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下肢静脈瘤の手術治療のポイントとは?

下肢静脈瘤の手術治療のポイントとは?
田島 泰 先生

横須賀市立うわまち病院 心臓血管外科 科長

田島 泰 先生

目次
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下肢静脈瘤の手術治療は、基本的に、足のだるさ、むくみ、(こぶ)の痛み、下肢のけいれん、皮膚症状などの自覚症状がある場合に行います。血管が少し浮き出ていても自覚症状がない場合は、慌てて手術治療を行う必要はありません。なお、下肢静脈瘤が原因で血管が浮き出てきても、心筋梗塞(しんきんこうそく)脳梗塞につながることはありませんので、ご安心ください。

今回は、横須賀市立うわまち病院 心臓血管外科 科長の田島 泰(たしま やすし)先生に、下肢静脈瘤の手術治療についてお話を伺いました。

下肢静脈瘤の手術治療で当院を受診される患者さんは、50歳代以上の中高年の方が大半を占めます。特に女性が多く、若い頃から足のだるさや重さなどの自覚症状はあったものの、最近になって足に皮膚症状(色素沈着皮膚炎など)が出てきたことから、「これは大変だと思い受診しました」という声がよく聞かれます。

そのため、当院には皮膚科から紹介される下肢静脈瘤の患者さんが多く、皮膚科以外では、整形外科のほか、かかりつけの医師の紹介で来院される方もいらっしゃいます。

下肢静脈瘤は中高年の女性に多い病気ではありますが、30歳代以下の若い患者さんや、長年立ち仕事をしている男性患者さん、高齢の男性患者さんもしばしば見受けられます。また、下肢静脈瘤の発症には遺伝的な要素が関わっているため、血縁関係にある家族の中に下肢静脈瘤の方がいらっしゃる患者さんも多くみられます。

記事1『下肢静脈瘤とは? 症状や治療法について』でも述べたように、下肢静脈瘤の手術治療の方法は、いくつか選択肢があります。その中でも現在の主流は、血管内レーザー焼灼術(しょうしゃくじゅつ)です。

血管内レーザー焼灼術

血管内レーザー焼灼術が主流

血管内レーザー焼灼術は、血管の中にカテーテルを挿入し、逆流を起こしている血管をレーザーで焼いて閉塞(へいそく)させる治療法です。血管を閉塞させることにより、逆流する血液を遮断します。レーザーで焼いた血管は、手術後、体に少しずつ吸収されます。ほかの治療法に比べて手術による傷あとが小さく、手術後の痛みや内出血も少ないことから、体への負担を抑えられる手術です。一般的には焼灼した血管が閉塞しても静脈はネットワークが豊富ですので、下肢の血流に問題は生じません。

また、レーザーで血管を焼くときには痛みが生じるため、血管の周囲にTLA(低濃度大量局所浸潤麻酔)という特殊な局所麻酔をかけて行います。また、TLA麻酔時の痛みを和らげるための局所麻酔も必要です。そのため、麻酔の注射が苦手な方は手術を希望されないこともあります。

当院では、血管内レーザー焼灼術だけでは十分な治療効果が得られない場合、補助的な治療として、瘤切除術(りゅうせつじょじゅつ)や硬化療法などを行います。

瘤切除術

瘤切除術は、ボコボコと大きく隆起している分枝瘤に局所麻酔を行い、複数の小さい傷から血管を引き出して切除する治療法です。手術後にソバカスのような傷が残りますが、瘤を取ってしまうので、術後の皮膚のでこぼこはなくなります。しばらくの間、触るとしこりを感じたり違和感や鈍痛が残ったりすることがありますが、時間の経過とともによくなっていきます。

硬化療法

硬化療法は、静脈瘤の中に極細針(採血の針よりも細いもの)の注射で硬化剤を注入し、血管の内側に炎症を起こさせて血管を固める治療法です。注射による施術なので体への負担を抑えることができます。ただし、血管が完全に閉塞しないと、そこへ血液が流れ込んで再発する確率が高まるため、大きい静脈瘤よりも小さい静脈瘤の治療に適しています。治療後にシミが残ることがあります。

高位結紮術()

高位結紮術(こういけっさつじゅつ)は、血液の逆流が起こっている大元(大伏在静脈の根元)を縛って切離し、血流を遮断する治療法です。足の付け根(表在静脈と深部静脈の合流点)に大きな静脈瘤ができている患者さんや、かつて下肢静脈瘤手術を受けていて再発した方など、血管内レーザー焼灼術だけでは十分な治療効果が得られないと判断した場合に行います。局所麻酔で行い、足の付け根に3cm程度の傷ができます。

治療は患者さんのご希望に合わせて

血管内レーザー焼灼術と補助的療法の組み合わせは、当院では患者さんのご希望も踏まえて選択しています。一般的にはレーザー治療のみで症状の改善が得られるため、レーザー治療のみの方が多いです。レーザー治療のみの場合、治療時間そのものは20分程度です。分枝瘤が大きかったり、皮膚炎色素沈着潰瘍(かいよう)がみられたりするような進行した静脈瘤の方は、瘤切除術と組み合わせる場合が多いです。あるいは、レーザー治療の後1~3か月ほど様子を見て、分枝瘤と症状が残っている方の場合は、後日外来で硬化療法を追加することがあります。

ストリッピング術と呼ばれる治療法もあります。血管の中に手術用のワイヤーを入れ、静脈瘤の血管を引き抜く手術です。大きな静脈瘤にも行うことができ、下肢静脈瘤の根治治療の1つとして行われてきました。

当院でも以前は行っていましたが、血管内レーザー焼灼術を導入してからストリッピング術は行っていません。血管内レーザー焼灼術のほうが体への負担が少ないうえに、再発率の低さはストリッピング術とほぼ同等だからです。

欧米で先行して行われている新しい手術治療が、日本でも保険適用されることが期待されています。血管内にカテーテルを入れて接着剤で固める治療法で、“グルー(糊)治療”と呼ばれる手術です。グルー治療は治療中に痛みが出にくいので、前述したTLA麻酔を用いる必要がなく、手術時間も短く抑えられます。当院で導入するかどうかは未定ですが、新たな下肢静脈瘤の手術治療として注目しています。

下肢静脈瘤の中に生じた血栓が原因で、心筋梗塞脳梗塞になるのではないかと心配される方がいらっしゃいます。しかし、静脈瘤と脳や心臓の動脈は直接つながっていないため、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすことはありません。

ただし、下肢静脈瘤で血流が悪くなっていると、静脈瘤から足の深部にある静脈に血栓ができやすい環境がつくられます。そこに生じた血栓が肺の動脈に飛んで詰まり、呼吸困難やショックを起こす可能性はあります。エコノミークラス症候群(急性肺血栓塞栓症)と呼ばれる病気です。

エコノミークラス症候群は、飛行機などの狭い場所に長時間座っていて、急に立ち上がったときに起こりやすいことが知られています。命に関わることもある病気ですが、水分をこまめに取ったり、足の体操をしたりすることが予防になります。下肢静脈瘤の初期治療としてもすすめられる“圧迫療法”という弾性ストッキングの着用も、エコノミークラス症候群の非常に有効な予防法です。

下肢静脈瘤に合併しやすい病気としては、血栓性静脈炎も挙げられます。血栓性静脈炎は、血管が血栓で閉塞してその部分に炎症を起こす病気です。瘤のところが硬くなって熱を持ち、痛みがでてきます。そうした症状がみられたら、すぐに外来を受診するようにしてください。

下肢静脈瘤は成人の約20~40%にみられるごくありふれた病気です。そんなたくさんの下肢静脈瘤の患者さんの中には、自覚症状があっても医療機関を受診せずに悩んでいる方が多くいらっしゃるようです。女性の場合は妊娠や出産をきっかけに発症する方が多いのですが、育児や仕事に追われて受診のきっかけを失い、子どもが手を離れて仕事を退職した後は親の介護が始まり、結局、70歳代、80歳代になって初めて来院される患者さんもいらっしゃいます。そうした方たちは、治療後に「もっと早く来ればよかった」「来ようか悩んでいたけれど、やっと楽になった」とおっしゃることが多いです。ですから、下肢静脈瘤の症状で悩んでいる方は、まずは気軽に専門の医療機関を受診していただきたいと思います。

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  • 横須賀市立うわまち病院 心臓血管外科 科長

    田島 泰 先生

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