静脈血栓塞栓症とは、深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症と呼ばれる病気の総称です。通称「エコノミークラス症候群」と呼ばれることもあります。
深部静脈血栓症とは、足の静脈に血栓(血の塊)が生じることによって静脈の閉塞が起こる病気です。この深部静脈血栓症によって生じた血栓が血流に乗り肺に到達すると、肺動脈を閉塞し、息切れや失神などの症状が現れる肺血栓塞栓症が起こります。
静脈血栓塞栓症では、治療と共に、予防や早期発見が大切だと考えられています。それはなぜなのでしょうか。今回は、平塚共済病院の丹羽 明博先生に、静脈血栓塞栓症の治療と予防についてお話しいただきました。
静脈血栓塞栓症の診断では、息切れやふらつきなどの症状や、足を圧迫することで血栓があるかどうかの手がかりを探していきます。また、足首から先の足先を背屈させることによって足のふくらはぎに痛みが生じるようなら、この病気も疑います。
診断をつけるためには、血液検査や心電図、レントゲン検査、CTなどの検査を行っていきます。
たとえば、血液検査の結果、血液中のD-dimer*の値が上がっていれば、静脈血栓塞栓症が生じている可能性があります。ただし、D-dimerの値の上昇はほかの病気でも起こりえるため、必ずしもこの病気を意味するわけではありません。
また、心電図検査の結果から病気がわかることもありますし、明らかなものであればレントゲン画像に肺門部の陰影が大きく映るケースもあります。
なお、確定診断のためには造影CT検査を行います。
D-dimer:血栓が溶けていく過程で生じる物質
静脈血栓塞栓症で現れる症状は、心不全や呼吸不全で現れるものと似ているため、診断ではこれらと区別することが大切になります。
たとえば、「息苦しい」と訴えて受診された方は、最初に心不全か呼吸不全を疑われることが多いでしょう。しかし、診察の結果、心臓や肺の雑音がないようなら、この病気の可能性を考えます。
また、レントゲン検査の結果、心不全や呼吸不全でみられる影がなかったり、血栓によって肺の血管が詰まっているために肺の透過性が進んでいたりすることがわかれば、この病気を疑います。
静脈血栓塞栓症の治療は、血液を固まりにくくする抗凝固療法が基本になります。抗凝固療法とは、血液をさらさらにする効果のある抗凝固薬を静脈注射あるいは皮下注射で投与したり、飲み薬を服用したりする治療法です。中でも、近年では、効果の高い新たな抗凝固薬が登場しており、特に発症初期の急性期には、その薬の使用が一般的な治療法になっています。
抗凝固薬には複数の種類があり、それぞれの薬の特徴も異なります。当院では、患者さんの状態を確認しながら適した薬の使用を行っています。
また、重症例に対しては、薬を使用して血栓を溶かす血栓溶解療法を行うこともあります。
基本的に、先述したような抗凝固薬によって治療を続けている限り再発は少ないと考えられていますが、患者さんの中には、この病気を繰り返し起こしてしまう方もいます。
何度もこの病気を繰り返しているような患者さんには、再発を防ぐために薬の種類や使用期間などを工夫していきます。
関連学会ではいつまで薬を使い続けるかが、大きなテーマになっています。
当院では、診断の項でお話しした「D-dimerの値」を治療のひとつの目安としています。たとえば、薬の量を減らしていった結果、D-dimerが正常範囲内にとどまっていれば、より減量・中止まで進む一方で、途中でD-dimerが上昇するようであれば、薬の量を元に戻すこともあります。このように患者さんの病状を見ながら再発を起こさないように薬剤量を調整しています。
記事1『エコノミークラス症候群とも呼ばれる静脈血栓塞栓症ってどんな病気?』でお話ししたように、静脈血栓塞栓症が起こると短期間で亡くなるケースもあります。そのため、予防や早期発見が非常に大切です。
早期発見のために私が推奨しているのは、自分で足を圧迫する方法です。定期的にふくらはぎを圧迫し、痛みや違和感があるようなら、この病気の可能性を考えてみてほしいと思います。
また、静脈血栓塞栓症は片方の足に起こることが多いため、右と左で痛みの感じ方が違う場合にも注意が必要です。自分で足を圧迫しながら、片方の足に痛みや違和感が生じた場合には、早期に受診していただきたいと思います。
静脈血栓塞栓症の予防のためには、じっとしていないことが大切になります。日本では、度々起こる災害によって、一定期間、避難所や車中で生活を行うケースもあるでしょう。車中泊や避難所でも、なるべく動くことを心がけてほしいと思います。さらに、水分が不足すると静脈血栓塞栓症を起こしやすくなってしまうので、なるべく水分をとるよう心がけてください。
また、避難所では床に寝ることが多いと考えられますが、可能であれば高さのあるものに寝ることが予防につながるといわれています。これは、起き上がり時や就寝時に足を動かさざるをえないために静脈の刺激につながるからです。
弾性ストッキングの着用も予防につながるといわれています。弾性ストッキングとは、足に圧力を与える効果のあるストッキングです。弾性ストッキングを着用すると、足の静脈が圧迫され血栓ができにくくなる効果が期待できます。
何らかの手術のために入院する場合、術後の早期離床が予防につながります。近年は、昔と比べて、早期離床を推奨する傾向にあり静脈のうっ滞の予防につながっています。病気や手術の種類にもよりますが、手術の当日や翌日には歩いていただいている施設が増えています。
もともと抱える病気によっては、自分で動くことができないケースもあります。そのような場合には、リハビリやフットポンプの使用が予防につながるでしょう。
足を動かすことができない入院中の患者さんに対して、静脈のうっ滞を起こさないようフットポンプが用いられることがあります。フットポンプとは、下腿(ひざから足首までの部分)を間欠的に圧迫したり、足裏を叩いたりすることで、筋肉ポンプの代わりに足の静脈を刺激する医療機器です。
静脈血栓塞栓症では、予防や早期発見が非常に大切です。特に、入院時や長距離の移動中など発症しやすい状況では、可能であればなるべく動くことを心がけてください。また、繰り返しになりますが、早期発見のためには自分で定期的に足を圧迫し、片方の足に痛みや違和感があれば早期に受診していただきたいと思います。
私は、肺血栓塞栓症の再発をゼロにしたいと考えています。そのために、当院では、患者さんに合わせて薬の種類や薬の服用期間を変え、再発の予防に努めています。患者さんの状態を適切に評価し治療を行いますので、安心して受診していただきたいと思います。
平塚共済病院 顧問
関連の医療相談が11件あります
血流?血栓?
現在の症状について、変化を感じとれた気がしましたので整理してみました。 ・常にふくらはぎが張った感じがする。 ・胸のあたりがつかえた感じがして、喋るだけでも気持ち悪く、吐き気もする。 ・目の奥が痛く、かすむ、ひどい時は目の周りが紫色になる。 ・言葉(単語)がスッと出てこない時が多い。 昨日、同様の症状が会社の帰り道もずっと続いていて、帰宅後、ウォーキングに出ました。10分くらい歩くと、腕から手先が温かくなってきて、ふくらはぎの張りもおさまってきて、それに伴ってなのか、胸のつかえた感じ、吐き気も改善されてきました。 約40分歩いて額に汗がにじむ程度で、息切れもほとんどなく、主観ですが、目の下の、紫色だった範囲が小さくなっていました。 翌朝5時起床後、また同じ症状(ふくらはぎの張り、胸の違和感、吐き気、目の奥の痛み)だったので、約50分ウォ―キングをしました。 するとやはり少し楽になりました。ただそれはいつも一時的です。 これは、血流による症状だと思うのですがいかがでしょうか? 母親が血栓ができやすい体質らしく、私ももしかして足に血栓のようなものができてそれが飛んで、どこかに詰まっているか停滞している、なんてことはないのでしょうか? ちなみに私は168センチ60kgで、肥満ではありません。仕事はデスクワークが多いです。 血圧の薬を5月から服用しています。(上は正常、下が薬服用前で90~100、薬服用で現在80台になっています。) どのような疾患が考えられますでしょうか? 何科でどんな検査をしてもらえばよいのでしょうか? 血流や血栓の異常は調べてもらった方がいいのでしょうか? (5月に救急外来で、心臓の造影剤CTをしてもらったが、狭心症・心筋梗塞ではない。その画像には肺は写っていない。) ご意見よろしくお願い致します。
血管の通ってるところがチクチク痛い
3ヶ月前くらいから右足のふくらはぎのあたりがちくちく痛み出しました。立ったり歩いたりには支障は無いのですが正座すると痛くて長く座ることができません。痛む場所を見てみると血管が通ってる場所なような気がします。そして以前はなかったのですが左足と比べて血管が濃く浮き出てるように見えます。どこか受診した方がいいのでしょうか。またかかるとしたらどちらの病院へ行けばいいか教えてください。
ふくらはぎ
おとといの朝起きたときに左足ふくらはぎに痛みを感じました。 その前の日に少し違和感は感じましたがそこまでの痛みはありませんでした。 現状は多少の痛みはありますが歩行や自転車に乗ることはできますが、立っている状態でじっとしていると左足ふくらはぎに強い痛みを感じそのままの状態ではいられなくなります。 寝ているときに左足を伸ばしても痛みはないのですが立っているとき足を伸ばして数秒じっとすると強い痛みがあります。 その時に左足を持ち上げると痛みが和らぎます。 歩行などの動作をしているときや横になっているときは少しの痛みしか感じません。 ふくらはぎの主に内側が腫れていまして腫れた箇所は熱を持っています。 昨日から腫れの状況はそこまで変化はありません。 右足は全く問題ありません。 少し様子を見たほうがいいかすぐに診察していただいた方がいいかご相談させていただきたいです。
仰向けで寝る時だけ呼吸が苦しい
6年前に、ストレスで呼吸を乱して救急車で運ばれて以来、たまに呼吸が苦しくなる症状が出てました。それと関連性があるのは不明ですが、2年前くらいまでは落ち着いてたのですが再発し、今形を変えて仰向けで寝る時だけ似たような呼吸の苦しさがあり、満足に睡眠を取ることができません。有名な鍼師さんの治療も甲斐無く、枕を変えたりしたもののそれも効果がなく、枕をなくしてタオルを頭の下に敷いてますが決定打とはいえず、逆に起床時に顔がとても浮腫んで体がだるいです。今の呼吸の苦しさをもっと詳しく話すと、ちゃんと息を吐くことができず、詰まってるような感覚で、徐々に胸が重くなり、血流が良くないのか頭もフワッとする感じもたまにあります。不整脈でもないと言われ、健康診断ではどこにも異常がないだけに、心療内科で睡眠薬をもらうのも根本的な治療にならず、ネットにも自分と同じ症状の人がおらず、そもそもどこの診療科に行けばいいのかもわかりません。まず何を試せばいいか、そしてどの診療科でどういった治療を受けるべきかを知りたいです。よろしくお願いします。
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