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自閉スペクトラム症の対応方法について

自閉スペクトラム症の対応方法について
上床 輝久 先生

京都教育大学 保健管理センター 教授

上床 輝久 先生

目次
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自閉スペクトラム症とは、子どもの頃にその特徴が明らかになる発達障害の1つです。以前は自閉症、アスペルガー障害、広汎性発達障害などといわれていましたが、近年は自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)と表現されるようになりました。原因は明らかではありませんが、生まれつきの脳の障害によるものだとされています。しかし、自閉スペクトラム症は早期診断・療育を行うことにより、その後の日常生活が送りやすくなると考えられています。

では、自閉スペクトラム症が疑われる場合、どのような対応を取ればよいのでしょうか。また、診断後にはどんな対応が適切なのでしょうか。

自閉スペクトラム症が疑われる場合、まずは地域の専門施設への相談や医療機関の受診を検討しましょう。地域の専門施設へ相談する場合には、児童福祉センターや子育て支援センター、発達障害支援センター、療育センターなどが相談先として挙げられます。医療機関を受診する場合には、かかりつけの小児科のほか児童精神科や発達障害の専門外来などの診療科を受診してもよいでしょう。

相談や受診の結果、自閉スペクトラム症の疑いが強いと判断された場合は、医療機関にて診断が行われます。自閉スペクトラム症の診断は問診・心理検査や行動観察などをもとに、幼少期からの症状を確認し、診断基準に照らし合わせて行われます。

自閉スペクトラム症は一人ひとりにさまざまな症状、特性がありますが、一般的に社会的コミュニケーションの障害、行動や興味・関心の限定などの特徴がみられるといいます。

社会的コミュニケーションの障害は、言葉の遅れや会話の難しさがあったり、集団生活で人との接し方や振る舞い方が分からないといった難しさがあったりします。行動や興味・関心の限定には、特定の方法や手順に対して強くこだわったり、変わったものを集めたりするケースや、感覚が過敏・鈍感など極端になるケースがあるとされています。

上記で挙げた特徴によって困っている場合には、一度福祉施設への相談や医療機関の受診を検討するとよいでしょう。

自閉スペクトラム症と診断された場合には、その人の発達ペースに合わせて医療・教育など多方面からの支援が必要です。

自閉スペクトラム症は症状が多種多様であり、併存する精神疾患や年齢によっても抱える問題が異なります。そのため、必要となる支援の方針や内容も人によってそれぞれであり、担当医や専門施設の担当者と相談しながら方針や内容を決めていく必要があります。

障害のある人が成長する過程でよりよい発達を促すために行われる支援プログラムのことを療育と呼びます。自閉スペクトラム症の療育プログラムは、教育的なアプローチや心理学的なアプローチ、医学的なアプローチなどを組み合わせて実施されます。

教育的な支援は主に家庭内や学校教育の中で実施され、自閉スペクトラム症を抱える人の発達の特徴に応じてさまざまな配慮が行われます。心理カウンセラーなどの専門家の支援のもと実施されるカウンセリングや認知行動療法、ソーシャルスキル・トレーニング*なども効果がある場合があります。また、医学的なアプローチは自閉スペクトラム症やそれに併存する精神疾患(注意欠如・多動症、不安症、うつ病など)の症状を和らげるための薬物治療が医師によって行われます。これらの包括的なサポートを行うことによって、自閉スペクトラム症を抱える人の行動の改善や発達の促進によい影響をもたらすと考えられています。

*ソーシャルスキル・トレーニング:人と関わりながら生活していくうえで必要なスキルを獲得することを目的とした訓練のこと。

子どもが自閉スペクトラム症と診断された場合、発達の仕方が周囲の子どもと異なっていたり、一般的な育児方法が通用しなかったりして、悩みや不安を抱える保護者もいます。まずは子どもの発達を肯定的に捉え、子どもや自分自身を責め過ぎることのないように心掛けましょう。

また、自閉スペクトラム症をはじめとする発達障害では、地域の専門施設などからさまざまな支援を受けられます。そのため、育児に関する悩みや不安が生じたときには1人で抱え込まず、地域の行政機関や専門施設への相談を検討しましょう。

自閉スペクトラム症は、早期診断・療育を行うことによって社会適応力が高まると考えられています。また、同じ自閉スペクトラム症を抱える人であっても、抱える問題は年齢やライフステージによって異なります。そのため、療育の方針・内容などについて気になることがあれば、その都度担当医や専門施設の担当者に相談しましょう。

  • 京都教育大学 保健管理センター 教授

    日本精神神経学会 精神科専門医・精神科指導医日本医師会 認定産業医

    上床 輝久 先生

    児童・思春期・青年期を専門とする精神科医師として、大学病院、大学保健センター、児童発達支援センター、単科精神病院などでの診療および大学産業医を経験。発達障害のある若者が、より充実した生活を送り働くために必要な支援や医療、教育、法制度などについて、臨床および学校医、産業医としての実践を通じて知見を広く共有することを目指している。