患者さんとの信頼関係を構築することができます。

がんセンターのような専門病院では対応しにくい、心理的・社会的な問題に対して、多様な職種のスタッフで協力して柔軟に対応します。訪問看護ステーションとも連携をしており、患者さんが、主体的にがんと向き合いながら、その人らしく過ごせるよう、サポートしていきます。

がん治療法のひとつとして、緩和ケアを早期から実施することが大切であると、世の中にどんどん発信したいと思っています。

当院の在宅医療部は、地域のみなさまが住み慣れた場所で安心して生活していけるように、地域の開業医の先生方や、当院の“訪問看護ステーションふくやま”や地域の介護サービス事業所などと連携して、在宅復帰支援に取り組んでいます。

地域の開業医の先生方とは、勉強会を開いたり意見交換をしたりして、連携を深めてきました。患者さんの看取りに関しても、日頃連携している開業医の先生方から患者さんの状況を聞いていれば、終末期に当院に入院していただくこともスムーズにできますし、当院が在宅療養支援をしてご自宅でお看取りすることもできます。その選択は、患者さんとご家族が決めることだと考えています。

これからも、院内での連携はもちろん、地域の医療機関や介護サービス事業所、行政とのネットワークを強化することで、地域のみなさまと地域の医療機関や福祉サービスとのつなぎ役として尽力していきます。

がんの終末期では、腹水が溜まることがあります。当院では、KM-CART療法という腹水の治療法を実施しています。ではKM-CART療法は従来の治療とどのような点が異なるのでしょうか。

KM-CART療法とは、患者さんの体内に溜まった腹水をすべて抜き取り、抜き取った腹水を特殊なフィルターでろ過し、必要なたんぱく成分を濃縮して点滴で静脈内に戻す方法です。KM-CART療法ではより短時間で処理できるようになり、発熱などの合併症が少なくなりました。これによって大量腹水でもKM-CART療法により腹水を抜くことが可能になったのです。

この治療によって、起き上がることも難しかった患者さんの症状が緩和し、食事ができるようになる方もいます。すると「頑張って治療をしよう」という意欲にもつながると考えています。

腹水治療を早期から実施することで、患者さんのQOL(生活の質)の向上につながり、治療に対して前向きになることができるのではないでしょうか。医療者側も、腹水をコントロールしながら、がん治療をすることが可能になると考えています。

当院では積極的にこの治療法を実施します。一人でも多くの患者さんの症状が緩和されるよう、学会などでも積極的に発表していくつもりです。

当院を、誰もが気軽に訪れることができるような場所にしようと思っています。たとえば、散歩の途中でふと立ち寄って、病院のトイレを利用してもらうだけでもいいのです。何か情報を得たり、誰かとおしゃべりをしたりして人とのつながりを感じられる場所になれたらいいなと考えています。

新病院を建築するにあたり、2015年から地域の自治会長さんやコミュニティセンターやボランティアの会、サークル活動の責任者の方々にヒアリングを重ねてきました。その話し合いのなかで考えたのが、コミュニティホールとライブラリーの設置です。

当院のコミュニティホールは、イベント・展示・ワークショップ・会議などに、ご利用いただけます。地域のみなさまに健康相談に来ていただいたり、みなさま同士で互いが元気であることを確かめられたり、子育て中の方がお子さんを連れて集まり悩み事を相談したり、支え合いができたり、など、さまざまな用途で幅広い年代の方々に利用していただき、地域のみなさまとのきずなを形成していきたいと思っています。

https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/carbon-assets-production/uploads/ckeditor/pictures/8830/content_30dc686f-3b28-4b9d-ae2f-9bab2c3236c6.JPG
コミュニティホールの様子

当院の待合室から2階のコミュニティホールに上がる階段の壁面に、ライブラリーを設置しました。患者さんだけでなく、どなたでも自由にご利用いただける本棚です。本を通じて地域のみなさまの趣味や健康づくりに関する知識を共有したり、適切な医療情報を提供したり、本を介した公開勉強会を実施したりと、健康な地域づくりに役立てられればと考えています。

https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/carbon-assets-production/uploads/ckeditor/pictures/8831/content_4293a938-b16b-4d24-8f2b-cc5d34cd4497.JPG
ライブラリー

病院に入院した患者さんは、毎日誰かがひっきりなしにお見舞いに来たり、何かしらの趣味に没頭したり、ということがなければ、誰とも会話することのない時間を過ごしたり、ひとりの食事時間を過ごすことが多くなってしまうことが考えられます。

患者さんの入院生活をできるだけ充実させたい、という思いから、コミュニティホールやライブラリーを作りました。

たとえば、コミュニティホールで外部のサークルの方が手芸や歌などを楽しそうになさっている姿を入院患者さんがご覧になり、「私も元気になって参加したい」、「次に来てくれるのが楽しみ」と、入院生活を楽しく前向きに過ごしていただけたらいいなと思っています。

先生

当院は、KM-CART療法のような新しい緩和医療を積極的に取り入れたり、院内外の研修に積極的に参加したりするなど医療の質の向上に努めています。

そして、患者さんがどこで過ごしたいのか、常に患者さん本人に選んでいただける環境をつくります。病院でも在宅でも、患者さんとご家族が地域のなかで安心して過ごせるような仕組みを、今後ますます力を入れて構築していきます。