関西ろうさい病院では、病気の治療と仕事の両立を支援する取り組みを行っています。本記事では、同病院で行う両立支援の方法や実際の事例などについて、同病院で両立支援に携わる、村田幸平先生(副院長/外科部長/両立支援部長)、渡部昌美さん(がん看護専門看護師/両立支援コーディネーター)、平田直子さん(MSW:医療ソーシャルワーカー/両立支援コーディネーター)の3名にお話を伺いました。
村田先生:
関西ろうさい病院の運営母体である、独立行政法人労働者健康安全機構では、「がん・糖尿病・脳卒中・メンタルヘルス」の4分野を中心に、治療をしながら働く方を支える、両立支援に取り組んでいます。当院では、特にがんと糖尿病の患者さんに対する両立支援に力を入れています。
両立支援は、「治療就労両立支援センター」が中心となり行っていますが、両立支援はがん患者さんが対象となることが多いことから、がんに関するさまざまな相談をお受けする「がん相談支援センター」が窓口となることが多いです。
平田さん:
仕事と治療の両立に悩む患者さんがいたら、まずは「両立支援コーディネーター」が患者さんから詳しいお話を伺います。両立支援コーディネーターは、看護師の渡部さんとMSWである私の2名です。
仕事の悩み、と一口に言っても、その内容は千差万別です。医療的な側面からアプローチが必要な場合もあれば、社会的な側面からアプローチが必要な場合もあります。そのため、私たちがお互いに支え合う形で、ペアになって問題解決に取り組んでいます。
村田先生:
仕事と治療の両立に悩んでいる方が、両立支援にたどりつく経路はさまざまです。がん相談支援センターのような窓口に直接相談される患者さんもいれば、外来診療時に医師に相談される患者さんもいらっしゃいます。私は、初診時に仕事に関するお話をお伺いして、支援を必要とされているかどうかをカルテに記載するようにしています。
外来診療時に相談を受けた場合には、両立支援コーディネーターに患者さんをおつなぎします。また、患者さんが希望された場合には、職場の上司や産業医*向けに、治療計画や配慮いただきたい事項などを記載した文書を作成することも可能です。
当院では月に1回、社会保険労務士*が相談に応じているため、必要に応じて社会保険労務士におつなぎすることも可能です。
*産業医…企業で労働者の健康管理などを行う医師
*社会保険労務士…企業における「労働・社会保険に関する諸問題」に応じる、社会保険労務士法に基づく国家資格者
がんの手術、抗がん剤治療、放射線治療後に仕事へ復帰するのに不安があり、がん相談支援センターへ助けを求めました。
両立支援コーディネーターのお二人には、私の話をじっくり聞いていただき、その日は心が軽くなりました。その後も、就労のためのアドバイスや、主治医の先生との橋渡しもすぐにしていただき、会社へ提出する診断書にも配慮してもらいたいことなども盛り込んでくださいました。
本当に、本当に、お二人に相談させていただいて、不安もふっとび、前向きに復帰を考えられるようになりました。ありがとうございました。
患者さんからの投書より、一部抜粋
渡部さん:
当院で、両立支援を行った乳がん患者さんからいただいたお言葉です。復職にあたり、「副作用のことを、どのように職場に伝えればよいのか分からない」と悩んでおられ、がん相談支援センターに相談に来てくださいました。この患者さんは、もともと階段の上り下りが多い仕事をされていたのですが、抗がん剤によって、長時間の歩行や階段の上り下りで息切れが生じる副作用があったのです。
そこで、最初に私が詳しいお話をさせていただき、MSWの平田さんと一緒に職場に提出する診断書の作成にかかわらせていただきました。
平田さん:
復帰のタイミングが間近に迫っており、時間が限られていたのですが、乳腺外科の先生に診断書の作成を依頼したところ、すぐに診断書を作成してくれました。診断書には、治療による副作用、治療の予定、配慮していただきたい点など、細かく記載してくれました。結果的に、診断書の内容を考慮した出向先に変えてもらうことができ、スムーズに仕事に復帰できたそうです。
とてもしっかりされている患者さんで、職場とも細かく連絡をとっておられたので、私たちとしては、少し手を差し伸べただけなんです。ただ、それでも不安は大きかったんだと思います。その気持ちに寄り添うことができて、私たちとしてもとても嬉しく思います。
渡部さん:
患者さん自身、「自分が復帰して会社のためにきちんと仕事ができるのだろうか…」と引け目を感じておられました。それに対して、「そんなことないですよ」、「大丈夫ですよ」と背中を押してあげることも大事なんだと思います。
平田さん:
私たちが両立支援に携わる患者さんのなかには、復職を目指していても、どうしても退職せざるを得ない病状の方もいらっしゃいます。しかし、結果はどうであれ、復職に向けて一緒に悩み尽くす過程が大切なのではないかと思っています。
復職だけがベストな結果ではありません。できる限りのことをして、患者さん自身が納得できるゴールに着地することが、私たちが目指す両立支援です。
平田さん:
病院と職場間で患者さんの情報交換を行うにあたり、標準化された書式がないことが両立支援の課題のひとつだと思います。
職場の産業医から病院の主治医宛てに、情報提供の依頼文書が来ることがありますが、その書式はさまざまで、なかには非常に詳細かつ難しい返答を求める文書もあります。これから両立支援が広まっていくなかで、通常の診療業務で忙しい医師が、一つ一つの文書作成に対応していくことができるのかという不安はありますね。
村田先生:
当院のように、日々多くの患者さんの診療や手術などを行う急性期病院の医師は、両立支援の時間を十分に取れないのが現状です。そのため、できるだけ簡便で、なおかつ必要なことを伝えられるような統一された書式があると、スムーズな情報交換ができるのではないでしょうか。
渡部さん:
両立支援について漠然と知ってはいても、具体的にどのような支援を受けることができるのか、あるいはどのような支援をすべきなのかが、まだまだ知られていないことが課題だと思います。これは私たちも同じです。まだまだ手探り状態で、答えが分からないこともたくさんあります。両立支援について、もっと具体的な理解を深めていくことが、今後の大きな課題でしょう。
村田先生:
両立支援の正解は、仕事を続けることや復職だけではなく、患者さん自身が「生きがい」を感じながら治療を続けられるように支援することだと思っています。もし、心のどこかで仕事を辞めたいと思っていたのであれば、離職も立派な選択肢です。
その生きがいが仕事にあるのであれば、私たちは仕事が続けられるよう支援しますし、ほかの何かに生きがいがあるのであれば、それができる支援も行います。ぜひ、生きがいを大切にしながら、病気の治療を続けてほしいと思います。
渡部さん:
仕事の悩みを1人で抱え込んでしまう方は少なくありません。しかし、相談窓口や主治医の先生、担当の看護師さんにでも、誰にでもよいので悩みを打ち明けていただければ、誰かが必ず助けてくれます。望むような結果が得られないことがあったとしても、一緒に考えてくれる伴走者がいるということを知っていただきたいです。
平田さん:
仕事のことに限らず、困っていることがあれば、「助けてほしい」と誰かに伝えてください。その相手は、病院関係者はもちろん、家族でも、友人でも、道端の人でも、誰でも構いません。そうすれば、誰かがどこかにつないでくれるはずです。SOSを受け取った人は、とにかくそれを受け止めてあげてください。
本当に困っているときほど「助けてほしい」と誰かに訴えるのは、想像以上に勇気と労力が必要なことです。しかし、勇気を持ってSOSを伝えていただきたいと思います。
関西労災病院 副院長・外科部長
関西労災病院 副院長・外科部長
日本外科学会 外科専門医・指導医日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医・消化器外科専門医・消化器外科指導医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医・大腸肛門病指導医日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医・指導医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医・指導責任者日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(消化器・一般外科領域)社会医学系専門医協会 社会医学系専門医日本医師会 認定産業医・健康スポーツ医
1986年より消化器外科医を志す。以後大阪大学、米国イエール大学、米国ヴァージニア大学、大阪府立成人病センター、市立吹田市民病院を経て現在に至る。ロボット直腸がん手術、大腸癌研究会における虫垂癌プロジェクト、さらにがん患者の就労支援にも力を入れている。「柳に雪折れなし」と人は言う。頑張る闘病は無論大事だが、気負わぬ闘病もまたしかりである。今や人生90年。上手に歳を重ねていきたい。
村田 幸平 先生の所属医療機関
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