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SARS(重症急性呼吸器症候群)の特徴 ~症状や病原体、2002年流行時の広がり方は?~

SARS(重症急性呼吸器症候群)の特徴 ~症状や病原体、2002年流行時の広がり方は?~
矢野 邦夫 先生

浜松医療センター 感染症内科 院長補佐・感染症内科部長

矢野 邦夫 先生

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SARS重症急性呼吸器症候群)とは、2002年11月に発生したSARSコロナウイルス(SARS-CoV)による非定型性肺炎(細菌でない微生物によって引き起こされる肺炎)の呼称です。発生場所は中国南部の広東省だといわれており、その後インドより東側のアジアやカナダを中心とし、32の国や地域に感染が拡大しました。

また、WHOによって終息宣言が出されたのは2003年7月で、その間確認された感染者の数は8096人、死亡者はそのうちの774人でした。ここではSARSの特徴と症状、感染の広がり方などについて詳しく解説します。

SARSの潜伏期間(感染してから発症するまで)は2~10日程度、平均で5日程度とされていますが、もっと長い場合もまれにあります。

主な症状としては発熱、咳、呼吸困難、下痢などが挙げられます。まず、発病して最初の1週間程度は発熱や悪寒、筋肉痛のようなインフルエンザに似た症状が現れ、特異的な症状は認められません。その後2週目には非定型肺炎に移行し、咳や呼吸困難、下痢といった症状が現れることがあります。また約8割はその後症状が改善されますが、場合によっては急性呼吸窮迫症候群に陥って死亡することもあります。

ただし小児の感染例は少なく、2003年5月末の中国のデータでは人口10万人あたりの10歳未満罹患率は0.16%であり、かかっても軽症で済むことが一般的だといわれています。

SARSの原因となる病原体はSARSコロナウイルス(SARS-CoV)であり、これは2019年末頃から流行した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とは異なります。そもそもコロナウイルスとは主に風邪などを引き起こすウイルスの総称ですが、その中にSARS-CoVとSARS-CoV-2が含まれます。SARS-CoVは重症肺炎を引き起こすウイルスであり、最初はコウモリから人に感染したと考えられています。

また、SARS-CoVをはじめとするコロナウイルスの特徴として変異しやすいことが挙げられ、ワクチンや治療薬を開発する際の課題となっています。

SARSの検査方法には、ウイルス分離、RT-PCR法、LAMP法、血清抗体測定がありますが、これらの方法でSARSの早期診断を行うことは現状難しいといわれています。そのため、たとえこれらの検査で陰性だったとしても感染していないと断言はできず、診断は症状や感染する状況があったかどうか、ほかの病気の可能性はないかなどの情報に基づいて行われます。

SARSの主な感染経路は飛沫(咳やくしゃみ)、接触(糞口)感染だといわれていますが、エアロゾル感染の可能性も含めて議論の余地があるのが現状です。

院内感染が多いのですが、感染者の飛沫や体液に直接触れない限り感染の可能性は低いと考えられています。また、発症前の患者から感染した例はこれまでになく、感染のピークは発症10日目前後だといわれています。

今後SARSが再流行する可能性はゼロではなく、また、新たな感染症が大流行することもあります。そのため、日頃から再発生や再流行に備えた行動を心がけましょう。

具体的には、手洗い、マスクの着用、体力や免疫力をつけるなど、一般的な風邪予防を講じるとよいでしょう。また、必要がない場合はできるだけ人混みを避けるといったことも大切です。

さらに、再発生した場合は感染が発生・流行している地域に行かないようにし、やむを得ない場合は体調の変化に注意しましょう。もし身近な人が感染した場合は、医師の指示に従って自宅待機や検査を受ける必要があります。

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