概要
胸腔ドレナージとは、肺や心臓などの重要な臓器が収まっている胸の空間部分(胸腔)に、ドレーンと呼ばれる医療用のチューブを挿入し、異常にたまっている気体や体液を持続的に排出する医療処置の1つです。古代ギリシャ時代にヒポクラテスが初めて行ったとされるたいへん歴史のある処置です。
胸腔ドレナージは、主に気胸や胸水を改善する目的で行われます。気胸とは、肺から空気が漏れて胸腔に空気がたまり、肺が縮んでいる状態です。胸水は、肺炎や腫瘍などにより、胸腔に異常に体液がたまっている状態です。これらの病気では、肺や心臓が圧迫されるなどして、息苦しさなどの呼吸に関わる症状や、血液の循環が妨げられることによる症状などがみられます。胸腔ドレナージにより胸腔から気体や体液を取り除くことで、呼吸や血液の循環を改善することが期待できます。
処置は通常、局所麻酔下で行われ、肋骨の間から針やドレーンが挿入されます。ドレーンを留置している間は通常、入院が必要となります。重い合併症が起こることはまれとされていますが、肺などの臓器の損傷や胸痛、感染症が生じることがあります。
目的・効果
胸腔ドレナージは、気体や液体を胸腔から持続的に取り除くことを目的として行われます。胸腔に気体や液体がたまると、肺や心臓が圧迫され、肺が縮んだり、心臓のはたらきが悪くなったりします。息苦しさなどの呼吸に関わる症状や、ショックなどの血液循環に関する症状が生じることがありますが、胸腔ドレナージによりこれらの症状を改善することが期待できます。
適応
胸腔ドレナージは、以下のような病気の処置として行われます。特に、胸腔内にたまった気体や体液が原因となり、心臓が圧迫されてショック状態に陥っている場合には必須の処置です。
気胸
気胸とは、肺から空気が漏れて胸腔に空気がたまり、肺が縮んでいる状態です。気胸にはいくつかの種類があり、最も多い自然気胸は10~30歳代のやせ形の男性によくみられます。症状は、突然の胸の痛みと息苦しさです。ショックなど重い症状が現れる場合もあります。
胸水
胸水とは、何らかの原因で胸腔に異常に体液がたまっている状態や、たまっている液体そのものを指します。原因は数多く、たとえば心不全、肝硬変、肺炎、腫瘍、感染症などが挙げられます。胸水はたまる体液によっていくつかの種類に分けられ、血液がたまる状態を“血胸”、膿がたまる状態を“膿胸”、ミルク状のリンパ液がたまる状態を“乳び胸”と呼びます。症状としては、呼吸困難や胸痛などが挙げられます。
治療の経過
胸腔ドレナージを行う際は、通常、入院が必要となります。また、ドレーンの留置を行う前に、患者の胸腔の状態を確認するためにCTなどの画像検査を行います。
留置を行う際は、患者は通常、腕を上げた状態で横になります。皮膚を消毒し局所麻酔を行った後、小さく皮膚を切開し、針とドレーンが一体になった排液用のカテーテルを胸腔内に挿入します。カテーテルが胸腔内の目的の箇所に到達した後に針の部分だけを引き抜くことで、ドレーンだけを留置することができます。目が覚めた状態で処置が行われることが一般的ですが、鎮静薬が使用されることもあります。
ドレーンの挿入が完了したあとは、胸部X線検査などでドレーンの位置に問題がないかが確認されます。なお、カテーテルの片方の端は吸引器につながれています。
胸腔ドレーンを留置した後は、数日間は痛みが生じますが、時間の経過とともに軽減します。ドレーンが外れないように活動の制限が生じることがあるほか、入浴も制限されます。ドレーン留置中は、バイタルサインや呼吸状態などの確認に加え、胸痛や感染症などの合併症の徴候がみられないかを注意して観察されます。
気体や体液が十分に排出され、全身状態に悪化がなく、X線検査などでも異常がみられなければドレーンが抜去されます。胸腔ドレーンを抜いた後は、数時間経過したのちに再度X線検査を行い、胸腔に気体や液体がたまっていないかが確認されます。
リスク
胸腔ドレナージで重い合併症が起こることは多くないとされています。その一方で、胸腔内には肺や心臓、大きな血管などの生命維持に関わる臓器が存在すること、ドレーンの先端を常に観察しながらの挿入が困難であることから、安全管理が重要な処置といわれています。
起こり得る合併症としては、肺などの臓器や血管にドレーン先端の針が刺さることによる損傷(出血など)のほか、胸痛、感染症などが挙げられます。ドレーンがねじれたり、ずれたり、血栓で詰まった場合には、再度の留置が必要となる場合もあります。また、急速に体液を抜き取った場合などには、肺に液体がたまることもあります(肺水腫)。
胸腔ドレーンによる臓器や血管の損傷を避けるためには、患者の胸腔の状態を画像検査などで正確に把握したうえで、ドレーンを適切な位置から適切な方向に挿入すること、挿入後に画像検査を行うこと、取り除いた気体や液体を確認することなどが重要とされています。
費用の目安
胸腔ドレナージの費用は、病状などにより異なります。また、ドレナージの留置は入院によって行われることが多く、その場合、入院期間に応じた入院費が必要となります。そのほか、麻酔代や検査代などが加算されます。
処置に必要となる費用は、医療機関や地域によっても異なる場合があるため、正確な金額は医療機関に確認するようにしましょう。
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