概要
コフィン・ローリー症候群とは、知的な遅れ、特徴的な顔貌、低身長、音や興奮などの刺激で誘発される脱力発作、骨の変形、先天性心疾患などを特徴とする病気です。性染色体のXにあるRPS6KA3と呼ばれる遺伝子の異常が原因とされています。
コフィン・ローリー症候群は、日本においては難病指定を受けている病気であり、出生4万人に1人程度の発症率であると推定されています。コフィン・ローリー症候群に対する根本治療法は確立されておらず、症状に合わせた対症療法が中心となります。
原因
コフィン・ローリー症候群は、RPS6KA3と呼ばれる遺伝子の異常を原因として発症します。RPS6KA3遺伝子は特に脳の形成や発達に重要であり、学習の確立や長期記憶の形成、神経細胞の生存などにかかわっていると考えられています。しかし、なぜRPS6KA3遺伝子の異常によってコフィン・ローリー症候群でみられるような全身各種臓器の症状が現れるのかは全貌が解明されていません。
ヒトの細胞には常染色体と、X・Yで規定される性染色体が存在しています。性染色体の組み合わせは性別を決定する役割を担っており、男性であれば「XY」、女性であれば「XX」の組み合わせを持つことになります。
コフィン・ローリー症候群で原因となるRPS6KA3遺伝子は、X染色体に位置しています。男性はX染色体を1本しか持っていないため、異常なRPS6KA3遺伝子を持つとRPS6KA3遺伝子のはたらきを代償することができずに、非常に重い症状を現すようになります。一方、女性であれば、異常なRPS6KA3遺伝子を示すX染色体を持っていても、残りのXが正常な遺伝子で、はたらきを代償することができるため、女性では男性に比べて、発症しないか、症状が軽くなる傾向があります。
病気の原因遺伝子であるRPS6KA3遺伝子はX染色体に位置している関係から、X連鎖遺伝と呼ばれる遺伝形式をとります。また、この遺伝形式では、女性は病気の保因者となり、お子さんに病気が遺伝する可能性が出てきます。
症状
コフィン・ローリー症候群では、全身の各種臓器に症状が現れることになりますが、神経系に関連した症状が代表的です。また男性のほうが、女性に比べて症状が強くなる傾向があります。
神経系に関連した症状として、知的運動面の発達の遅れを挙げることができます。お座りや歩行の遅れ、言語障害が見られることもあります。また、刺激誘発転倒発作と呼ばれる発作を起こすことも特徴のひとつです。この発作は、幼児期以降の20%の患者さんにみられ、何かしらの刺激(たとえば音刺激や興奮)がきっかけとなり、驚いたようになって力が抜けますが、意識は保たれます。
またコフィン・ローリー症候群では、あごが小さい、眉毛が濃い、突出した前額や長い睫毛、両目の間が広い、目尻が下がっている、厚い下口唇、小さな顎などの特徴的な顔貌を認めます。
先細りの指を代表とする骨格系の異常を伴うこともあります。また進行性に脊柱が曲がることもあり、呼吸障害を引き起こすことがあります。
生命予後を決める合併症としては、先天性心疾患、呼吸障害などが挙げられます。
検査・診断
コフィン・ローリー症候群は、RPS6KA3遺伝子の異常を原因として発症することがあるため、本遺伝子を対象とした遺伝子検査が行われることがあります。しかし、全ての症例において本遺伝子異常を伴うわけではないことに留意が必要です。
コフィン・ローリー症候群では、神経系を中心とした各種合併症を現すことも知られています。こうした合併症を確認するための検査が必要となることもあります。てんかん、先天性心疾患、脊椎症は生命予後を規定することもあり、これらを確認するための検査(脳波や心エコー、レントゲン写真など)が重要です。
治療
コフィン・ローリー症候群を根本的に治療する方法は存在していません。そのため、各種症状にあわせての対症療法が中心となります。
精神・運動の発達障害が見られることから、療育療法が必要になります。刺激誘発転倒発作は突発的に発症するため、頭部外傷などにつながる可能性があります。頭部外傷を防ぐことを目的として保護帽や車いすを使用することもあります。また、てんかんを発症した場合、抗てんかん薬を使用します。
心疾患に対しては、合併症の種類や症状の程度に応じて内服薬や手術的な治療介入が行われます。側彎などの脊椎疾患は進行性であり呼吸不全をきたすこともあるため、整形外科的な介入が検討されることもあります。
コフィン・ローリー症候群の症状は多岐に渡ります。また、遺伝性疾患としての性格を持つ部分もあるため、遺伝カウンセリングが必要となることもあります。
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