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医療における“選択と集中”——仙台厚生病院の改革

医療における“選択と集中”——仙台厚生病院の改革
目黒 泰一郎 先生

一般財団法人厚生会 仙台厚生病院 理事長

目黒 泰一郎 先生

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日本の医療には、医師不足や勤務医の就労環境、医療費の増大など、解決しなければならないさまざまな問題があります。仙台厚生病院では、医師にも仕事以外の時間が確保され、効率的に医療を行う仕組みを構築したいという思いから、“選択と集中”“分担と連携”というキーワードを掲げて病院改革を行ってきました。改革によって同院は、医師超過勤務時間の短縮を実現しました。こうした成果は、医師だけではなく、患者さんによりよい医療を提供することにつながり、さらには昨今の日本の医療提供体制のあるべき姿として一石を投じるものではないかと考えています。

医療における“選択と集中”“分担と連携”とは、具体的にどのような取り組みなのでしょうか。仙台厚生病院 理事長の目黒 泰一郎(めぐろ たいいちろう)先生にお話を伺いました。

“選択と集中”“分担と連携”について具体的にお伝えする前に、そもそも私がこういった改革に踏み切った背景からお伝えします。

私は循環器内科の勤務医として駆け出した頃から、2つの目標を持っていました。

1つ目は、私を医師になるまで育ててくれた両親への恩返しです。私の両親は、私を医師にするために、多くのことを犠牲にし、医師になるまで育て上げてくれました。そういった親の思いを無駄にしないために、研究医ではなく、少しでも早く親に恩返しできる勤務医として働こうと決めました。そして、医療界はもちろん、多くの方に少しでもこれまでの恩を還元できる医師になることです。この思いは、今でも私の医師としてのモチベーションの1つとなっております。

2つ目は、全国に知られるような循環器のチームを作る、という目標です。循環器のチームを大きくするためには、救急という道は避けては通れないものです。当時は小さい病院で循環器の勤務医も私一人だったため、非番の日も含めて救急に対応していました。徐々にスタッフの人数も増えてはきましたが、いつ呼び出しの連絡がくるか分からないといった心身への負担が、私を含めたチームメンバーに掛かっておりました。

この状況を次の世代、さらにその次の世代には絶対に残したくないという気持ちのもと、勤務体制を一から見直し、医師の人権を尊重した全国に知られるようなチームづくりを決意しました。

この2つの目標を具体的に実現するために、私が編み出した答えが後述する“選択と集中”“分担と連携”でした。

日本では、医療費の増大、医師不足(特に勤務医不足)、勤務医の就労環境の悪化など、医療におけるさまざまな課題が挙げられています。これらの課題を解決することを目指し、当院では多方面からアプローチを試みています。今回は、私が考える医療の“選択と集中”“分担と連携”についてお伝えします。

まず、医療における“選択と集中”を行いました。

医療における“選択と集中”とは、限られた医療資源を、各医療機関で選択した領域および診療科目に集中していくことを指します。“選択と集中”において、各医療機関は総合病院、高度医療、救急医療の三者から特に注力する領域を二択するべきというのが、私の考えです。

  1. 総合病院と高度医療……大学病院やがんセンターなど
  2. 高度医療と救急医療……都市型急性期病院など
  3. 総合病院と救急医療……地域中核病院や都市部を含む自治体立病院など

当院はこのうち、2の“高度医療と救急医療”を選択しています。

さらに、診療分野の選択も行います。当院では、心臓血管センター(循環器内科、心臓血管外科)、呼吸器センター(呼吸器内科、呼吸器外科)、消化器センター(消化器内科、消化器外科、肝臓内科)の3つのセンターに病床と人員を集中特化させ、さらに複数のチームを設けています。そして主治医だけが患者さんを診るのではなく、これらのチームで対応するようにしています。医師個人の労働力には限界があり、この体制を敷くことで余裕をもった状態で患者さんに医療を提供することが可能となります。

前項で述べた“選択と集中”が病院改革を行ううえで重要となるように、“分担と連携”も同様です。

“分担と連携”には、3通りの方法があります。

  1. 二択別……総合病院、高度医療、救急医療の三者二択の病院ごとに連携を図る方法
  2. 診療分野別……診療分野ごとに分担し連携を図る方法
  3. 機能別……東北大学病院や仙台医療圏の都市型病院などの機能ごとに分担する方法

また、忘れてはならないこととして、“分担と連携”を活かしながら、地域の開業医の先生からご紹介いただいた患者さんは治療が終われば迅速に逆紹介するなど、地域全体で医療を提供する“地域連携”も非常に重要です。

当院では、“選択と集中”“分担と連携”の成果を実感しています。

診療分野を選択し、より集中的に医療を提供できる環境を整えたことにより、効率性が向上しました。このことにより、日本の医療の課題とされている平均在院日数を8.77日まで短縮することができました(2017年度)。また、平均在院日数の短縮により、医療費の節減にもつながっています。

このほか、選択した診療分野に特化して効率性の向上を図ったことにより、勤務医1人あたりが診療する患者さんの数が増え、相対的に勤務医不足が緩和されました。1人の勤務医が診る患者さんの数が増えても、診療の効率性が向上しているため、当院で働く医師の超過勤務時間の平均は8.06時間までに短縮されています。

また、今後は当直を6〜7名体制にして交代制を確立させることにより、非番の日に勤務医は十分な休養をとることができる体制をより強化していきます。休養の時間が確保されたことにより、勤務医が学習に向かう時間が生まれるだけでなく、体調面での管理も徹底できるように改善されました。こういった体制は、体調面だけでなく、非番の日に呼び出される心配がないため、精神面でも、医師の負担を大きく軽減できたと考えています。

医師の負担を軽減させることは、結果的に患者さんへのよりよい医療の提供やサービスの向上につながります。就労環境を改善させたことで、結果的に患者さんにも多くのことを還元できる病院作りにつながったと言えます。

医療における“選択と集中”を行ったことにより、地域の方々や一人ひとりの患者さんに適した医療が提供できているのではないかと考えています。

たとえば、総合病院、高度医療、救急医療の三者から特に注力する領域を二択したり、診療分野を選択したりすることで、より専門的かつスムーズに医療が提供できるようになります。ほかにも、医師対応を主治医制から当番制にしたことにより、医師が過度に疲弊することを防ぐことができ、24時間体制で安心して医療を受けていただけるように環境を整えました。

これからも、患者さんの人権と人格を尊重した医療を目指し、地域全体で連携をしながら医療の提供に励んでいきます。そして、医療費の膨張、医師の働き方改革が最大の課題として認識されている状況下において、当院が日本の医療提供体制における1つのモデルケースとしても価値を発揮できればと考えています。