インタビュー

異物誤飲・毒物誤飲の具体例と医療機関での対応

異物誤飲・毒物誤飲の具体例と医療機関での対応
多賀谷 貴史 先生

国立成育医療研究センター 救急診療科

多賀谷 貴史 先生

この記事の最終更新は2016年08月05日です。

記事1『子どもの誤飲で注意すべき点と適切な対応とは?』では、誤飲(食べ物以外を誤って飲み込んでしまうこと)における緊急対処法と注意点についてお話ししました。今回は、具体的な原因物質や病院での対応に関して紹介します。最近の話題や統計的な傾向についても含め、引き続き、国立成育医療研究センター救急診療科の多賀谷貴史先生にお話しいただきました。

  • コイン
  • 玩具(おもちゃ)の細かい部品
  • シール
  • ボタン
  • ボタン型電池
  • 親のアクセサリー(指輪、ピアス、宝石など小さなもの)

●PTPシート

 錠剤タイプの薬が包装されているプラスチック製のシート。消化管を傷つけ、穿孔の危険がある。

PTPシートを使用している薬
PTPシートを使用している薬

 

●高吸水性高分子(高吸水性ポリマー)

ビーズの玩具、消臭剤、園芸用品などに用いられており、水を吸うと数倍に膨らみ、腸閉塞の原因となる。

高吸水性ポリマー&使用例
高吸水性ポリマー&使用例

 

食道に停滞している異物は内視鏡や透視下での摘出が原則となります。

食道を通過して胃以降にある場合は、記事1『子どもの誤飲で注意すべき点と適切な対応とは?で述べたように自然排出が期待できるため、原則は経過観察となります。ただし、5cm以上の長さのもの(クリップや髪留めなど)や、裁縫の針などの鋭利な異物は、閉塞や穿孔を来す可能性が高いため、内視鏡にて摘出が必要とされます。

また、これ以外の特殊なケースとして、PTPシートや高吸水性樹脂、2個以上の磁石を誤飲した場合は、食道を越えて胃以降にあっても直ちに摘出します。また、全例ではないものの、ボタン電池も、症状・子どもの年齢・ボタン電池の大きさ・停滞時間などに応じて摘出を考慮します。

緊急性の高いものとしては、以下の物質が挙げられます。

  • 降圧薬(βブロッカー、Caチャンネルブロッカー)
  • 抗うつ薬(フルボキサミン、パロキセチンなど)
  • 抗精神病薬(メチルフェニデート、フルニトラゼパムなど)
  • アセトアミノフェン(鎮痛剤に含まれる成分)

など

医薬品には、大量に飲むと肝障害などの臓器障害を引き起こす薬剤もあります。子どもは体格が小さいため、少量でも強く効き過ぎてしまいます。また、大人が同じ量の薬を飲んだ場合よりも内臓への負担が大きくかかります。PTPシートの誤飲も報告されており、医薬品の管理は特に注意する必要があります。

**医薬品誤飲の増加について**

子どもの誤飲事故は2013年度には531件とされており、2012年度の385件よりも146件増加しています。

誤飲の原因物質は2012年度までタバコが最多となっていました。しかし、2013年度は医薬品の誤飲が一位となり、2012年度よりも39件多く報告されています。これだけ医薬品による誤飲事故が増えているのです。この事実を、医療機関・親御さん双方が理解しておく必要があります。

2012年度(平成24年度)

2013年度(平成25年度)

 

件数

 

件数

タバコ

99

25.7

医薬品・医薬部外品

96

18.1

医薬品・医薬部外品

57

14.8

タバコ

94

17.7

プラスチック製品

40

10.4

プラスチック製品

60

11.3

金属製品

36

9.4

玩具

51

9.6

玩具

33

8.6

金属製品

50

9.4

洗剤類

16

4.2

硬貨

25

4.7

電池

16

4.2

電池

20

3.8

硬貨

15

3.9

食品類

19

3.6

食品類

12

3.1

化粧品

17

3.2

紙製品

8

2.1

洗剤類

16

3

上位10品目 計

332

86.4

上位10品目 計

448

84.3

総数

385

100

総数

531

100

(2013年度 「家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告」より一部引用 ※全国7施設の皮膚科医及び全国9施設の小児科医が厚生労働省に事例を報告した数)

医薬品以外で緊急性の高いものとしては、以下の化学物質が報告されており、注意が必要です。

  • マニキュアなどの除光液
  • 灯油
  • 漂白剤
  • 殺虫剤(有機リン製剤、クレゾール)、
  • 除草剤(パラコートなど)
  • 防虫剤(しょうのう)
  • ネズミ駆除薬
  • 花火

薬品の成分によっては、意識障害やけいれんを起こしたり、呼吸障害を生じたりする場合もあります。

ニュース等でも伝えられているように、洗濯用パック型液体洗剤の危険性が注目されています。子どもが誤って口に入れ、フィルムが破れると、内部の液体洗剤を誤飲することになり、嘔吐、呼吸困難、意識障害などの症状が生じる場合があります。

代表的な洗剤用パック型液体洗剤
代表的な洗剤用パック型液体洗剤

飲んだ量が少量で、毒物の性質や症状から危険性が低いと判断した場合は、院内でしばらく経過観察を行ったのちに帰宅となることもあります。患者さんが毒物を経口摂取後1時間以内で大量に誤飲した疑いがある場合や、毒性の高い物質を摂取した場合には、胃洗浄(いせんじょう:口から胃へチューブを挿入し、胃内を洗浄、胃内に存在している薬物を吸引すること)が行われます。誤飲後1時間以上経っているようであれば、下剤や活性炭を使用して、腸からの排出を促します。誤飲した化学物質の含有成分が原因で中毒症状を起こしている場合は、症状に応じた拮抗薬を使うこともあります。また、最重症例では、血液浄化療法(血液透析など)を行う場合もあります。

 

「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。

 

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