編集部記事

漏斗胸に対する手術とは ~Nuss法の手技や術後の生活、費用の目安について解説~

漏斗胸に対する手術とは ~Nuss法の手技や術後の生活、費用の目安について解説~
笠置 康 先生

松山笠置記念心臓血管病院 病院長、社会医療法人 笠置記念胸部外科 理事長

笠置 康 先生

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胸が陥没する病気である漏斗胸(ろうときょう)の原因はまだ明らかになっておらず、進行を予防するための方法も確立されていませんが、治療を行うことで症状や見た目の改善が期待できます。

現在、漏斗胸の治療法として陥没が軽度であれば姿勢を矯正したり胸の筋肉を増やしたりして見た目をよくする方法や、大きな吸盤で胸を持ち上げる陰圧吸引療法もありますが、治療の中心となるのは手術です。

ここでは、漏斗胸の一般的な手術法であるNuss法の手技、合併症、費用、手術後の生活や、ほかの手術方法について解説します。

Nuss法は、アメリカの小児科外科医であるDr. Nussが1998年に発表した術式です。それまでの漏斗胸の手術は、胸骨翻転術やラビッチ手術(胸骨挙上法)といった方法が主流でしたが、手術創痕(そうこん)が大きく十分に陥没が改善されない場合がありました。

日本においては2000年頃からNuss法が普及し始め、手術創痕が小さい、手術時間や入院期間が短い、矯正効果が高いなど多くの利点から、現在ではNuss法が一般的な手術方法となっています。

Nuss法ではまず全身麻酔を行い、胸の両脇2か所を2~2.5cm程度切開します。その後、切開したところからチタン合金製の金属でできた棒(金属バー)を挿入し、胸骨を前方に押し上げるように180°回転した後、固定します。金属バーは胸郭の形が固まるまで最低2~3年間留置する必要があり、矯正が終わると再手術を行い、留置している金属バーを抜去して治療終了となります。

金属バーを挿入するための1回目の手術時間は通常1~4時間程度で、手術後5~10日程度で退院となります。金属バーを抜去するための2回目の手術も1回目のように全身麻酔で行いますが、特に問題がなければ3~7日程度で退院可能です。

Nuss法の安全性は確立されていますが、手術である以上は合併症のリスクが伴います。

手術中に起こりうる合併症として血胸(胸腔内に血液が貯留した状態)や気胸(肺から空気が漏れて肺がしぼんだ状態)、重篤なものでは心損傷などがあります。また、術後合併症として無気肺(肺の一部または全体の空気量が減少して肺がつぶれた状態)、創部感染、胸水貯留(胸に液体が貯留した状態)、まれに血胸、膿胸(のうきょう)(胸腔内に(うみ)が貯留した状態)を認めます。手術操作や金属バーの留置によって、術後しばらくは胸の痛みや圧迫感、背中の違和感がみられますが、まれです。

1回目の手術では5~10日程度で退院でき、退院直後から日常生活上の軽い活動が可能で、学校や仕事(デスクワーク)にも復帰できます。しかし、固定している金属バーがずれるのを防ぐために体を強く捻るような動作を控える必要があります。

運動については手術後1か月後くらいからランニングなど軽い運動ができるようになります。ゴルフなどの体を強く捻る運動や人と接触する可能性のある運動は避けたほうがよいです。四肢股関節・肩関節までに止めた軽い運動にしましょう。

手術後6か月以降では胸郭の発達を促進するために積極的に運動を行うことが推奨され、ある程度の運動が可能となります。ただし、無理のない範囲で行い、柔道や相撲、ラグビーといった人と強く接触するようなスポーツは避けましょう。

なお、手術後は金属バーのずれ以外にも、感染が起こることがあるため注意が必要です。金属バーがずれたと感じる場合や、創部周囲に強い痛みや腫れなどの症状が現れた場合には早めに受診するようにしましょう。また、術後は麻酔による肝機能疾患および金属バーのずれや合併症の有無を調べるために定期検査が必要な場合もありますので、忘れずに検査を受けてください。

漏斗胸の手術はどれも保険適用となり、Nuss法においては初回手術の費用の目安が120~150万円、3割負担で40~50万円程度となります。公的な制度を利用すればさらに負担分を抑えることもできます。

たとえば18歳未満の方においては自立支援医療制度を利用でき、実質負担が数千円~1万円程度になります。また、高額療養費制度を利用すれば、所得や年齢によって変わりますが自己負担は2万円~12万円くらいが目安となります。

漏斗胸は必ずしも治療が必要な病気というわけではありませんが、一般的には喘息(ぜんそく)のような発作や風邪を引きやすいといった呼吸器症状、胸痛や動悸、運動時の息切れなどの症状があり、陥没の程度が強い場合に手術適応と判断されます。しかし、特に気になる症状がなく陥没の程度が軽い場合でも見た目の悩みから治療を希望する患者さんに対して手術を行うこともありますので、実質的には医師との十分な話し合いの結果で決定されます。

手術を行う時期については、胸郭がまだ軟らかい子どもは(3~18歳)、特に7~10歳前後に手術を行うのが適しているとされています。大人も手術の対象となりますが、大人になってからでは胸郭が硬いため、きちんとした胸郭軟化法ができる施設を選んでください。

現在、漏斗胸の一般的な手術方法はNuss法であり、従来の胸骨翻転術や胸骨挙上法はあまり行われていません。

しかし、一部の医療機関では肋軟骨を数本切除して胸骨を持ち上げる胸肋挙上法が行われています。ただし、一般的には十分に心臓圧迫が改善が期待できるNuss法がすすめられます。

また、陥没の程度が非常に強い患者さんの場合は、医師と相談して医療機関を選ぶべきです。

漏斗胸の治療には、手術以外にも陥没がごく軽度で心臓および肺の圧迫がない症例であれば、姿勢の矯正や胸筋の増強による見た目の改善や、大きな吸盤を用いて陰圧で胸を持ち上げる陰圧吸引療法があります。ただし、毎朝晩のトレーニングを数年間続けるのも大変だと思われますし、陰圧吸引療法も年齢により効果は限定的です。

また、手術においても病院によっては複数の方法を使い分けている場合もあります。

治療は患者さんの状態だけでなく、希望も考慮して決定されます。そのため、医師とよく話し合い、患者さん本人にとって適している治療法を選択することが大切です。また、手術にはリスクが伴うため、治療効果だけでなくリスクについてもしっかりと理解し、納得したうえで手術を受けるようにしましょう。

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