自治医科大学附属病院 卒後臨床研修センターでは、春季と夏季の年2回、全国の医学部生を対象に、同院の特長や雰囲気を知ってもらうセミナーを開催しています。参加者はさまざまな診療科の医師による講義のほか、実際の医療機器に触れて手技を体験できるコースを自由に選んで参加できます。今回は2025年7月19、20日に開催された夏季セミナーの内容や魅力、研修医育成への思いを間藤 尚子センター長にお伺いしました。

本学は医療に恵まれない“へき地”などにおける医療の確保および地域住民の方々の福祉の増進を目的に設立されました。卒業生は出身都道府県内の病院や診療所に勤務するため、ほぼ学内に残りません。そのため外部からの研修医の募集活動には特に力を入れており、セミナーはその一環として春、夏の年2回行っています。
なお、セミナーでは診療科の医師と直接接することで、当院で働く人たちの人柄や雰囲気を肌で感じていただくことができます。体験するコースは自由に選択できますので、特に興味のある診療科の特徴や技術などを深く知っていただく機会にしていただければと思います。研修医が担当するコースもあるので、採血や点滴といった基本的な手技を学ぶ合間に、研修のことや日々の生活のほか、医師には少し聞きづらいようなことも質問していただけます。1日目の最後には懇親会もあるので、医師や研修医とよりざっくばらんに楽しみながら交流できます。本学の魅力を存分に体感していただける、非常に盛りだくさんな内容となっています。
申し込みは2か月ほど前から受け付けています。参加費は無料で、遠方から来る学生もいることから交通費や宿泊費を支給しています(上限と条件あり)。参加人数は例年約30名です。東北や九州、四国まで全国各地からご参加いただいています。

セミナーは“拡大版の病院見学”と捉えていただくと分かりやすいでしょう。通常の病院見学では、病院の雰囲気を知ることを目的に2~4つほどの診療科を見ることが多いと思います。しかし、本学の夏季セミナーは2日間の日程で最大5つの診療科を見学できます。さらに、その診療科で学ぶべき手技や知識を各科の医師の指導を受けながら実際に自分の手を動かして学んでいただけることが一番の特長です。一度に複数の医師から話を聞くことができるので、病院の雰囲気を広く知ることができる有意義な内容になっているかと思います。過去のアンケートでは、「自分の大学では経験できないことができた」「同世代の仲間ができて嬉しかった」といった意見をいただいています。セミナーをきっかけに、実際に研修医として就職してくれる学生もいます。
今回のセミナーで用意した全21コースの一部をご紹介します。

呼吸器センターでは胸腔ドレナージの挿入を体験できる人形や、挿入後の縫合ができる模型、気管支鏡のバーチャルシミュレーターを用意しました。治療についての基本知識を解説後、挿入する位置やチューブの角度など、医師が手本を見せながら手技のポイントを説明し、学生に体験してもらいました。参加した学生は「器具の使い方や気を付けることなどを分かりやすく指導してもらえて参考になりました」と話していました。

耳鼻咽喉科では頸部エコーを使ってゼリーを観察し、中にある果実を狙って針を刺す体験や、パプリカに鼻内視鏡を挿入して鉗子を使って中にある種を取り出すなどのユニークな体験があり、学生から「楽しみながら学べた」と好評でした。
このほかの診療科では、医師が実際に使用する手術機器とブタの目を使った白内障手術のシミュレーションや、ブタの心臓を用いて大動脈弁置換術の体験ができるコースを用意しました。いずれも実際の手術と似た環境で医師から直接指導を受けながら学べる貴重な機会となっています。
消化器外科は手術支援ロボット“ダビンチ”のシミュレーターを使った縫合体験を行いました。研修医や若手医師がトレーニングで使うものを使用しています。外科系のトレーニングは、医師になってから専門の施設で行うのが一般的ですが、それらを学生のうちにちょっと先取りして挑戦してもらいました。
手技の体験以外にも、放射線治療の計画を一緒に立てたり、臨床推論を体験したりと、座学の面でも各科の特色を生かしたプログラムを多数用意しています。

本院は1974年の開院当初から国の制度による義務化に先駆けて、複数の診療科で研修を行う“ローテーション研修”を導入してきました。そのため、さまざまな診療科が研修医を歓迎し、手厚い指導体制で育てる文化が根付いています。ここで研修を終え、臨床研修指導医として活躍している医師も同様に育てられてきました。私もその1人です。研修医の指導を通じて私たちも成長しながら、よい学びを還元していくという流れが引き継がれています。
本学は卒業生がほぼ残らないので、研修医は外部から集まります。そのため学閥もなく、皆がゼロからのスタートです。上級医との関係も一から築いていくので、誰でもまっさらな状態から自分のやりたいことを伸ばすことができます。大学病院であることから、臨床だけでなく基礎研究の講座も充実しています。臨床と研究、両方の強みを生かした研修を提供できていると思っています。
働き方改革にも取り組んでいます。2024年度、2年目の研修医にアンケートを取ったところ、6〜7割が「しっかり休めた」「睡眠時間を確保できた」と回答しました。熱心に学びながらも休むべきときにはしっかり休むことができる、医師として心身ともに健康でいられるような環境を整えています。
求める研修医像は“タフで粘り強く努力できる人”です。頑張る人を全力で応援する大学病院なので、その努力が無駄になることは決してありません。また、複数の診療科がありますので、チャレンジ精神があり、興味・関心を幅広く持てる人も歓迎します。多様な人材を受け入れる風土がありますので、少しでも興味を持った人はぜひ一度見学に来ていただきたいです。
初期臨床研修は医師としての第一歩を踏み出すとても大切な時間です。研修医の間に学ぶべきことをしっかり学ばなければ、一人前の医師にはなれません。この時期の経験は医師としての将来に必ず生きてきますので、ぜひ精いっぱい頑張ってほしいと思います。
また、指導では“礼節”も大切にしています。患者さんは年上の方が多くなりますので、人としての礼節をわきまえた医師を育てていけるよう力を入れています。
私たちは皆さんの挑戦を待っています。本学には臨床経験を積んだ医師や、基礎研究を専門とする医師、地域医療を経験してきた卒業生がいます。キャリアのバラエティに富んだ講師陣がそろっていることが強みです。皆さんが目指す道に向かって、的確な助言を与えてくれる人材に出会える環境であり、研修医教育に対する熱意は、他のどの病院にも負けないと自負しています。 飛び込んできていただければ、私たちが全力でフォローし、皆さんの医師としての成長を後押しします。
自治医科大学附属病院 卒後臨床研修センター センター長、自治医科大学内科学講座 呼吸器内科学部門 教授
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医日本呼吸器学会 呼吸器専門医・指導医・代議員日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医・気管支鏡指導医・評議員日本アレルギー学会 会員日本肺癌学会 会員
1999年自治医科大学に内科レジデントとして入職、2003年呼吸器内科に入局し、診療・研究そして教育に携わってまいりました。また、2014~2015年に卒後臨床研修センターの副センター長として従事、10年を経てこの度センター長として戻ってまいりました。世の中が大きな変革を迎えている中で、研修医の先生には時代の潮流に乗りつつも、人が人を診ることの重要性と責任を伝えてまいります。そして、当院での研修が今後の医師人生の礎になるよう支援してまいります。
間藤 尚子 先生の所属医療機関
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