ノロウイルス感染症とは、ノロウイルスに感染することによって突発的な嘔吐と下痢を起こす病気です。ノロウイルスには、汚染された食品が口に入ることによって感染する接触感染をはじめとするさまざまな感染経路があり、日々の生活習慣によって感染を予防することができます。本記事では、ノロウイルスの特徴や予防するための消毒方法などについて解説いたします。
ノロウイルスには以下のような特徴があります。
ノロウイルスは感染力が強く、10~100個程度のウイルスで感染します。ノロウイルスにかかっている人の便には、1g当たり10億個のウイルスが存在するといわれていることから、いかに感染力が強いかということが分かります。
このため、会社や学校、保育園など人の多いところにウイルスが持ち込まれると、集団感染が起きることもあります。また、ノロウイルスの中にもさまざまな遺伝子型を持つものがあり、この遺伝子型が異なるものには改めて感染するため、おたふく風邪や水痘(みずぼうそう)などのように、一度かかると免疫ができてその後はかからなくなることはありません。そのため、一度ノロウイルス感染症にかかった後でも、再び、あるいは繰り返して感染する可能性があります。
さらに、ノロウイルスはアルコール消毒が効きにくく、アルコール系消毒液による消毒や拭き取り掃除では、ウイルスが十分失活化*できないことがあります。
*失活化:ウイルスが活力を失い、元来のはたらきをしなくなること
ノロウイルスを失活化させるためには、次亜塩素酸ナトリウムによる消毒が有効です。次亜塩素酸ナトリウムは一般的な市販の塩素系漂白剤に含まれています。ノロウイルスの失活化に有効な次亜塩素酸ナトリウム消毒液の作り方は以下のとおりです。
次亜塩素酸ナトリウム消毒液は、次亜塩素酸ナトリウムの含まれる塩素稀有漂白剤を薄めることで作れるため、自宅で作成が可能です。消毒液は、場所によって濃度を変えて使用します。たとえば、患者の嘔吐物や糞便が直接付着したペーパータオルやおむつなどに対しては濃度の濃い消毒液を使用し、ドアノブや手すりなどノロウイルスに汚染されている可能性がある場所に対しては薄めの消毒液を使用します。
次亜塩素酸ナトリウム消毒液は1000ppm(濃度0.1%)で1分間、200ppm(濃度0.02%)で5分間程度浸すことによって、ノロウイルス失活化されるといわれています。
次亜塩素酸ナトリウム消毒液を使用する際の注意点は、異物混入により効力が落ちやすいほか、温度が上がると分解されやすいため、作った消毒液は一度で使い切りましょう。
ノロウイルスは次亜塩素酸ナトリウム消毒液を使用することによって失活が期待できます。
また、消毒する対象によって、加熱することでノロウイルスを失活化できることもあります。以下では、消毒を行う場所ごとの具体的な消毒方法についてお伝えします。
感染者の嘔吐物や糞便が床などに飛び散った場合、まずは感染を防ぐために周囲3mから人を離しましょう。次に処理を行う人は使い捨てガウン、マスク、ゴム手袋などの防護を行います。
次亜塩素酸ナトリウム消毒液を使用する前に、嘔吐物、糞便をペーパータオルなどで静かに拭き取り、その後の床を1000ppm(濃度0.1%)の次亜塩素酸ナトリウム消毒液を浸すようにして拭き取ります。次亜塩素酸ナトリウム消毒液での拭き取りが終わったら、水拭きをしましょう。
処理の際に使用した使い捨てガウン、マスク、ゴム手袋や、拭き取りに使用したペーパータオルなどはノロウイルスを大量に含んでいる可能性があります。そのためビニール袋に入れ、密閉して処分しましょう。このとき、ビニール袋の中に廃棄物が浸る程度の1000ppm(濃度0.1%)の次亜塩素酸ナトリウム消毒液を注いでおくと、ビニール袋内のウイルスが失活化し、感染拡大を防げる可能性が高まります。
感染者の嘔吐物や糞便がリネン(シーツなど)や衣服などの布製品に付着した場合は、すぐに洗濯機で洗ってしまうと洗濯機内がノロウイルスに汚染され、ほかの布製品を洗った際にもノロウイルスが付着してしまい、感染が拡大する恐れがあります。そのため、洗濯機を使用する前に、まずは手洗いで一次洗いをしましょう。マスクや手袋をしたうえで、たらいやバケツの中に水と洗剤を入れ、水が飛び跳ねることに気をつけながら静かに洗います。
ノロウイルスは熱にも弱いため、一次洗いをした後に85℃のお湯で1分以上の熱水洗濯を行うことが望ましいです。熱水洗濯のできる洗濯機がない場合は、手洗い後の布製品を200ppmの次亜塩素酸ナトリウム消毒液に浸して消毒しましょう。ただし、次亜塩素酸ナトリウム消毒液は漂白作用があるため、色のついた布製品に使用すると脱色の原因となりますので、ご注意ください。また、酸性の漂白剤などを混ぜると有毒な塩素ガスを発するため、他の製品と混ぜないようにしましょう。消毒後は水洗いで消毒液を洗い流します。手洗いが終わったら、バケツやたらい、水を流した洗面所など使用した用品、場所を200ppmの次亜塩素酸ナトリウム消毒液で拭き取り、水拭きしましょう。
調理用品がノロウイルスに汚染されている可能性がある場合は、加熱か次亜塩素酸ナトリウムによる消毒でノロウイルスを失活化させましょう。まな板や包丁、食器、ふきんなど耐熱性のある器具に対しては、85℃以上の熱湯に入れ、1分加熱することにより、ノロウイルスを失活化できます。一方、調理台など加熱をすることが難しい部分に関しては、洗剤などで洗浄した後、200ppmの次亜塩素酸ナトリウム消毒液で浸すようにして消毒し、その後水拭きしましょう。調理台などが金属でできている場合、次亜塩素酸ナトリウムにより腐食してしまうことがあるため、消毒後は入念な水拭きを心がけましょう。
感染者が触れたなど、ノロウイルスに汚染されている可能性があるドアノブや手すりなどを消毒する場合は、なるべく温水で洗浄し、200ppmの次亜塩素酸ナトリウム消毒液で拭き取り消毒を行います。調理台同様、ドアノブや手すりなども金属でできていることがあり、次亜塩素酸ナトリウムに長く触れていると腐食する可能性があります。そのため、消毒後は水拭きを徹底しましょう。
ノロウイルスは感染力が強いことで知られています。しかし、次亜塩素酸ナトリウム消毒液を使用した消毒や、熱消毒によって失活化させることができれば、感染拡大の予防に繋がります。身近に嘔吐、下痢など疑わしい症状を持つ人やノロウイルス感染症にかかっている人が現れたときは、細心の注意を払って汚物の処理や周辺の消毒を行いましょう。
横田 修一 先生の所属医療機関
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ノロウイルス
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